2026年3月号(VOL.44)NO.428 河野小百合 選
| 初場所の土俵に並ぶウクライナ、モンゴル、ロシア、日本の力士 | 小 林 あさこ |
| やるときはやらねばならぬと利かぬ脚ぽんとたたきて大根を掘る | 加々美 薫 |
| 落ち葉するメタセコイアのレンガ色家族写真のシャッターを持つ | 佐 田 美佐子 |
| 居を畳み明日は去りゆく隣人に水仙一輪届けて来たり | 渡 辺 淑 子 |
| 冬の枝に天蚕まゆの若みどりすずめ気付かずからす気付かず | 古 屋 順 子 |
| またしても認証されない指のさき冬の指紋はわたしではない | 荒 居 千 織 |
| 千年を生きてざらつく切り株を撫でやるように春の浅き陽 | 飯 塚 益 子 |
| 石垣の割れ目に咲いた仏の座春の息吹を農具に伝う | 横 内 進 |
| ことことと輪切りの大根鍋の中湯加減いかがと聞きたくなりぬ | 斉 藤 さよ子 |
| 冬の朝湯になるまでの冷たさのやわらぎしばし愉しんでいる | 山 下 愛 子 |
| 真夜中に天下御免のからっ風唸りを立てて雨戸に当たる | 藤 原 三 子 |
| 胸にある大きな空洞なんぞやと冷たき朝の空を見上げる | 廣 瀬 由 美 |
| 縁側に寝そべって見る庭の景違う世界の入り口が開く | 渡 辺 治 |
| スニーカー羽根が生えるか箱根路の選手数人「翔」が名前に | 岡 田 喜代子 |
| 二時間が惜しむ間もなく過ぎてゆく夫の生命の杖なる友ら | 浅 川 節 子 |
| 理科室の窓にイチョウの散りやまず沸騰温度を子らは見つめる | 飯 野 みゆき |
| 三ヶ日と愛媛と有田、店先のみかんで今日は旅するここち | 磯 山 千 秋 |
| ポストまで近道をする年の瀬を妨害獣の爆竹ひびく | 寺 田 富 子 |
| 美しき袱紗の捌きさながらにストーマパウチを処理するナース | 日 沼 よしみ |
| よく聞けば日本語なんだ赤信号を待ってる少年たちの早口 | 川 上 尚 |
2026年2月号(VOL.44)NO.427 河野小百合 選
| 靴脱ぎて入る図書館は冬の陽がうたたねしおり書架の間(はざま)に | 佐 藤 利枝子 |
| 紙袋かさかさ鳴るを聞きつけてホームの鳩が足元かこむ | 望 月 迪 子 |
| 取り入れの済みし畑に石灰の白じろ播かれ三ちゃんが立つ | 久保寺 弘 子 |
| 白樺の林をわたり風の鳴る戻らぬ友の声とも思う | 角 野 成 子 |
| 花水木いろはもみじに銀杏の葉生きたあかしの色に散りいる | 坂 本 芳 子 |
| そで口を濡らし大根こすってはまたこする児に秋の陽そそぐ | 飯 塚 益 子 |
| 秋雲をほどきて散らしてまた嵌める空という名の果てなきゲーム | 秋 山 久美子 |
| 冬枯れのメタセコイアの枝枝は水煙のごとく朝日を透かす | 伊 藤 千永子 |
| 制服のズボンの丈がつんつるてん中二の男子小走りに行く | 永 田 はるみ |
| 屋根の霜朝日に砂金のごと光り女性総理にエールをおくる | 佐 藤 幸 子 |
| 亡き父の足踏みミシン年の瀬に査定はゼロで引き取られたり | 仙洞田 紀 子 |
| アメイジング・グレイス奏でる駅ピアノ両手の荷物ふと軽くなる | 西 村 鈴 子 |
| 金色の夕陽のひかり真っ直ぐに凪の湖水の小舟にとどく | 樹 俊 平 |
| 石だたみに血染めの紅葉散りしかれ吐く息白き西明寺の坂 | 鈴 木 憲 仁 |
| 物かげでレシート開きポイントに夕餉のメニューひと品増やす | 福 田 君 江 |
| 西島のイルミネーションまた増えておもてなしほどに月光(つきかげ)がさす | 笠 井 美 鈴 |
| 冠雪は三度めとなる八ヶ岳馬も通った〈棒道〉をゆく | 寺 田 富 子 |
| 身を反らしスマホに指をすべらせるバギーの幼は泰然として | 笠 井 令 子 |
| 「日向ぼこしながら食べて」とメモのあり介護する吾のブレーキとして | 澤 口 しずく |
| 高太郎の駱駝にも似て屋上に冬のかなたを見るサラリーマン | 高 橋 久仁子 |
2026年1月号(VOL.44)NO.426 河野小百合 選
| 玉砂利の白きひかりを葉にうつし参道脇に榊つらなる | 中 山 恵 理 |
| こもごもに笑顔泣き顔つかい分け夫と婿との新盆を終ゆ | 古 屋 順 子 |
| 庭石が予報通りに濡れている障子を開けて気づく秋雨 | 小 林 あさこ |
| 隣組に轟くながきクラクションいのち終焉のさまというべし | 荻 原 忠 敬 |
| 少しだけサイズのちがう後ろ影ふたつならんで飽かず砂掘る | 浅 川 清 |
| そろそろを飛び立ちたいと思う朝あなたの水面をすこし歪ませ | 保 坂 真寿美 |
| くも間からこぼれるほどの空色のあさがお咲(ひら)くそらの匂いに | 飯 塚 益 子 |
| 如意輪の頬にはセミの抜け殻が酷暑を共に過ごしたゆえに | 田 丸 千 春 |
| 鍬の柄を握る力がある手持つマニキュア指輪も持たないけれど | 山 下 愛 子 |
| ハイヒールを軽く響かせ高市早苗明るく上がる古き階段 | 内 藤 のりみ |
| この鼻はパパの子だねって笑い合う孫との対面まずはスマホで | 廣 瀬 由 美 |
| おぼつかぬ夫をささえて歩く道息づぎのごと見あぐ青空 | 西 村 鈴 子 |
| 生まれ家を片付けはじめ亡き母の小さき帽子をふふっとかぶる | 清 水 ひろみ |
| 柿の実を狙っているは猿たちかはたまたカラスもしかして熊 | 堀 内 澄 子 |
| 幾度かの洗いに耐えておのずから編目のそろう手編みのセーター | 詫 間 妙 子 |
| 喜寿はまだ女ざかりと笑まう友 皇帝ダリアが揺らめいている | 日 沼 よしみ |
| 高市氏は女性初なる総理なりレモン彗星あおき尾をひく | 笠 井 美 鈴 |
| 杉の香の青森酸ヶ湯の千人風呂見てはまいね見せてもまいね | 高 橋 久仁子 |
| 秋薔薇の色こく香りたつ朝は寒暖差疲労のおさまりている | 山 本 コウ子 |
| マーラーと賢治を教えてくれし人亡けれど空の秋澄みわたる | 大 柴 文 枝 |
2025年12月号(VOL.43)NO.425 河野小百合 選
| 家じゅうの窓開け放ちカレンダーに何も書かれぬ今日をはじめる | 中 澤 晃 子 |
| 読みさしの頁に響くシンフォニー窓に銀杏の葉の揺れやまず | 中 山 恵 理 |
| 十五夜のだんご泥棒ゆるされてさまざまな手のさまざまな味 | 砂 原 よし子 |
| 羽根つきのリュックを背負いおさなごはエスカレーターのぼっておりて | 川 井 洋 二 |
| ありったけの大口あけて欠伸するこの猫われの空気まで呑む | 三 沢 秀 敏 |
| 形なき形をなしてビニールの袋が吊るさる樫の梢に | 角 野 成 子 |
| 駆け足で寄って来たらし夫の老い今朝むらさきの朝顔ひらく | 永 田 はるみ |
| 外ッ国の人らで埋まるカウンター店のおかみの片言英語 | 小佐野 真喜子 |
| 秋風は木々の翻訳 ささやきをまちに零して過ぎ去ってゆく | 荒 居 千 織 |
| 炎天下うごきがさらにゆるやかにグラウンドゴルフの音がころがる | 飯 塚 益 子 |
| 荒畑にコスモス植えて過疎の町今日野良道にカメラマン集う | 横 内 進 |
| オカリナの伴奏に乗る合唱にかすれ声出し“小さい秋みつけた” | 岡 田 喜代子 |
| 爪先の少し剥がれたスパイクが試合の朝に揃えてありぬ | 堀 内 和 美 |
| それぞれに役割があり諫める人慰める人の長男・二男 | 保 坂 真寿美 |
| ひとやすみ誰でも何時でも受け入れる軒の深さは宿(しゅく)のやさしさ | 田 丸 千 春 |
| 桂の葉ざわりと落ちる風の日に納税還付の通知はとどく | 山 本 コウ子 |
| 厄除けのからすが抱くこの朝のおみくじにあり「目を逸らすな」と | 磯 山 千 秋 |
| 付箋貼る理由があったページから付箋をはずし雲を見上げる | 川 口 裕 子 |
| 冷やし中華の日には取り出すガラス皿マーガレットをふちにめぐらす | 飯 野 みゆき |
| 柿の木は背負いきれずに地に落とす枝に残れる数個の実り | 詫 間 妙 子 |
2025年11月号(VOL.43)NO.424 河野小百合 選
| エジプトの壁画はなべて横を向き石破首相が退陣きめる | 中 澤 晃 子 |
| 尋ねれば即答をするAIはまことしやかに嘘をつきたり | 佐 藤 利枝子 |
| 「異状なし」は物足りないが内視鏡おえてベッドの下に降りたり | 米 山 和 明 |
| 桃出荷に追われて帰る湯船には溢れるまでの湯が沸きており | 荻 原 忠 敬 |
| 体調はまずまずと記すデイ日誌遠く子育ての続きのように | 大久保 輝 子 |
| カラフルな小花模様の杖が来てあいさつ交わす短歌教室 | 浅 川 清 |
| 列島ががまん比べをするように最高気温に順位がつきぬ | 飯 塚 益 子 |
| バラ園の花も小さく葉も疎ら猛暑の夏の焦げめのようだ | 望 月 壽 代 |
| 炎天の道路(みち)に立つ人どの人もぷっくりふくれたベストを着けて | 伊 藤 千永子 |
| 寝返れば戦火に焼けるわが家の七夕飾りゆらめいている | 内 藤 のりみ |
| つかの間をホバリングして秋茜飛んでゆきたり空の青さへ | 保 坂 真寿美 |
| 子は去りて静まる午後のリビングに入道雲の白のたくまし | 佐 野 可主子 |
| この夏の猛暑をのりきる策として「鉄腕アトム」を心に流す | 廣 瀬 由 美 |
| 大戸屋の魚定食ぴかぴかの〈奇跡のサンマ〉が運ばれてくる | 尾 野 深紗子 |
| 言ベンでわびると書いて詫間です電話に深くこうべたれいつ | 詫 間 妙 子 |
| ゆたゆたと稲穂は風になびきたり今日の重みに揺れかたを変え | 笠 井 美 鈴 |
| 戦友のお参り受けることも絶ゆ名刺入れおくわが叔父の墓 | 笠 井 令 子 |
| 雨音は秋の足おと目覚めたる布団のなかに足摺りあわす | 川 上 尚 |
| みそ汁に飯入れすする夫いて振り向くことなく逝ってしまえり | 飯 野 妙 子 |
| 襟もとに力任せにアイロンを押し当てている入院前夜 | 磯 山 千 秋 |
2025年10月号(VOL.43)NO.423 河野小百合 選
| 夏空の尖りガラスのような光(ひ)が玄関出れば痛く射しくる | 佐 田 美佐子 |
| 百日紅は休んでいってと言う様に木陰に風をさっとよびよす | 室 伏 郷 子 |
| 今もなおノーモア広島そしてまたノーモア長崎まだまだ続く | 赤 岡 奈 苗 |
| けだるさを少しにじませすれ違う夏休みの子ら塩素の匂い | 望 月 迪 子 |
| テーブルに頭の数だけ並ぶ茶を飲む人もなく集会終わる | 三 沢 秀 敏 |
| 生ぬるい蛇口の水がなまぬるいままに二合の米とぎ終える | 飯 塚 益 子 |
| 使うことも捨てさることも出来ず置く漬物石にとんぼがとまる | 仙洞田 紀 子 |
| ぶなの木と目線が合って「やあ、どうも」ツリーハウスに森を見渡す | 浅 川 清 |
| 稲を這う風の音から秋めいて稲穂は少し傾いており | 荒 居 千 織 |
| 筋斗雲を乗せてるようなハイエース、ルーフボックスに夏つめこんで | 石 川 なほ子 |
| 手の平を耳の後ろに立てているワンスアゲイン夫のシグナル | 浅 川 節 子 |
| 黄の花はプラゴミになるのだろうね刺身パックにひらく一輪 | 岡 田 喜代子 |
| 吾も又鶏になり古古・古古と古古・古古・古古と米屋へ急ぐ | 広 瀬 久 夫 |
| ひまわりの化粧まわしの安青錦故国の花が土俵に映える | 藤 原 三 子 |
