第36回「みぎわ賞」受賞作品
〈山田富士郎選〉

 昭和のかたち  山本 栄子

大釜に火を点けるのは父の役記憶の中に母はいなくて
蒸けたぞ!の声にわらわら寄りて来る厨の裸電球の下
餅搗きを見せる児などはいないから又薄れゆく父のおもいで
石臼も杵も出さずに歳晩を機械にまかす大鏡餅
結界のごとも〈人形〉(ひとがた)貼りてゆくトイレ・物置・トラクターにも
味噌部屋の壁に古りゆく飯盒はつくづく昭和のかたちと思う
鉄屑に紛れてしまうことことと豆を煮た日の母の鉉鍋
両親を送りし白木の灯籠が火を吹き上げるお焚上げの火
菩提寺の除夜の鈍撞き理由にし年越し麻雀断りている
バス停に座りごこちの良さそうな石ひとつあり冬日を受けて
外つ国の母子(おやこ)もどんどの火を浴びて焼いも甘酒ふるまわれおり
梅ヶ枝に刺す紅白の団子花どんどの熾火に翳しておりぬ
山門の大提灯に火の入りて寒中修行は今日で十日目
寒行に唱うる「妙法蓮華経」口内炎が又疼き出す
寒行の寺出でし時オリオンをよぎる一機のまたたきが見ゆ
山寺の四〇〇年の百日紅梢に白き月をあそばす
花豆がふっくら煮えて寒行は今宵をもちて成満となる
福豆を煎りつつ母が口遊む「ハトノクチヤケクチヤケペッペ」
菩提寺の鬼遣らいには鬼が居ず開運熊手担ぎて帰る
〈オールナイトニッポン〉いまだ健在で〈しらほねの湯〉に手足伸ばす