| 民主主義という名の下の独裁者いつまで続く猛暑の夏は | 田 村 悟 |
| 原発がターゲットになるこれの世の乳歯に残るストロンチウム | 澤 口 しずく
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| 紋黄ちょう紋白ちょうが飛び交いぬ白ファーストとはだれも言わない | 笠 井 美 鈴 |
| 枝豆の色よき青を笊にとりきょうの運勢指にひらきぬ | 山 本 コウ子 |
| 亡き夫の農事作業のノート開(あ)け今朝も息子は指でなぞれり | 飯 野 妙 子 |
| 「ロシアより愛をこめて」ははるかなりロシアの地震に津波おし寄す | 梶 原 富 子 |
2025年9月号(VOL.43)NO.422 河野小百合 選
| いま地球(ほし)は何色をして浮かびいんひとりのサインで変わるグローブ | 佐 野 可主子 |
| 「点検中」の張り紙古りてスーパーの今も動かぬエスカレーター | 望 月 迪 子 |
| 梅雨入りをしたとかとたんに明けたとか白い刺繡の日傘をひらく | 中 澤 晃 子 |
| 亡き母の文机深くしまわれていたるは家計日誌絶筆 | 荻 原 忠 敬 |
| 猫じゃらしといっしょに育った玉ねぎのどれもこれもがLLサイズ | 砂 原 よし子 |
| 白加賀を伐りし空き地の石がきに忘れ置かれし脚立が錆びる | 堀 内 久 子 |
| モンゴルの大草原をかけるごと二胡が競馬の曲を奏でる | 佐 藤 幸 子 |
| 大盛りのカレーに卵をぶっかけて男はけだるきため息を吐く | 秋 山 久美子 |
| この風も草の匂いも描けたなら畦にこしかけパレットひらく | 浅 川 清 |
| オブラート重ねたような夏の昼そらへ飛べない風が彷徨う | 荒 居 千 織 |
| 月光に白くかがやくアナベルが家人のごとく待ちておりたり | 角 野 成 子 |
| 「ねえ聞いて」相談相手は雲の上だけど話せば心は軽く | 廣 瀬 由 美 |
| 李捥ぐ捥ぎ機は杖に丁度いい畑に振るうわが二刀流 | 広 瀬 久 夫 |
| 渓谷に射し込む夏の陽を揺らす川の山女に釣糸を投ぐ | 甘 利 和 子 |
| 割り勘のあの夜のおつりペイペイにチャリンチャリンと送られてくる | 高 橋 久仁子 |
| 黒沢川の真昼の青き田に棲めるタニシの歩みはラルゴなりけり | 清 水 ひろみ |
| 熱帯夜を通りぬけゆく風の道畳に夫はながながと寝る | 津 田 幸 子 |
| 七夕の吹き流し揺れるフロアーに甲州弁の体操をする | 笠 井 令 子 |
| 目配せで妻があっさり折れてくる夏空かすめるこのほろ苦さ | 樹 俊 平 |
| 娘らのいなくなりたるキッチンに宙ぶらりんに下がる竹笊 | 詫 間 妙 子 |
2025年8月号(VOL.43)NO.421 河野小百合 選
| 葉ごもりの白き椿の一輪が春の終りの風つかまえる | 渡 辺 淑 子 |
| うす青く染まりて土にしみゆけりラベンダー畑に降る夏の雨 | 加々美 薫 |
| 雨雲の離れし尾根の連なりをくじらみたいと少女ら笑う | 中 山 恵 理 |
| 山鳩が早くはやくと鳴くけれどジベ処理するには悪しき雲ゆき | 久保寺 弘 子 |
| 玄米を一日四合食うという賢治に負けず古古古米食う | 米 山 和 明 |
| 公園の白き牡丹を撫でつつむ白杖の女性(ひと)にひかりがそそぐ | 飯 塚 益 子 |
| 傘マークずらり並びて梅雨に入る小梅は尻をほのりと染めて | 秋 山 久美子 |
| 右の目のまつ毛の上にブドウ花払いてもまた払いてもつく | 丸 茂 佐貫子 |
| 鏡田をみどりいっぱい染めながらスキップをしてわたりゆく風 | 佐 藤 幸 子 |
| 六月の川は思春期 感情の泡を立てたりすぼめたりして | 荒 居 千 織 |
| 口数の少なくなった君の背に牧丘の山も声かけられず | 廣 瀬 由 美 |
| 手カンナを並べて置いてお茶休み揃いのコップに麦茶を注ぐ | 尾 野 深紗子 |
| 赤じそをシルバーカーで運ぶ人母との梅漬け思い出させて | 田 丸 千 春 |
| ばらの園近くに会いたき人のいてきっと畑に種をまいてる | 岡 田 喜代子 |
| 梅の実が膨らんでゆく雨の日に長嶋茂雄逝ってしまえり | 堀 内 和 美 |
| 日程を引き算足し算やってみる繰り下がり多きわたしの暮し | 大 柴 文 枝 |
| たった今夕陽に染まる自販機に地産地消のトマトが並ぶ | 磯 山 千 秋 |
| 初対面の人ばかりなる職場へは桜のトンネル通って向かう | 飯 野 みゆき |
| マンションの人工池の鴨七羽若葉のころを一羽となりて | 塚 本 裕 子 |
| 大谷さんは父親リストに名をつらね桑の木いっきに新芽がめぶく | 渡 辺 さちえ |
2025年7月号(VOL.43)NO.420 河野小百合 選
| さみどりを縦列駐車するようにそら豆みっつ莢におさまる | 佐 藤 利枝子 |
| 遅く出て早く終わりし畑仕事これもリハビリ空気が美味い | 赤 岡 奈 苗 |
| 運転免許返しし褒美にタクシー券三十枚が送られて来つ | 鈴 木 源 |
| ゆるぎなく勝利宣言するように房をかかげて山藤が咲く | 中 澤 晃 子 |
| 田植より七日の苗はハッキリと意志もち始む風に向かいて | 望 月 迪 子 |
| つくねんと庭に屈めばすずめ等はかたまりにすぎぬ我に寄りくる | 秋 山 久美子 |
| あれはなんと祖母の着ていた着物らし藤紫の妹の作務衣 | 伊 藤 千永子 |
| 川の面は静かに暮れて吾が里の人の息吹も流れゆくよう | 山 下 愛 子 |
| 若葉の香空の青さを乗せたまま迷うことなくつばめの来たり | 内 藤 のりみ |
| 手に握る雪たちまちに溶けだしてコイン消したる手品師のよう | 飯 塚 益 子 |
| 言うべきを言わずに帰る春の夕こでまり白く薄闇に浮く | 堀 内 和 美 |
| 黒揚羽黄揚羽と会うみどりの日生命はばたく田舎で生きる | 浅 川 節 子 |
| さみどりの絵の具をちょっと足すようにポテトサラダにアスパラ添える | 尾 野 深紗子 |
| 幾度もレシートを見る「唐揚」が卓にはのらず今頃どこに | 福 田 君 江 |
| 連休明け今を時めく米づくり気合を入れてやるぞ今年は | 杉 山 修 二 |
| 舂米(つきよね)は南山梨に括られて初採りわらび柔く煮えたり | 笠 井 美 鈴 |
| 青々ともみじ透きいる猿橋のはね木迫り出す風の道見ゆ | 山 本 コウ子 |
| 一息に力まかせにホチキスをくしゃんと押して春を逝かせる | 川 上 尚 |
| 悲しみに番号つけて私の引き出しふかく閉じ込めている | 安 藤 初 美 |
| エンジンのかからぬ車と言われたる五十年前と今もかわらず | 大 柴 文 枝 |
2025年6月号(VOL.43)NO.419 河野小百合 選
| 堤防をふみかためたるリズムにてそこだいそこだい神輿の踊る | 佐 藤 利枝子 |
| 来世でも桃の農家であるような冬空の下鍬を振りおり | 荻 原 忠 敬 |
| 介護より解放されて夏がくる八十五歳何ができよう | 古 屋 順 子 |
| 朝の日にぶどう樹液はかがやいて生命の水を落としはじめる | 砂 原 よし子 |
| 笊いっぱい豌豆つみて今日はもう何もしないでいい日と決める | 堀 内 久 子 |
| 春風に乗って飛びゆくしゃぼん玉ミケのみみにもポチのはなにも | 浅 川 清 |
| 古(いにしえ)の田の風が吹くこの春に夜もあかるい倉庫あらわる | 荒 居 千 織 |
| 我が家は間口三間奥深く落語のような土地に建ちたり | 保 坂 謹 也 |
| 春の夕おみな三人の円陣に回覧板ごと吸い込まれたり | 石 川 なほ子 |
| コストコにエンジン吹かす列のでき神社の狛犬鼻ひくつかす | 飯 塚 益 子 |
| 岩のごとアフリア像は横たわり薄目をあけて人間を観る | 西 村 鈴 子 |
| 気まぐれな風のようなる三人は古民家カフェのランチにそよぐ | 佐 野 可主子 |
| 待っていてくれるかしらん雪解けの雑木林に「春の妖精(スプリング・エフェメラル)」 | 堀 内 澄 子 |
| しなやかに空にのびたる青竹の縦の直線迷いを消しぬ | 鈴 木 憲 仁 |
| いさかいし前日の夜を消すようにキーマカレーの匂いが残る | 磯 山 千 秋 |
| 喜久乃湯の西むこうには電線に絡まれながら甲斐駒が立つ | 高 橋 久仁子 |
| 「香りって嗅ぐのでなくて聴くものよ」亡き友と来し目黒川(めぐろ)の桜 | 清 水 ひろみ |
| 春はまた夢の扉をあけて寝る犬と兎も入れるように | 川 口 裕 子 |
| 山道をゆっくり登る傍らを二十年前の我が越しゆく | 一 瀬 謙一郎 |
| お赤飯に添う葉南天、四月には支援学校に通うと告げて | 笠 井 令 子 |
2025年5月号(VOL.43)NO.418 河野小百合 選
| 和菓子屋の自動ドアにはぺったんと小さき手跡待てなかったね | 廣 瀬 由 美 |
| はるかぜのように社会科見学のかたまりが来てかたまって過ぐ | 中 澤 晃 子 |
| ぼんやりと本のページをめくってる思い出という厚い絵本の | 小 林 あさこ |
つれづれに君に書きいる一筆便さくら咲くまでつづきますよう
| 古 屋 順 子 |
| 西空に天使の階段(はしご)三筋たつどれを登ればあなたに会える | 坂 本 芳 子 |
| 金つぎの小川流るるこのカップ十五年余の眼りを覚ます | 佐 田 美佐子 |
| 赤と銀を選びて二羽の鶴を折る叔母の柩がここに着くまで | 仙洞田 紀 子 |
| いちめんの畑にすわるホトケノザ空に脂蝋の息吹きながら | 荒 居 千 織 |
| 積み上げて背丈ほどなるアルバムを春の廊下に選別はじむ | 佐 藤 幸 子 |
| 我はただトンカツ揚げるただ揚げる入試前夜の雪の静けさ | 秋 山 久美子 |
| ときめきを置いてきたらし幾日は伸びてゆくのは我が爪ばかり | 永 田 はるみ |
| 夫は内田康夫(やすお)吾は松本清張(せいちょう)読む夕べ戦い前の静けさに似る | 甘 利 和 子 |
| やさしくなれぬ日だってもある一冊を若い母なるあなたのために | 保 坂 真寿美 |
| 「戦争になるやもしれんぞ」小六の時に聞きたる父の声だが | 浅 利 尚 男 |
| かくかくと入れ歯差し込みにっとするなりたくなかった私になりぬ | 堀 内 和 美 |
| 簡単なようで手順のある煮物ぐつぐつ言って二月が終わる | 川 上 尚 |
| 懸命に記しし書類に娘(こ)はぱっとわが誤りを指摘するなり | 土 橋 三 枝 |
| この朝の淡き光をとおし咲く薄い硝子のような蝋梅 | 大 柴 文 枝 |
| ためらいて雨にしもどる雪あらん空の暗さに手を差し入れる | 詫 間 妙 子 |
| 鉄鍋の内耳を弾くムール貝あやまたきこと二つ浮かび来 | 山 本 コウ子 |
2025年4月号(VOL.43)NO.417 河野小百合 選
| のっぷいの土地に育ちし大塚人参いろも香もよし刻む音よし | 久保寺 弘 子 |
| 戦力か非戦力かはわからない三年目となるバイトに向かう | 米 山 和 明 |
| 福祉課の家族介護の講座には元気な老人寄り集いくる | 日 向 敬 子 |
| 深耕を終えし桃畑霜月の月光浴びて落ち葉の光る | 荻 原 忠 敬 |
| 冬枯れのぶどう畑に煙立ち姉さんかぶりが見えかくれする | 古 屋 あけみ |
| 冬枯れのネコジャラシまた揺れている歩幅小さく老いてゆくべし | 角 野 成 子 |
| 鋭角に翼を傾け冬空を鳶の一羽が旋回をする | 斉 藤 さよ子 |
| 切干しの皺深めつつ香をまとうからから天気に寒波も来たり | 山 下 愛 子 |
| 陽射し受けソフトボールの玉のようブロッコリーいくつ葉陰に覗く | 望 月 壽 代 |
| ニュートラルのままにゆっくり坂道を下りゆくよう七十代は | 浅 川 清 |
| ノンアルのカクテルすでに三杯目酔った気分でおしゃべり弾む | 堀 内 澄 子 |
| 鳩が餌をついばむように朝刊の論説記事を拾い読みする | 尾 野 深紗子 |
| 「鬼は外」小さな声で三粒投げ最強寒波の鬼を気遣う | 田 丸 千 春 |
| 受付をマイナカードでせし夫はご褒美にアメひとつをもらう | 福 田 君 江 |
| スーパーの値段を見つめにやりとす畑に残る大根キャベツ | 杉 山 修 二 |
| たちまちに心配さるる身となりて青葉のなかの吊り橋わたる | 詫 間 妙 子 |
| 脂性のわが手と妻のひびわれの手がきさらぎの夜に触れいつ | 樹 俊 平 |
| 北陸は豪雪ならん乾ききる堰に迷える冬の鳥たち | 笠 井 美 鈴 |
| だからこそラガーシャツにはゴムボタンそれがトラッド百年前から | 小久保 佐智子 |
| 独り居の老婆と道に語らいぬ互いにじゃあとは言いだせぬなり | 渡 辺 さちえ |
2025年3月号(VOL.43)NO.416 河野小百合 選
| 七日間の入院終えて観るニュースどの戦争も終わっていない | 小 林 あさこ |
| 星一つ受け取るような三日月はおぼろのままに消えてしまいぬ | 赤 岡 奈 苗 |
| 道祖神まえに集まり君が代をアカペラで歌う年賀の集い | 川 井 洋 二 |
| 軽トラの前を横切る沢蟹の通りすぎるを待つ野良の道 | 三 沢 秀 敏 |
| しまったと見開いた眼よ大まぐろ命の果ての二億であるか | 渡 辺 淑 子 |
| 玄関に置かれしままの祖父の杖きょうは幼の鉄砲となる | 角 野 成 子 |
| 不機嫌をまとうあなたの背(せな)に射すヘッドライトは驟雨のように | 荒 居 千 織 |
| 天空を一直線に切り込んでふたつに分けし機体は消える | 保 坂 謹 也 |
| ゆっくりと歩き始めはゆらゆらと犬に連れられ散歩するなり | 武 田 東洋一 |
| あれやらなこれもやらなと言う吾に「何をせずとも正月は来る」 | 武 藤 睦 子 |
| 肉まんが手に温かい朝七時 実家の片付けまだまだ半ば | 廣 瀬 由 美 |
| むらさきの皇帝ダリアがゆっさりと花を咲かせる秋の終りを | 堀 内 澄 子 |
| 年賀状100枚の返信30枚物価の値上げ社会を変える | 横 内 進 |
| 一年の積もる話を詰め込みて正月帰省の息子のリュック | 福 田 君 江 |
| ようやくに治りかけては疼く膝パソコンのキー戻すを押さん | 佐 野 可主子 |
| 亡き友に会いたい日には履くらしい赤い靴あり玄関の隅 | 澤 口 しずく |
| 孫に似る「スタンド・バイ・ミー」の少年を年の始めにひとり見ている | 梶 原 富 子 |
| ベトナム人らしきカップル庭先にナベやカマ干し出勤したり | 詫 間 妙 子 |
| 何ひとつ変わらぬ新年この朝はしずかに赤子を抱かせてもらう | 渡 辺 さちえ |
| マンションのエレベーターに乗り合わせ一人暮らしの正月を聞く | 塚 本 裕 子 |
2025年2月号(VOL.43)NO.415 河野小百合 選
| 関節をゆっくりのばす音をさせ冬陽に家は背伸びをしたり | 佐 藤 利枝子 |
| ころばぬよう詰まらせぬよう一時間やさしい講和にまた年をとる | 望 月 迪 子 |
| 大皿のあじさい青き釉薬を汚していなりの一つ残りぬ | 加々美 薫 |
| これからは肝に銘じる年相応セグロセキレイひょこひょこ歩む | 堀 内 久 子 |
| 外灯の光背にするウォーキング影は先へと横町まがる | 佐 田 美佐子 |
| 傷のないドングリ七個手の平に擦り合う音も軽やかにして | 飯 島 今 子 |
| 霧の中微かに見える橋の影単車の爆音高く響けり | 武 田 東洋一 |
| 隣国と何故に平和を築けぬか何故を残して今年も暮れる | 内 藤 のりみ |
| 掌(て)に余る大きな渋柿五百個を一人で皮むくたどたどとむく | 武 藤 睦 子 |
| おだやかに生きてゆくのに丁度いい少しちいさいコタツに入る | 秋 山 久美子 |
| 友の住む「字富士山」を訪ねれば蜜柑のような余生がありぬ | 堀 内 和 美 |
| 一夜明け庭に積もりし枯葉の山箒に測る今朝の寒さを | 横 内 進 |
| 京都では京都の空を見上げてる飛行機雲は左の方へ | 廣 瀬 由 美 |
| 柿落葉しゃりしゃり熊手に掃きよせて焚火に燃やす立冬の朝 | 浅 川 節 子 |
| 注文をタッチしている我の手のシミに四人の目の集まりて | 福 田 君 江 |
| コーヒーの熱き面を吹く息に白く波立つ山茶花が咲く | 詫 間 妙 子 |
| 宇宙(コスモス)の広がりのなか見えるかなキルルしハララしている僕ら(谷川俊太郎さん逝く) | 高 橋 久仁子 |
| 勢いてコートのジッパー閉めるなり富士の裾野に冬が始まる | 川 上 尚 |
| 干し柿は冴えた空気を従えて陣張る武者の鎧のごとし | 山 本 コウ子 |
| 墓替えを申し出る我に住職は「お母さんならしないでしょうね」 | 一 瀬 謙一郎 |
2025年1月号(VOL.43)NO.414 河野小百合 選
| シャッシャッと水場にたわしの音冴えて大根の白積み上がりゆく | 山 本 コウ子 |
| 大戸屋の隣の席にどっしりと野田佳彦似のおばさん座る | 米 山 和 明 |
| 甲府から乗りしカップル手をつなぎそれぞれ器用にスマホを繰りぬ | 中 澤 晃 子 |
| 夏空になにか忘れてきたようないろはもみじはいまだ染まらず | 坂 本 芳 子 |
| 闇おりる前にカーテン障子閉め良き夢のため野菜をきざむ | 水 上 道 子 |
| 信じてる信じるしかない古きナビ遠回りするたまに空とぶ | 渡 辺 淑 子 |
| 誰に会う日でもないけど私を好きになるため薄化粧する | 浅 川 清 |
| 電力をよく食いまくるAIと人間が住む原発の町 | 内 藤 のりみ |
| おくるみに包(くる)まれているようミツバチは少しほどけしオクラの蕾に | 石 川 なほ子 |
| 秋空をさざ波たてて鰯雲追われることなき海を泳げり | 秋 山 久美子 |
| 夕光が車輪に差して父の乗る車椅子ふと軽くなりたり | 荒 居 千 織 |
| 菊の葉は下から枯れてほろほろといい人のままでいようと思う | 堀 内 和 美 |
| 補聴器をはずした夫は冗舌に二人だけの手話のあれこれ | 西 村 鈴 子 |
| トランプ氏大統領に返り咲き世界の悪ガキ揃い踏みせり | 田 村 悟 |
| お祭りの通りを逸れてもみじ葉の散り敷く道をひとり歩きぬ | 保 坂 真寿美 |
| 一桁の気温に打って変わる朝平年並みが身(からだ)に凍みる | 甘 利 和 子 |
| ひもすがら眠るうさぎをそばにおき読みすすむなり『富士日記・下巻』 | 磯 山 千 秋 |
| 空き家なる友の実家に立ち寄りぬ五十年前のコーヒーの味 | 笠 井 美 鈴 |
| 瘡蓋を剥がしたくなる衝動を抑えきれずにいる秋の空 | 川 上 尚 |
| BAN・JUNのステッカー貼り尻に敷き薄さ競いし学生鞄 | 渡 辺 治 |
2024年12月号(VOL.42)NO.413 河野小百合 選
| おにやんま男貌してホバリング一本杉から里はくれゆく | 藤 原 伊沙緒 |
| 生活を社会に少し嵌めている木曜朝のごみ収集日 | 佐 藤 利枝子 |
| ファミレスにテーマを持たぬ三人は話して食べて五時間すごす | 赤 岡 奈 苗 |
| どの畑もシャインシャインの風が吹きわがデラウェア負けず赤らむ | 久保寺 弘 子 |
| 一組の母子にそっと撫でられて置いてきぼりのベンチのパンダ | 室 伏 郷 子 |
| 花終えし百日紅の枝のくいくいと大気の澄める空を指しおり | 中 西 静 子 |
| 常夜灯を消して一人に障子へとほの白く透く我の一日 | 杉 田 礼 子 |
| 夏枯れの胡瓜のつるをからめゆく艶なき吾の髪のうねりの | 角 野 成 子 |
| 噴水の吹上口に集う子よ顔も手足もばたつかせいて | 三 沢 秀 敏 |
| いのこずち膝裏につけ到着す程よい距離のこのブックカフェ | 浅 川 清 |
| 日に日にと黄金に色づく我が田んぼ能登半島の塩害 聞いた? | 永 田 はるみ |
| 杖をつく母と娘の去りしのちソファーにふたつのハートのくぼみ | 飯 塚 益 子 |
| 何かこうわかった顔で酔芙蓉ふらりふらりと遠雷を聞く | 秋 山 久美子 |
| 「木登りが得意だった」唐突に夫はパックの柿を手にとる | 西 村 鈴 子 |
| 捨てるぞと決めて手にする洋服に旅の思い出しげしげと見つ | 甘 利 和 子 |
| 病室の兄がラインにのせてくる少年だったころのいたずら | 津 田 幸 子 |
| ナベサダの左手(ゆんで)になりたしサックスを奏でぬときはポケットの中 | 高 橋 久仁子 |
| カチャトーラ煮込みて秋に踏み入れば枯葉の音のやさしいひびき | 山 本 コウ子 |
| 発刊は百年前の『賢治集』貸出票の褪せぬ名を読む | 寺 田 富 子 |
| 登りきし城東大橋に吹きあがる風に私は洗われて立つ | 詫 間 妙 子 |
2024年11月号(VOL.42)NO.412 河野小百合 選
| 秋空の移り変わりを映しいる画面に被るミサイル発射 | 川 井 洋 二 |
| わたしならすこし笑っていたかった新五千円札にいる津田梅子 | 中 澤 晃 子 |
| さよならも言えぬままにて逝きし友その筆文字の文を抱きぬ | 大久保 輝 子 |
| ただいまといつものように私からわたしに言ってこすもすの庭 | 浅 川 春 子 |
| スイッチを入れてすぐ消すワーグナー夏に疲れた耳には重い | 小 林 あさこ |
| 吹く風にあわす暮らしに慣れてきてパンツ二本の裾上げをする | 角 野 成 子 |
| 白昼にミサイルの如き夏の雨夫の手を借り野良着脱ぎたり | 山 下 愛 子 |
| 朝食ひとりランチもヒトリ外は雨夜はゆっくり独り焼肉 | 保 坂 謹 也 |
| むらさき色は高貴な色と思いしが酷暑表わす色もむらさき | 内 藤 のりみ |
| おびただし御神籤つけし青木ある大吉も大凶も枝にしばられ | 武 田 東洋一 |
| 日盛りの庭にかつては咲きおりしマツバボタンの幻を見る | 伊 藤 千永子 |
| 通らねば道もだんだん意地悪に草刈機にさえ返事をしない | 浅 利 尚 男 |
| 帰りたくない子ども等のランドセル草に転がる青いろ黄いろ | 飯 塚 益 子 |
| 庭先のビーチパラソル影つくり小さな避暑地に小犬が眠る | 田 丸 千 春 |
| ふるさとに山が似てるとネパールの留学生らは赤石山脈(あかいし)を撮る | 荒 居 千 織 |
| シャワシャワとすいかに流るる井戸水のポンプ押す母送り火に見ゆ | 藤 原 三 子 |
| 寝苦しくそれでもいつしか明けている夜なり総裁選挙もうすぐ | 渡 辺 さちえ |
| みどりごのわれに触れくる指さきはすいかのにおいポテトのかおり | 佐 野 可主子 |
| 吊り橋が揺れては戻る日盛りの人の成り行きそのままを行く | 飯 野 みゆき |
| 稲刈りの手をとめて見る雲間からデルフト色の青が展がる | 清 水 ひろみ |
2024年10月号(VOL.42)NO.411 河野小百合 選
| あそんでる空気があれば集めたいたった一人の長き夜なり | 石 川 輝 子 |
| 炎熱の稲田に生れる風の秀の白きコスモス揺らしていたり | 浅 川 春 子 |
| 亡き母の福子の福が目立ちいる常福寺の木に蟬が鳴きだす | 米 山 和 明 |
| 朝顔の蔓はニ十歳の頃の子のようにゆらゆら行く手をさがす | 古 屋 順 子 |
| 半年で二十センチも伸びたんだ並んでみせる顎すこし引き | 川 井 洋 二 |
| ケーンケーンと鳴きて雉子雄ゆく青葉道われの愛称ケーンと呼ぶか | 渡 辺 健 |
| きりきりと熱はねかえす舗装路に黒びかる顔が白き旗ふる | 佐 藤 幸 子 |
| 庭畑に蚊柱たちてまたほどけ追いかけてくる夏の夕暮れ | 角 野 成 子 |
| 湿度もつ風に吹かるる我が髪の毛染めの液の残り香におう | 山 下 愛 子 |
| 飼い犬の銀はゴロゴロ砂ぼこりブレイキンする得意顔して | 卜 部 慶 子 |
| 盆地より吹き上げる風に大菩薩の入道雲は原爆のごと | 広 瀬 久 夫 |
| 水田の稗に遠慮も忖度もなくてぐんぐん背丈を伸ばす | 杉 山 修 二 |
| 己へと鼓舞する一声平野美宇バックハンドの美しき攻撃 | 岡 田 喜代子 |
| 決着のつかぬ試合をちらちらと〈見返り美人〉は食器を洗う | 石 川 なほ子 |
| 黙禱の一分の長さはかりつつもう何年も蟬なかぬ夏 | 堀 内 和 美 |
| 「お手紙はあとに残って重いから」やんわり拒むこの返信は | 尾 野 深紗子 |
| 「ただいま」や「おかえり」を言うことのない暮らしのつづきに今日は立秋 | 保 坂 真寿美 |
| 右に左に李の枝の逃げいるを追いつつ捥ぎてゆく風のなか | 市 川 ふくじ |
| 自転車で急ぐ炎暑のアスファルト番いの鳩は素足で歩む | 笠 井 美 鈴 |
| 中年のバンドが歌うメッセージ「若い頃には戻りたくない」 | 磯 山 千 秋 |
2024年9月号(VOL.42)NO.410 河野小百合 選
| 両方の窓から日焼けした腕をだらり垂らして軽トラがゆく | 中 澤 晃 子 |
| 夏カフェの涼にうるおうペン先を暑中見舞いにさらさらながす | 中 山 恵 理 |
| 撃たれても拳を上げて去りてゆくトランプ氏なり 青田がなびく | 堀 内 久 子 |
| われは枇杷男の子は西瓜啜りては庭にそれぞれ種を眠らす | 加々美 薫 |
| 忘れたるコロナの怖さ知らしめて隣組の女逝きてしまいぬ | 赤 岡 奈 苗 |
| シェーバーのように青草剃ってゆく羊の口よ 牧場はみどり | 浅 川 清 |
| もう先へ先へと急ぐことはない月の光は思うがままに | 内 藤 のりみ |
| 座布団にのそりのそりと歩く蜘蛛風吹く春に放してやりぬ | 保 坂 謹 也 |
| 闇の中探して触れる妻の手をそっと揺らせば止まる鼾が | 武 田 東洋一 |
| 七月の木陰にすわる三毛猫の毛並がゆれる風の形に | 角 野 成 子 |
| 繁茂して道塞ぎたる夏草の穂先に種あり秋風を待つ | 横 内 進 |
| 捥ぎたての桃運び込む共選所にJALCARGOのコンテナの待つ | 石 川 なほ子 |
| すり切れるまで履く父の革靴の目に浮かび来る今日は父の日 | 西 村 鈴 子 |
| 柿の葉のリズミカルなる「青時雨」歩みを止めてセッションしよう | 甘 利 和 子 |
| アカネ科の葉脈めだつ緑葉に白無垢のごとクチナシの花 | 鈴 木 憲 仁 |
| 口笛を吹きながら風呂のそうじする職退きし夫の朝は新し | 清 水 ひろみ |
| おんぶ紐から出でたる足にぶらぶらとくすぐられいる真昼のバスに | 磯 山 千 秋 |
| 映画見にゆくなら二人ゆっくりと歩いて帰りたくなる人と | 川 上 尚 |
| バリバリと剥ぎゆくような音がしてドクターヘリゆく灰色の空 | 津 田 幸 子 |
| 園庭の大きな石がのせている泥にまみれたたくさんの靴 | 清 水 雅 美 |
2024年8月号(VOL.42)NO.409 河野小百合 選
| ウエスタンハットを被る青年が桃の捥ぎ手にデビューこの夏 | 荻 原 忠 敬 |
| サーカスの消えたるごとき空き地にはガウラの群れが風に揺れおり | 佐 藤 利枝子 |
| よっこらしょビールのケースに腰掛けて極楽ごくらく野良帽子ぬぐ | 砂 原 よし子 |
| 忙しない五月の空よ 雪、夏日、台風一号、沖縄の梅雨 | 小 林 あさこ |
| 戦死せし父の名を呼び真夜中を正座していき祖父治三郎 | 浅 川 春 子 |
| フライパンに目鼻をつけた顔をしてフクロウわれを見下ろしている | 三 沢 秀 敏 |
| 水張りし田にゆうるりと降りたちてポージングする白鷺一羽 | 佐 藤 幸 子 |
| いただきし自家製うめが朝あさの小皿の中で言葉ひろげる | 内 藤 のりみ |
| 風そよぐ桃の陰より土鳩舞う僅かに桃の匂いをさせて | 武 田 東洋一 |
| 叔母の骨拾いあげたり耳骨の三つの穴のくっきりとして | 丸 茂 佐貴子 |
| 白き頭巾の山法師の花咲きはじむ空がどんより低くなりたり | 鈴 木 憲 仁 |
| ガラス戸に衝撃音のひびく朝転がる小鳥まぶたを閉じる | 永 田 はるみ |
| 「移動スーパー」とはためく旗にかけよりぬ車に並ぶ生活の品々 | 福 田 君 江 |
| マスカラは無色を選びしたたかな二十六年寡婦なり我は | 秋 山 久美子 |
| 百足へと歳月かけてなりゆくやソックス仕舞う引出しのなか | 岡 田 喜代子 |
| あの夏の空き地に張った映写幕風にゆがんだ赤胴鈴之助 | 詫 間 妙 子 |
| 伸び過ぎた芝を刈りゆく芝刈り機何かに苛立ちたびたび止まる | 小久保 佐智子 |
| 婆ちゃんの背中で聞いたわらべ歌庭先のビワが黄色く熟れて | 渡 辺 治 |
| よき短歌(うた)をノートにペンで写しゆく半世紀前の祖父を真似して | 飯 野 みゆき |
| 月曜の社長訓話の声曇りみどりの雨を待ちながら聞く | 廣 瀬 由 美 |
2024年7月号(VOL.42)NO.408 河野小百合 選
| バンペイユポンカンブンタンデコポンと春は濁音半濁音の | 渡 辺 淑 子 |
| 三泊の見事なまでの後始末見送るだけの老母となりぬ | 望 月 迪 子 |
| 熱き湯をアールグレイに注ぎいる好みし夫の誕生日なり | 坂 本 芳 子
|
| 背が縮みぶどうの棚が高くなる足の筋トレ励む他なし | 日 向 敬 子 |
| あまやかな鬱金の桜が締めくくる今シーズンのさくらアルバム | 中 山 恵 理 |
| 水色のくすくす笑いがひろがりぬネモフィラの丘に風わたるたび | 浅 川 清 |
| よぼよぼとよちよち歩きが「ホー」「キャー」と桜の花を眺めて歩く | 丸 山 恒 雄 |
| 蒔きし種すべてが生えて丈そろい園児のようなもろこしの列 | 望 月 壽 代 |
| 自動車の免許返納どうしよう返すは片足切られるごとし | 鈴 木 源 |
| 一円の切手二枚を貼り足して日焼けのしたるポストに入れる | 三 沢 秀 敏 |
| ハンガーに春物冬物重ねいて今日はまた冬彼岸すぎしに | 伊 藤 千永子 |
| となりやの跡取り息子のお裾分け幟の旗のはためく音は | 甘 利 和 子 |
| 「大谷さん」呼ばれて立ちし青年が視線集める歯科の待合 | 堀 内 和 美 |
| 孫たちは「この犬だけは飼います」とまた三匹目を世話する羽目に | 鈴 木 憲 仁 |
| 震災の能登の地からの花便り 暮鳥の「桜」ふっと舞い散る | 田 丸 千 春 |
| あれこれと迷ってふっと立ち止まる逝きし娘のアドバイス欲し | 津 田 幸 子 |
| ひさかたの光さえぎる黄砂来て駅のタワマンぼんやりと立つ | 藤 原 三 子 |
| 円安を検索している菖蒲月寄付のバナーがふわりと浮かぶ | 尾 野 深紗子 |
| リビングにあわてて書いた「4」の字が風待つ鳥の横顔に見ゆ | 廣 瀬 由 美 |
| 「お母さん」我をさがしたその先に最後の言葉を目の中に言う | 飯 野 妙 子 |
2024年6月号(VOL.42)NO.407 河野小百合 選
| 舞手なき神楽殿ありささくれし木の手触りをそっと確かむ | 佐 藤 利枝子 |
| 鳥好きの友の忘れし野鳥図鑑鳥来る朝に開きて偲ぶ | 渡 辺 淑 子 |
| あの白き戴帽式より五十年同じ時代をかけ抜けてきた | 内 田 小百合
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| 新しき四月こよみに書き込みし桜のマーク浮き浮きとして | 室 伏 郷 子 |
| さくらさくら桜散らしの春あらし軍靴の音のきこえたような | 砂 原 よし子 |
| 陽炎の春のデッキに立つ君が庭師の目をして首を巡らす | 浅 川 清 |
| 大法師山は満開杖をつく夫と枝垂れ桜(しだれ)の暖簾をくぐる | 仙洞田 紀子 |
| ふきのとう二十個ほどの酢みそあえ夫はうまいと春はうまいと | 小佐野 真喜子 |
| 決算報告みたいなものか誕生日八十五歳を夫に告げたり | 内 藤 のりみ |
| いく年も施設に暮らす母のこと春風のごと友は語れり | 角 野 成 子 |
| 了円寺に百人一首の幕張られ奇特な人の寄付なりという | 浅 利 尚 男 |
| 傷口を被うワセリン圧し殺す感情ふつと盛り上がりきて | 荒 居 千 織 |
| 小池知事経歴詐称の疑念あり桜吹雪にあいやこれまでか | 杉 山 修 二 |
| 春の日にぱしゃぱしゃ飛沫く側溝に詠んでごらんと鴉の遊ぶ | 石 川 なほ子 |
| ハラハラと卯月の雪は控え目に換えたばかりのタイヤの上に | 西 村 鈴 子 |
| 今年度は桜のかたちの焼き菓子で始まる会議背すじを伸ばす | 磯 山 千 秋 |
| ターミナルケアを選びし夫と見る雨にぬれ沁む楓の若葉 | 浅 川 節 子 |
| 少人数の歌会はコタツの近さにて皆の呼吸(いき)が素直に聞こゆ | 津 田 幸 子 |
| 菖蒲の葉みどりに尖る池の辺に夫居なくとも花はいっぱい | 土 橋 三 枝 |
| 春浅き古民家カフェ「月晴れる」わらのスリッパじんわりぬくし | 飯 野 みゆき |
2024年5月号(VOL.42)NO.406 河野小百合 選
| アクリルの箱に千円、五千円穴水町は姉妹都市なる | 浅 川 春 子 |
| 葡萄杭につかまり耐えた震度五の三・一一黙祷ささぐ | 砂 原 よし子 |
| いいですね動きが軽くなりました療法士さんの声が明るい | 小 林 あさこ
|
| 青竹の尖る切り口光りつつ年の初めの天を刺しいる | 荻 原 忠 敬 |
| 「もうすぐね、エメラルド婚」古雛に声かけ飾る雪の朝に | 藤 原 伊沙緒 |
| 陽の中に最後の白菜手にさけば胎児のごとく黄の色あわし | 角 野 成 子 |
| レントの朝すし酢の匂う手の窪にパンを乗せくる司祭と目が合う | 杉 田 礼 子 |
| 雪くぐりツンと芽吹ける水仙は朝明(あさけ)にあおく一呼吸する | 古 屋 あけみ |
| 増穂商のグラウンドに立つ被災地の球児らへ作るかぼちゃのほうとう | 仙洞田 紀 子 |
| 大屋根に下がりしつららのまぶしさよ夫はロックで飲みたいと言う | 小佐野 真喜子 |
| 春を呼ぶカラーひよこは鳴かずとも十日市祭典開催をする | 石 川 なほ子 |
| 降りたまる夕べのみぞれ枝枝に氷の花を太らせてゆく | 岡 田 喜代子 |
| 冬ざれの側溝ありてドドドドとモグラのようなブチ猫が行く | 永 田 はるみ |
| 上げ舟を二階の窓に吊り下げる 洪水の地木曽の三川(さんせん) | 鈴 木 憲 仁 |
| のほほんと生きてる俺でいいのかな「台湾有事」今かまびすし | 杉 山 修 二 |
| 「朝だよー」娘の寝息に手をのばし「起こす」と「遅刻」の間(あわい)にゆれる | 清 水 雅 美 |
| この夜の空彫るように雪の来て白き破片を手につもらせる | 詫 間 妙 子 |
| 色鉛筆の箱にひ孫の写真貼り使うそのたび笑顔に会える | 市 川 ふくじ |
| 「服捨てなよ」娘に言われ桐箪笥の奥の日記をまずは捨てゆく | 梶 原 富 子 |
| まゆさんのスマホにかけてその父と話せる吾に充電が減る | 大 柴 文 枝 |
2024年4月号(VOL.42)NO.405 河野小百合 選
| わたくしにさわらないでと白梅がかすかふるわすうす青きしべ | 中 澤 晃 子 |
| 大地震は漁師の仕事奪いたり港は高き陸地になって | 赤 岡 奈 苗 |
| リビングに崩れはじめしシクラメン節分の豆三粒ほどのせ | 坂 本 芳 子
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| 日当たりの良し悪し計る残り雪ふみしめながら散歩する朝 | 川 井 洋 二 |
| この冬の残り時間のなかに咲く色のとぼしき節分草は | 加々美 薫 |
| お隣さんとマスク外して日向ぼこ内緒をひとつこぼしてしまう | 浅 川 清 |
| 震災のゴミは百万トンを超えその悲しみは量れぬ重さ | 佐 藤 幸 子 |
| 着膨れて脚立の上の吾の影高枝の徒長枝ばしっと落とす | 望 月 壽 代 |
| 派閥ごと群れなし帰る夕カラスごん鉢山の木々をゆらして | 三 沢 秀 敏 |
| たまさかになごりの雪の落ちてゆく指先ほどの蟬の穴へと | 杉 田 礼 子 |
| 正月に防災グッズを見直しぬ期限の過ぎたレトルトカレー | 伊 藤 千永子 |
| 珈琲に沸かせるお湯の湯気高しわずかな嘘の許しを乞いて | 荒 居 千 織 |
| 初雪に親子でころがす雪だるま土も小石もいっしょに付けて | 福 田 君 江 |
| 環境にやさしき紙の器なり〈峠の釜めし〉チンしてほかほか | 岡 田 喜代子 |
| 地震きて水がどんなに大切か知りぬ流れる水洗トイレ | 田 村 悟 |
| キャッシュレスの風吹くなかを牛乳屋釣り銭バッグをジャラジャラ鳴らす | 尾 野 深紗子 |
| 結露した窓に射しくる朝光は屈折かさね角部屋つつむ | 磯 山 千 秋 |
| 交番の一輪挿しのフリージア現場の雰囲気なごませている | 渡 辺 治 |
| 病む母の辛さ見てきし十七歳の今日いくど目かのヘアドネーション | 津 田 幸 子 |
| ドアそっと閉めて帰宅すわが寝間に夫の温めし湯たんぽがある | 笠 井 美 鈴 |
2024年3月号(VOL.42)NO.404 河野小百合 選
| 記されし丸や四角の賑わいは通院の跡カレンダー捨つ | 大久保 輝 子 |
| 銀木犀は祖父思う花縁側に庭をながめたむかしむかしの | 石 川 輝 子 |
| 青深く澄みわたりたる冬の空 戦争をしないそれだけのこと | 小 林 あさこ
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| どの紙に書いてもおなじ短歌(うた)なれど伊東屋で買うモレスキン無地 | 川 井 洋 二 |
| なまめかしき物はなけれど一つだけ夫の書斎の椅子の猫足 | 久保寺 弘 子 |
| 今はなき銀行の白きバスタオル電話番号崩れて読めず | 保 坂 謹 也 |
| 補聴器を外せばすべての音が消え世界の端にぽつんとわたし | 浅 川 清 |
| 一面に枝打ちされて傾りには冬陽まっすぐ射し込みており | 佐 藤 幸 子 |
| ろうそくで譜面を照らし声合わす「シメオンの頌」天(あめ)をひらけり | 杉 田 礼 子 |
| 避難所でパパに抱かれてミルク飲む素足の赤子をテレビは流す | 仙洞田 紀 子 |
| ありがとうを残して逝きし八代亜紀ハスキーボイスまねて「舟唄」 | 秋 山 久美子 |
| かなしみの深き能登の地ふり出した雪は瓦礫(がれき)を静かに覆う | 岡 田 喜代子 |
| 「とりあえず富山に入ります」泥かきの写メール届く夫のラインに | 飯 塚 益 子 |
| 元日の地震であればまかなしき家族団欒めちゃくちゃにして | 甘 利 和 子 |
| ユニセフに募金してるとさりげない口調に友はおつゆをすする | 石 川 なほ子 |
| 卓上のライチのフェロモン香るのか言葉少ない妻がささやく | 樹 俊 平 |
| 空晴れて仕事始めの目玉焼き津波なき日をほおばりている | 笠 井 美 鈴 |
| 大塚のにんじんと孫の背くらべ どういうふうに生きてもいいよ | 佐 野 可主子 |
| 揉みし葉は箪笥のかおりクスノキの大樹どこかで母の声する | 清 水 ひろみ |
| 父のように沢井先生に叱られて背すじ伸ばすも何かなつかし | 飯 野 妙 子 |
2024年2月号(VOL.42)NO.403 河野小百合 選
| 見上ぐればまる型ひし型おうぎ型プラネタリウムのような木漏れ日 | 中 山 恵 理 |
| 傷むことなくこの翅に大海をわたりおおせよアサギマダラよ | 荻 原 忠 敬 |
| 片わきの回覧板を両うでの大根にかえ夫が帰り来 | 中 澤 晃 子
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| 墓処より視界はひらけ良く生きし友と思いてまた無念なり | 内 田 小百合 |
| 大方を過ごすソファーに冬日満つ日本は二季になると予報士 | 浅 川 春 子 |
| 十二万年の過去にも経験なき夏が来て暑さ重たし盆地の底を | 内 藤 のりみ |
| パートナー五十余年を共に生き読めない空気それぞれに持つ | 古 屋 あけみ |
| 一滴二滴と蛇口の水がこぼれ出る海水うめて飲むガザの人 | 保 坂 謹 也 |
| 霜月も僅かとなりぬ晴れた日は水騒がせて大根洗う | 山 下 愛 子 |
| シャッターを下ろさんとせば弦月が九十一歳わが腰に似て | 丸 山 恒 雄 |
| 唐突に冬来たりなば甲冑のごとく上下に発熱下着 | 浅 川 清 |
| おおぞらの飛行機雲を見る度に自分の名前描いてみたし | 横 内 進 |
| 待合室に貧乏ゆすりやすみなくする女(ひと)ありて皆おちつかず | 浅 利 尚 男 |
| 青空に柘榴パカッと口開くもやもやしていた心手放し | 鈴 木 憲 仁 |
| 夕ぐれの風に吹かれし樟の照り葉にあそぶ黄昏の刻 | 荒 居 千 織 |
| 八十歳(はちじゅう)の山梨からの通院を「偏差値高い」と主治医が笑う | 大 柴 文 枝 |
| 指揮棒がおおきく伸ばせと言っているわが歌声の佳境に入る | 笠 井 美 鈴 |
| 澄んだ空にアリアのように百舌鳥が鳴きあの日のことは忘れいる朝 | 津 田 幸 子 |
| 「この柿は顔がいいよ」と大袋二つを吾の助手席に載す | 藤 原 三 子 |
| 春を待つお祭り紙面のその裏で貧困連鎖の記事のモノクロ | 佐 野 可主子 |
2024年1月号(VOL.42)NO.402 河野小百合 選
| ひそやかな白菜しまる声を聴く信州八千穂のひろい畑に | 藤 原 伊沙緒 |
| せせらぎの両の岸より結びあう紅葉黄葉(もみじもみじ)のいま盛りなり | 浅 川 春 子 |
| 上(わで)村も下村も今空き家増え一番若い重ちゃん七十歳(ななじゅう) | 窪 田 喜久子
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| 読みさしの大西民子全歌集りんごを載せてスマホ手に取る | 望 月 迪 子 |
| あっけさはテーブルの上が秋になるシナノスイート今年のりんご | 小 林 あさこ |
| 「だるまさんがころんだ!」振りかえるたび朱の色をぐぐっぐぐっと深めゆく木々 | 浅 川 清 |
| ふんわりと綿毛舞いくる肩の上脚立降りたらふんわり離れ | 三 沢 秀 敏 |
| パッキンと折るにすがしき香り立つぷりぷり太し佐野さん生姜 | 秋 山 眞 澄 |
| 面会は二十分間タイマーを首に吊るして叔母の部屋へと | 仙洞田 紀 子 |
| 思い出は連想ゲームのごとく湧き藁もす煙にひとつを乗せる | 角 野 成 子 |
| 車イス押す並木道足裏にパツンコチンと銀杏を踏む | 田 丸 千 春 |
| ちちのみの父に向かいて「だめじゃんけ」そのひと言が素直に言えず | 石 川 なほ子 |
| ヘルニアと診断されて映されし反り腰美しき放物線よ | 荒 居 千 織 |
| 衣替えようやく終える日曜日柊の実は赤くつやめく | 西 村 鈴 子 |
| 自転車を漕ぐ乙女子の金色の髪が秋の陽(ひ)あつめてゆれる | 堀 内 和 美 |
| 校庭に体育座りの生徒たち孵化をまちいるサナギのぬくさ | 詫 間 妙 子 |
| 運動会の白線にじむグラウンドに靴跡だけが夕ぐれてゆく | 佐 野 可主子 |
| 父親と並んで作る弁当の卵焼きふたつ高二の孫は | 津 田 幸 子 |
| 藪の奥に首をもたげてぬっと立つ蝮草の実そこだけ赤い | 寺 田 富 子 |
| 庭の木々が千手観音に見えてきて傘寿にむかう手をあわせいる | 大 柴 文 枝 |
2023年12月号(VOL.41)NO.401 河野小百合 選
| 銀杏を踏まず歩めばスキップをしているように見えないかしら | 望 月 迪 子 |
| 讃美歌を愛しし母よ盆、彼岸この世のつとめは般若経にて | 前 田 絹 子 |
| 繰り言を聴くお見舞いの小半日芝のみどりに互いに座して | 佐 田 美佐子
|
| ビハインド、スリーポイント、クローザー令和五年の耳に新し | 浅 川 春 子 |
| 七回目コロナワクチンの副反応夜中のトイレに夫と出くわす | 赤 岡 奈 苗 |
| 巻き貝のごとく眠れる中学生今朝もふたつのアラームが鳴る | 角 野 成 子 |
| そこじゃないあなたに分かってほしいのは栗花ばかりふえゆく野原 | 浅 川 清 |
| 「真っ青な空からミサイル落としけり」ウクライナの俳人詠みたり | 内 藤 のりみ |
| キャベツ葉の蛾の幼虫はゆく秋を手当たり次第腹に詰めゆく | 古 屋 あけみ |
| 坪山の金木犀が踊り出すステップホップ香りのドレス | 卜 部 慶 子 |
| 美容師の指に力の無きシャンプー静かに流れる「アリス」の曲が | 福 田 君 江 |
| 寅さんがふられるまでを楽しみて土曜の夜は穏やかに過ぐ | 堀 内 和 美 |
| 黙々と餌食みている夕まぐれ猫はお椀に頭を入れて | 石 川 なほ子 |
| 夏中は長々寝ていたワンちゃんが丸まってきて秋分過ぎる | 鈴 木 憲 仁 |
| 道の辺のあまたどんぐり潰される 中東の地の紛争思う | 永 田 はるみ |
| 処理水と海の青とが重なりて底引き網漁九月解禁 | 佐 野 可主子 |
| 二人子にかき消されいる虫のこえ気づかぬ秋の他にもあらん | 清 水 雅 美 |
| 再会に互いの屋号なつかしくお駄賃の飴あまく広がる | 磯 山 千 秋 |
| 秋の夜のこぼれそうなる満月を一人占めして家に帰ろう | 廣 瀬 由 美 |
| カーテンを高く舞い上げ応援の太鼓の響き居間にはこび来 | 藤 原 三 子 |
2023年11月号(VOL.41)NO.400 河野小百合 選
| 雷くれば雷くるなりに雨ふれば雨ふるなりに桃の畑小屋 | 荻 原 忠 敬 |
| 採れたての短歌とぶどう香り立つ残暑見舞いを友に送りぬ | 中 山 恵 理 |
| 思慮配慮遠慮に熟慮千慮志慮おもんぱかりがわれには足らず | 内 田 小百合
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| 取りあえず十五リッター入れておく二ヶ月先に廃車のVitz | 内 藤 勝 人 |
| いく度を手にふれにしやピオーネの濃きむらさきに鋏をいれる | 砂 原 よし子 |
| アラームのふたつ鳴りつぐ枕元男の子の指が空(くう)をまさぐる | 角 野 成 子 |
| 夕顔を長く薄くとむいてゆく静かな時を指にのせつつ | 佐 藤 幸 子 |
| 残りいる力に布団干しあげて渋皮のような手を陽にかざす | 内 田 文 恵 |
| 目印の寿し屋の看板なくなりて生家の墓所の道を戸惑う | 武 藤 睦 子 |
| きっちりと折りたたまれし紙タオル母のポッケゆ数多出てくる | 中 西 静 子 |
| 夏のはじめに買ったサンダルくつ箱にそのまま白く過ぎ去ってゆく | 荒 居 千 織 |
| ヘルメットの後ろにポニーテールゆれ女もなせる郵便配達 | 伊 藤 千永子 |
| 日にちの酷暑に耐えし洗濯ばさみこの朝パキっと乾いた音で | 石 川 なほ子 |
| すれ違うそのとき匂う外つ国の香辛料か真昼の坂で | 堀 内 和 美 |
| 桃の木はすべて捥がれた身軽さに息づかい静か立秋過ぎる | 鈴 木 憲 仁 |
| 沢水を引き込むせぎにさわさわと夏の手カンナ浸しおくべし | 佐 野 可主子 |
| ありがとうと妻には言えず何となく頷き合ってる無尽の会に | 渡 辺 治 |
| カーナビの指示通りゆく炎天下こんな行き方思いもよらず | 廣 瀬 由 美 |
| 昨夜読みしページふたたび読みかえすわれの記憶にうすく日の差す | 飯 野 妙 子 |
| さわさわとエノコログサが揺れはじめ昨日とちがう口笛きこゆ | 清 水 ひろ美 |
2023年10月号(VOL.41)NO.399 河野小百合 選
| 「三年の保証付きです」農機屋が印紙を舌にぺっとのっける | 中 澤 晃 子 |
| 八月の宮崎からののど自慢クリスマスソングが猛暑日ゆらす | 米 山 和 明 |
| グリップをにぎれば爪のあたる場所ありてあの字を試し書きする | 佐 藤 利枝子 |
| 日に向きて満面笑顔の向日葵のうしろすがたは意外と淋し | 望 月 迪 子 |
| 壁のしみ北海道に見えてから北海道の壁と呼びたり | 渡 辺 淑 子 |
| 鋏入れ房は上から仕上がりぬ切り絵のようなシルエットにて | 渡 辺 健 |
| 亡き夫の手形のうちわ扇ぎたり暑い夜には優しい風が | 卜 部 慶 子 |
| こんなにも暖まるまで放置したポストの中の年金通知 | 杉 田 礼 子 |
| 梅花藻をゆらす流れに風鈴のかそけき音がこぼれていたり | 浅 川 清 |
| 広告にちぎった折り紙はりつけて青空作る三歳男の子 | 角 野 成 子 |
| 初桃のみずみずとした光沢を水に沈めてしばし見惚れる | 甘 利 和 子 |
| 厨の蚊ゆっくり腕に近づいてチクリと刺せばピシャリ手のひら | 広 瀬 久 夫 |
| 二尺玉天地にドスンと轟きて人の煩悩全て奪うか | 秋 山 久美子 |
| 鮮やかな色と光が消えしのち花火は白きけむりとなりぬ | 田 丸 千 春 |
| 夕づきてインゲンを手に友来たり「暑かったね!」と話しはじめる | 伊 藤 千永子 |
| おじぎ草のピンクの花はまんまるで蜂はくるりと曲線なぞる | 詫 間 妙 子 |
| 早朝にダンスの自撮りチェックするポニーテールがきびきび跳ねる | 藤 原 三 子 |
| 青ふかき空に向かってざわめける巨木を抱く火野正平は | 飯 野 妙 子 |
| 夏空の空気にひそむ爽快感ペールギュントの「朝」がはじまる | 清 水 ひろみ |
| よく冷えた胡瓜のようなこの脛は庭を巡りて適温と為す | 尾 野 深紗子 |
2023年9月号(VOL.41)NO.398 河野小百合 選
| 水の上にみどりの罫線ひきている暁(あけ)を働く田植え機一機 | 浅 川 春 子 |
| ビオーネを三十二粒にととのえる首・屑・腰をいたわりながら | 砂 原 よし子 |
| 夕さればさざ波もたつ明るさの感度のちがう二人がすめば | 内 藤 勝 人 |
| 亡き友もきっと来ている竹の庭隣の席をひとつ開けおく | 内 田 小百合 |
| 読みさしの本にマークのあるところそっと読みたり夫の心も | 山 下 愛 子 |
| いわし雲ひつじ雲かと言い合いて烏の二羽が飛び立ちてゆく | 斉 藤 さよ子 |
| 黒澤明(くろさわ)の〈夢〉の水車がまわりいるわさび畑に夏は来にけり | 浅 川 清 |
| 物置の棚に見つけたゲートルのカーキ色なり虫喰いの穴 | 三 沢 秀 敏 |
| 「凶器持つ日が続いてる」毎朝を筍掘りへと鉈持つわれに | 武 藤 睦 子 |
| 「夏は来ぬ」開いて閉じてまた開く甲府盆地に長い夏くる | 内 藤 のりみ |
| 図書館のサーモカメラはオフとなり覗く人なく一日過ぎる | 石 川 なほ子 |
| 従兄弟らと川遊びする夢をみるいつの間にやら白髪となり | 田 村 悟 |
| 風が来てかすかに揺れる房の先呼び合うように紋白が舞う | 堀 内 和 美 |
| 週イチに通う職場の洗面台文月の今日はアガパンサスあり | 伊 藤 干永子 |
| イチミリほど氷が動くアイスティー一人の夜の耳はやさしく | 秋 山 久美子 |
| 力ラオケは決まっていつもの「ありがとう」いきものがかりの夫婦の絆 | 浅 川 節 子 |
| 夜泣きする赤子をきゅっと抱きしめる何も知らない夫の余裕 | 清 水 雅 美 |
| 耳元で不快な音をたてる蚊よ上手な生き方知っていますか | 廣 瀬 由 美 |
| 締切りの用箋いろどるボールペン赤、青、黒の文字はくたくた | 詫 間 妙 子 |
| 「がんばりすぎずになーんちゃってがいいんだよ」笑みつつ生徒が吾を追いこす | 清 水 ひろみ |
2023年8月号(VOL.41)NO.397 河野小百合 選
| いつになく深き眠りの昼寝覚め初期化している身体を起こす | 望 月 迪 子 |
| 「月へ届く17号を打ちました」アナハイムはいま日本の昨日 | 浅 川 春 子 |
| 執深きスネイクのごとく追ってくる検査履歴の折れ線グラフ | 佐 田 美佐子 |
| 新しき初夏のスリッパかろやかに家事動線を覚えはじめる | 中 山 恵 理 |
| おさがりの男孫のジャージ馴染みいて庭の草々はじから攻める | 加々美 薫 |
| 船旅に丸サングラス持ちゆかんほんとにまるい地球をみよう | 保 坂 謹 也 |
| この朝のテレビ壊れてお互いに言葉をさがす居間の空間 | 佐 藤 幸 子 |
| 峠路の天下茶屋にて桜桃忌しめりが匂う机と畳 | 内 藤 のりみ |
| 正装の各国首脳ウォロディミル・ゼレンスキーは戦時下の服 | 古 屋 あけみ |
| 一粒がぷーっとふくらみ色付きぬ梅雨の霽れ間にブルーベリーは | 秋 山 眞 澄 |
| タンポポの綿毛の玉から飛び立ちて小さな気球しばし漂う | 鈴 木 憲 仁 |
| 吾の額(ぬか)夜半にねずみの舐めし頃今の日本は想いもよらず | 田 村 悟 |
| すいかずら木に絡まりて匂い立つ曇天の日のかすかな頭痛 | 堀 内 和 美 |
| 馬刀葉椎(まてばしい)胸に下げたる木の札に「待てばおいしくなる」との由来 | 福 田 君 江 |
| 梅雨空にどくだみの花よく似合う刈り取りしもの陰干しにして | 横 内 進 |
| 亡き姉の学芸会に作りたる赤頭巾抱き母は逝きたり | 小久保 佐智子 |
| アポ電のたぐいであろう夕餉どき鶏のから揚げ佳境に入る | 尾 野 深紗子 |
| 山梨の地形に似てる水たまり底いの空はこきざみに揺れる | 小 林 敦 美 |
| 週末の走行距離を記録する親孝行を数字化してみる | 廣 瀬 由 美 |
| 雨音のなかに歌詠む日曜日焦ってすごす一日が好き | 清 水 ひろみ |
2023年7月号(VOL.41)NO.396 河野小百合 選
| 正しさの手本のようにならびいる北斗七星 ほどけていいよ | 中 澤 晃 子 |
| 「逆立ちのモネ」と覚えた青い花ネモフィラの青丘そめる青 | 内 藤 勝 人 |
| 春耕はひとりにあらず蚯蚓いてまんさく咲いて雉鳩が鳴く | 藤 原 伊沙緒
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| 美術館の楡の樹かげに完璧な一度っきりのホーホケキョ降る | 望 月 迪 子 |
| 竜王のひきこもりが来たそういって迎えてくれた依田しず子さん | 小 林 あさこ |
| 橅の葉の鳴る頃合いに風鈴を吊るすとこしえ捨てられぬ音の | 杉 田 礼 子 |
| ブロマイドは宝物であった少女期の美空ひばりにバラの香のあり | 内 藤 のりみ |
| 穿くたびに気付き脱ぐたび忘れたりズボンの裾の糸のほつれを | 山 下 愛 子 |
| 笑わなきゃ笑っていようと思うけど今日私には風がほほ笑む | 武 藤 睦 子 |
| 束ね置く輪ゴム二本がプッと切れ給料明細床にひろがる | 角 野 成 子 |
| おさきにとスタッカートが飛び交って連休前の職場にゆれる | 荒 居 千 織 |
| 初採りのシャキシャキ甘い玉葱をビニール片手に一人占めする | 横 内 進 |
| 屋根職人屋根渡り行く足もとに帽子飛ばせり初夏の風 | 秋 山 久美子 |
| 〈マイ〉と付くわたし専用ナンバーが私だけのものでなくなる | 飯 塚 益 子 |
| いまだ雪を被く五月の富士遠く梅干し赤いおにぎりを食む | 甘 利 和 子 |
| 「髪型はこれに決めた」と夫が置く坂本龍一の切りぬき写真 | 詫 間 妙 子 |
| 新たなる自分と出会い登校すパンツルックの女子中学生 | 藤 原 三 子 |
| 近いうちインバウンドが占領す忍野八海の水深のぞく | 梶 原 富 子 |
| 柿若葉ゆれて娘はポンコツの食洗器かかえ車に乗りぬ | 山 内 薫 子 |
| ざっとうの今日の終わりを膨ませビルの間に夕日が沈む | 樹 俊 平 |
2023年6月号(VOL.41)NO.395 河野小百合 選
| あしたまた会える軽さの「じゃあまたね」それぞれ暮らす場所に向かいぬ | 中 澤 晃 子 |
| 人はみな引き際ありて春隣り新人の入る「笑点」を観る | 佐 野 可主子 |
| 放棄地を小麦畑にすればよいなにより先に土がよろこぶ | 小 林 あさこ |
| 蛇行する偏西風はいつしらにわれの車を砂漠に埋める | 佐 藤 利枝子 |
| 木漏れ日が白鯨の碑をあたためて生きものいくつ宿らせている | 砂 原 よし子 |
| ひとくちに語り切れない依田しず子さん単三電池借りたままです | 古 屋 順 子 |
| まだ浅き堰にひたせる泥の鍬ウグイの稚魚がふれてゆきたり | 角 野 成 子 |
| あざやかな友禅流しのごとく見ゆ春の夕焼けスマホに納む | 古 屋 あけみ |
| ぽんぽんと回しをたたく音すれば猫の直立パンチくりだす | 三 沢 秀 敏 |
| やまぶきの散る花びらを手に集め空き瓶に詰む新任牧師 | 杉 田 礼 子 |
| 四年ぶりその背にゆれるランドセル軒のすずめが羽音を立てる | 浅 川 清 |
| うた会のドア開け放つ公会堂さくら吹雪も入れるように | 飯 塚 益 子 |
| 「パン食は腹が膨れてかなわんわ」まんざらでもない今朝の横顔 | 永 田 はるみ |
| 午前中作業済ませば休むべし近くの金ちゃん日暮れに転びぬ | 浅 利 尚 男 |
| 己がため二合の米を炊く暮らしやっと覚えた肉ジャガ料理 | 横 内 進 |
| 三センチズボンの裾を上げ終えてもうすぐ四月雨の音聞く | 伊 藤 千永子 |
| 木蓮は濡れて茶色に貼りつきぬコロナ禍のそのかさぶた剥げず | 寺 田 富 子 |
| 処置が済み手渡されてる紙切れはわが消化器のトリセツである | 尾 野 深紗子 |
| 靴下のお礼の手紙六枚を重ね読みおりミモザ咲く日に | 青 木 道 子 |
| 突風が砂塵まきあげ校庭に馬乗りをした記憶がよぎる | 渡 辺 治 |
2023年5月号(VOL.41)NO.394 河野小百合 選
| 芽吹くとはかくも鋭し水仙の三角の芽が土をかち割る | 砂 原 よし子 |
| 小難しい医療保険の見直しが二人の距離を縮めておりぬ | 米 山 和 明 |
| この家の角を曲がっての角が無い春の真ん中桜も咲いた | 川 井 洋 二 |
| 「おばあちゃんやばいんじゃない?IHにハイハイハイと返事してたよ」 | 久保寺 弘 子 |
| 春キャベツかぱりかぱりとはがしては夕べを気付くおしずはいない | 内 田 小百合
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| H3ロケット消えし高空に弥生七日のおぼろ満月 | 赤 岡 奈 苗 |
| コロナとう波の引きたる駅前にあまたころがる「閉店」の文字 | 浅 川 清 |
| みそ玉をエイッと投げ打ち蒼ちゃんが春の空気をまぜこんでゆく | 佐 藤 幸 子 |
| 思い出はぼろぼろこぼる萩焼の息子のぐい呑み酒をみたせば | 飯 島 今 子 |
| 収束はためらいがちのコロナ禍に同級会ののろしを上げる | 古 屋 あけみ |
| 加工したアプリの写真のみ残り元の自分はいつしか消えぬ | 渡 辺 健 |
| 旧姓のままに小刀握りしめ子の鉛筆をはらはら削る | 西 村 鈴 子
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| アマゾンの再配達に渡される胸元のペンわずかに温い | 飯 塚 益 子 |
| 家族みなわれの頼みに返事よし自主返納に関わりありや | 浅 利 尚 男
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| 重ね着の炬燵の夫婦にらめっこするにも飽きて春を待ちいる | 甘 利 和 子 |
| 医師からの余命半年その言葉必ず自力で翻すと言う | 塚 本 裕 子 |
| 塀ぎわに掛けおく障子おのずから二月の雨に紙を浮き上ぐ | 山 内 薫 子 |
| 青空に縁(ふち)透きとおりゆく月は帰らぬ友のペーパーレース | 佐 野 可主子 |
| 子どもらの労力あてにし学校の農繁休業という日のありき | 小 林 敦 美 |
| 公園に歳をきかれし幼児は見知らぬ老いに「としいくつですか」 | 詫 間 妙 子 |
2023年4月号(VOL.41)NO.393 河野小百合 選
| わが肩に手を置くごとく春の雪降りつつ消えるたちまち消える | 内 藤 のりみ |
| 除草剤くぐり花壇に繁殖すゼニゴケ色のロシアの兵士 | 中 山 恵 理 |
| 金星を見てきたような鶺鴒が前へまえへと道案内す | 中 澤 晃 子 |
| 吟行会の集合写真のみな笑顔半分の人に今は会えない | 内 田 小百合 |
| キエフからキーウに変わりもう一年 今年も咲いた庭の福寿草 | 川 井 洋 二
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| 「闇バイトだったのかしら」被害者となりたる友が受け子憐れむ | 前 田 絹 子 |
| 吊られいる皮ジャケットは若き日の匂いを放つ待っているよう | 保 坂 謹 也 |
| 軒先の雪解けの音(ね)は三拍子時にドサッとリズムを崩す | 岡 ゆり江 |
| 叶び鈴を門扉に付けて門閉ざす開けっ放しの好きな私が | 飯 島 今 子 |
| 一年(ひととせ)を免許証に挟みにし棕櫚の十字架を聖盆に置く | 杉 田 礼 子
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| 描きあげてそっと立ち去るアーティスト壁がキャンバス月よりの使者 | 渡 辺 健 |
| 五十となる次男に送る一筆は一筆のまま白紙うまらず | 福 田 君 江 |
| エリンギという名の茸「縁切り」と聞こえぬように静かに食す | 広 瀬 久 夫 |
| ウィッグをさらさら洗うそのかたち娘の頭に似ていてなでる | 荒 居 干 織
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| 召使になります助けてくださいとガレキに挟まる少女の叫び(トルコ地震) | 永 田 はるみ
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| 投稿は義父の集めし古切手色褪せのある初代白鸚 | 佐 野 可主子 |
| さあ行くぞさあさあさあと言いながら中々さあと上がらない腰 | 渡 辺 治 |
| 「クリスマスプレゼントです」とわが主治医最後のドレーン慎重に抜く | 大 柴 文 枝 |
| 寒の朝たちまち曇るメガネ見て固まる児らの表情見えず | 藤 原 三 子 |
「み冬」なる言葉を知った小寒の最低気温はマイナス6度
| 廣 瀬 由 美 |
2023年3月号(VOL.41)NO.392 河野小百合 選
| 垂れさがる石榴三つがそれぞれの揺れ幅をもつ夕べの風に | 三 沢 秀 敏 |
| ひと夜さに地蔵ヶ岳が白くなる採られぬままの柿のかがやく | 浅 川 春 子 |
| ひたすらに穴埋め問題解くごとく母に相槌打ち続けおり | 前 田 絹 子 |
| 冬の陽が畳の凹みきわだてる姉なき部屋の箆板(へらいた)のあと | 藤 原 伊沙緒 |
| きたかぜに綿雲ゆっくり押されゆき権現岳の影を連れ去る | 清 水 さき江
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| 虫喰いを選り分けている平ざるに全き大豆がころころ笑う | 望 月 迪 子 |
| ああ今日は仕事はじめか子が孫が各エンジン吹かして行きぬ | 久保寺 弘 子 |
| 大ぶりの白菜を取るこの朝キリリとしろい南アルプス | 砂 原 よし子 |
| 自転車を引きつつ帰る老人は籠に青ねぎ来し方を乗す | 杉 田 礼 子 |
| 春の日の富士のすそ野は砲弾にウクライナのごと汚されている | 保 坂 謹 也
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| 地下たびの脚にふまれて道の端にへばりつき咲く冬のたんぽぽ | 角 野 成 子 |
| この朝は冬一番の寒さなり蟷螂バケツに凍り付きいて | 武 藤 睦 子 |
| 福島の地から湧き出づ名水の「ALPS処理水」海へ放たん | 石 川 なほ子 |
| アルビノの白うさぎさん多数派となってこんなに愛でられて跳ぶ | 田 村 悟
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| 金曜日の仕事帰りの朗月堂どこでもドアを心が開く | 田 丸 干 舂
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| 身を任すウォーターベッドに目をつむり10分間は唐突にくる | 伊 藤 于永子 |
| 登りきて小遠見山の頂に指差しすれば手は空の中 | 鈴 木 憲 仁 |
| 夕焼けを背(そびら)に浴びて散歩する川面に映る二人三脚 | 清 水 ひろみ |
| うす曇るみぞれまじりを駆けぬけて賢治が聴いたG線上のアリア | 寺 田 富 子 |
| ボリュームを五十に上げて見るドラマ賑やかなるは老い人ライフ | 浅 川 節 子 |
2023年2月号(VOL.41)NO.391 河野小百合 選
| 紅葉に灼かれし肌を冷やすごと八ヶ岳(やつ)の裾より雲わきあがる | 浅 川 清 |
| 公園のベンチにひとつ置かれいる黒い鞄が落ち葉をつめて | 前 田 絹 子 |
| この年は梨北特A〈順子米〉さあさあはらから八人が待つ | 古 屋 順 子 |
| 「風呂出たよ」大きな声で知らせいる老母(おいはは)のいて平和なる夜 | 米 山 和 明 |
| たかたかく角を掲げて牡鹿立つはやも冬枯れ猫坂峠 | 藤 原 伊沙緒
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| 「ドングリの実落下あり」の看板が愛宕山トンネルの脇に立つ頃 | 川 井 洋 二 |
| 作業着を着替えて午後はジャズライブ鳥打ち帽子ちょっと斜めに | 望 月 迪 子 |
| 気をつけて脚立の足を気をつけて甲州百目の巨木の下に | 砂 原 よし子 |
| 木枯らしが我が家の庭に運びくる桃の袋やぶどうの傘や | 坂 本 芳 子 |
| 孤独なる音寒空に響かせて文学館の噴水あがる | 内 藤 のりみ
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| 群がりてコスモスは咲く畑の畔(くろ)肩を揺らしてコーラス始む | 斉 藤 さよ子 |
| 「金木犀が匂ってくるね」「そうだよね温暖化だね」子犬がほえる | 保 坂 謹 也 |
| 水(み)の口の水の調節果たす板納屋に重ねて五月を待たん | 横 内 進 |
| 今日もまた気付いてしまった卵どうふの底がすこーし小さくなるを | 飯 塚 益 子
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| トミさんの背中は更にまるまってゴミの袋を引きずってくる | 秋 山 久美子
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| 自転車のかごのラジオは眠らずに星に向かって歌い続ける | 石 川 なほ子 |
| 塵除けの箱に掛けたる新聞紙未読の記事に呼び止められる | 尾 野 深紗子 |
| わが子から孫へと続く八千代掛け繭玉みたいな幼なを包む | 佐 野 可主子 |
| バーコードバンド手首に付けられて手術を受ける物体となる | 浅 川 節 子 |
| フルートの音はうす絹なめらかに冬の素肌に滑りおりゆく | 荒 居 干 織 |
2023年1月号(VOL.41)NO.390 河野小百合 選
| 立冬の空の深きにふくらめる枕に今日のすべてを載せる | 浅 川 春 子 |
| ディスプレーのコーヒーカップの立たす湯気日毎濃くなり冬に入りゆく | 内 藤 勝 人 |
| 前立腺摘出終えたわが夫の尿量聞いて今日が始まる | 赤 岡 奈 苗 |
| このつぎは三百二十二年後ですともかく今日は返却期限 | 中 澤 晃 子 |
| ひと夏を伸びにのびたる葡萄づる極楽ごくらく空に遊んで | 砂 原 よし子
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| 女子オープン居間に視ている夫と子の歓声とくに聞き分けがたし | 久保寺 弘 子 |
| 丸々と風たくわえて紅のコキアの並ぶ新住宅地 | 望 月 迪 子 |
| 妊婦さんに挟まれて待つがん検診アロマほのかに香れる室(へや)に | 中 山 恵 理 |
| うしろから自転車が来る気配して道をゆずれば落ち葉のつづく | 杉 田 礼 子 |
| ぽっこりとおなかを少しふくらませ白清々し十三夜の月 | 秋 山 眞 澄
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| 市営バスのボディーに描かれし大き桃毛がふんわりと舞いくるようで | 古 屋 あけみ |
| おもちゃなど投げくる駄々子のミサイルのような攻撃ロシアを重ね | 内 藤 のりみ |
| 富士山は美しすぎると言う男(ひと)は英字のバイブル携えて来る | 西 村 鈴 子 |
| 教官はうなずきながら点検す七十五歳の運転技能を | 永 田 はるみ
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| ゴルフ場がソーラーパネルの湖(うみ)となりトンボのめがねはさぞ眩しかろう | 飯 塚 益 子
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| 稲刈りに互いの語気の荒くなる予想気温の三度上がるは | 石 川 なほ子 |
| 父の名の表札外す玄関の跡くっきりと白き外壁 | 佐 野 可主子 |
| どこまでも青いばかりの空だから秋の階段かけ上がる脛 | 荒 居 干 織 |
| お隣の中一男子近ごろは野菜づくりに鉢が増えゆく | 詫 間 妙 子 |
| 植木屋の夫婦どちらも肩までの髪を先だけ金色にして | 小田切 敏 子 |
2022年12月号(VOL.40)NO.389 河野小百合 選
| 邪魔されぬ死を手に入れたベランダの蟬の見ていた碧き大空 | 斎 藤 皓 一 |
| 紙コップを積んでならべて子どもらが体育館に生む白いまちなみ | 中 澤 晃 子 |
| 新しきノートに所信表明のように一首を記していたり | 佐 藤 利枝子 |
| 夕ぐれが早くなったね敬老の紅白饅頭いただきながら | 石 川 輝 子 |
| カラッポのぶどう畑の棚の下両手を広げ大き息する | 坂 本 芳 子
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| 穂芒を挿してはなやぐ一升壜意外と似合う出窓の月に | 望 月 迪 子 |
| 割り切れぬ思いに国葬のテレビ消す献花の人波デモの人波 | 砂 原 よし子 |
| 欄干に来し赤トンボ渓流を見下ろす吾にしばしつき合う | 小佐野 真喜子 |
| 「どんじり」と「びり」は最下位同じ意味甲州弁ならやっぱり「げっぴ」 | 仙洞田 紀 子 |
| 満身にかかえた光がこぼれだす午後のすすきを風がゆらせば | 浅 川 清
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| みこもかる信濃の赤き夏リンゴむきいる皮が伸びてゆくなり | 保 坂 謹 也 |
| 落花生をつつき散らせるはしぶとの鋭き眼光プーチンに似る | 角 野 成 子 |
| モビールの小鳥のように回りいる何時ものスーパーそしてコンビニ | 岡 田 喜代子 |
| 水筒を取りに戻りし友を待つ登校の列に秋の日やわし | 秋 山 久美子
|
| 「次に買うコーヒーカップは軽いのに」そこまで老いたかわたしの妻は | 浅 利 尚 男
|
| ああなんだここに居たのか二歳児はティッシュの箱を空っぽにして | 石 川 なほ子 |
| 無花果の熟れ落ちるときひと粒のひかりに庭は身震いをする | 荒 居 千 織 |
| 夕暮れて秋の手仕事こそ楽し栗の鬼皮指染めて剥く | 尾 野 深紗子 |
| 秋風に活字疲れの目を洗う 川の向こうにこすもす揺れて | 清 水 ひろみ |
| 海色のグラスにビール注ぐとき鎌倉の波押し寄せてくる | 浅 川 節 子 |
2022年11月号(VOL.40)NO.388 河野小百合 選
| ボブカットの老女を捜す貼り紙の今日も揺れいるデマンドバスに | 加々美 薫 |
| 海の色があふれぬように包まれたポストカードをわたされている | 佐 藤 利枝子 |
| 綱引きのようにふんばり稗を抜くとんぼ群がる夕ぐれの中 | 古 屋 順 子 |
| 朝に出てゆうべに帰るごとくにも三年ぶりの子の寝姿は | 斎 藤 皓 一 |
| 月夜には幼き吾が乗りていん母の作りし陶板の馬 | 前 田 絹 子
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| ゴーヤーの加減知らずの蔓の先まあだまだまだ雲の峯まで | 望 月 迪 子 |
| 十五夜が御坂の山の端にのぼり甲斐一円を光がつつむ | 砂 原 よし子 |
| 午後からは予報どおりの雨となり隣の畑でも脚立をしまう | 三 沢 秀 敏 |
| 音高く蕎麦すする子の首長し大盛り二枚たいらげてゆく | 角 野 成 子 |
| 銀色のパネルに総身おおわれて苦しくないかソーラーの山 | 浅 川 清
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| ウクライナの民俗楽器のバンドゥラ「翼をください」静かに奏で | 斉 藤 さよ子 |
| わが庭に生まれ出たのか飛び立った?の飛行のバランス悪し | 保 坂 謹 也 |
| 物言わぬ男孫を乗せて走る道紅葉の先がもう色づいて | 堀 内 和 美 |
| お隣はわが村のランドマークなり屋根に真っ直ぐ白鷺立ちて | 石 川 なほ子
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絵日記の最後のページのカブトムシ茶色のクレパス小さくなりゆく
| 西 村 鈴 子
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什上がりし風鈴を背に車イスは南極展へと向きを変えたり
| 田 丸 千 春 |
| 携え来し二冊の本を読み終えて旅の予定の一つを果たす | 清 水 ひろみ |
| 「閉店」を「完全閉店」と書き替えてふんばっている銀座の老舗 | 詫 間 妙 子 |
| あの人はいつも突然やってきて口約束の余韻を残す | 樹 俊 平 |
| きみだけの空を映した丸眼鏡きみの創った世界のかけら | 中 島 早 希
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2022年10月号(VOL.40)NO.387 河野小百合 選
| この朝の金剛力士の夏雲は甲斐駒ヶ岳をかくしてしまう | 清 水 さき江 |
| 秘書という肩書きをもちどことなく演じて週に三日のパート | 中 澤 晃 子 |
| 〈こうなるとただの鉄屑〉トラクターを悼む陽はさす夏の畑に | 斎 藤 皓 一 |
| カラスきて鳩も来るらし水あびの庭の洗い場水を足しおく | 古 屋 順 子 |
| 表情はマスクの中におしこめて眠れぬ老母の繰り言を聞く | 望 月 迪 子
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| 通りがかりの老婦にいたくほめられて色づきの良い二房を切る | 三 沢 秀 敏 |
| さしあたりサラダの足しになるほどのパセリを播かん庭の隅っこ | 加々美 薫 |
| 手術から十三年目脊柱の「ビスのゆるみもだいじょうぶです」(脊柱管狭窄症) | 堀 内 久 子 |
| ひとところソーラーパネルを輝かせ夏の夕日が足踏みをする | 浅 川 清 |
| 青ふかき日日の暮らしを詰め込んで捨て行く紙はリユースされる | 保 坂 謹 也
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| 茅ヶ崎ゆ送られてこしトルコナス真っ白なボディーにレシピを添えて | 仙洞田 紀 子 |
| 「ただいま」の男孫(まご)のテノール吹き抜けて玄関に吊る額ゆらぎたり | 内 田 文 恵 |
| 夕風が防災無線の語尾だけを連れてカーテン大きく揺らす | 飯 塚 益 子 |
| 〈岡島〉がなくなるらしい団塊のわれの忘れぬお子様ランチ | 甘 利 和 子
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カリガリとラスクを食めば二女が来て三女すぐ来てにぎわいの夏
| 伊 藤 千永子
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桃の木下にシルバーあるは食べ頃ととんちんかんな盗っ人のあり
| 石 川 なほ子 |
| 泣きながらレシーブつづく決勝戦十三歳の夏真っ盛り | 佐 野 可主子 |
| 立ちのぼる白い煙は〈笑〉の字に義父(ちち)十七回忌族の集う | 清 水 ひろみ |
| 核兵器先制不使用希求するグレーテス氏の声朗々と | 尾 野 深紗子 |
| 向目葵をめじるしにして曲がる角 秋の知らせは来なくてもいい | 荒 居 干 織
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2022年9月号(VOL.40)NO.386 河野小百合 選
| 炊きたての飯の薫りがするんだよ稲の花さく畦に叔父いいき | 内 藤 勝 人 |
| まだ濡れている朝空へ軒つぼめ狩りにゆくらし早口に鳴く | 浅 川 春 子 |
| 小麦畑焼かれる農民このわれは鹿よけテープ畦に張りいる | 古 屋 順 子 |
| 一つずつ音と光を消して寝るKDDI明日を待とう | 石 川 輝 子 |
| 頭なで背中さすればさらでだに腹もさすれと仰向けになる | 三 沢 秀 敏
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| 細っぴもひねくれ者も旨そうだ庭に実ったうりの兄弟 | 中 山 恵 理 |
| 草刈るは男壮(ざか)りらしき夏富士に顎つき出して水飲まんとす | 望 月 迪 子 |
| 小さき子を諭すがごとく出がけの息子(こ)「暑くなるからうちに居ろしね」 | 久保寺 弘 子 |
| 近づいて見れば玉ねぎ畑なり北海道のサイズにそよぐ | 浅 川 清 |
| はたらきかた改革という週末は郵便物がポストに休む | 秋 山 眞 澄
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| 夏富士のすっきり浮かぶ奥座敷たとう紙の紐ほどいてゆきぬ | 古 屋 あけみ |
| 振り向くと父の姿が見えなくて補助輪のなき夏の校庭 | 保 坂 謹 也 |
| あめんぼの影の映れる池の底小型ドローンの空飛ぶごとし | 飯 島 益 子 |
| この世には形の違う不幸せが幾つもあると狙撃犯に知る | 堀 内 和 美
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これからはゆっくり行くよと妹のシルバーヘアが夏日に光る
| 秋 山 久美子
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転院のための封書を受けとって身延線での旅も終わりぬ
| 西 村 鈴 子 |
| ブレーメンまで歩けそうもない雄犬がペースを上げて水場に向かう | 尾 野 深紗子 |
| 半世紀役目を終えしぬか漬けの石はただ居るベランダの隅 | 福 田 君 江 |
| 生まれ家の庭より移すあじさいの素朴な白は母をおもわす | 小田切 敏 子 |
| 川沿いを窓全開に走る朝みどりの風を独り占めして | 佐 野 可主子 |
2022年8月号(VOL.40)NO.385 河野小百合 選
| ありったけの流れとなりて甲(かぶと)川八ヶ岳(やつ)南麓の夏がはじまる | 古 屋 順 子 |
| 紫陽花の根方は喉(のみど)大バケツひとつの水をたちまちに干す | 斎 藤 皓 一 |
| 黒猫を根本に眠かせもったりとジャーマンアイリス真昼間を咲く | 堀 内 竹 子 |
| 六月のバックミラーにあらわれた虹にまっすぐ降る天気雨 | 中 澤 晃 子 |
| 声張りて土俵ひらひら跳ぶごとく行司伊之助夏衣かな | 望 月 迪 子
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| ギャラリーのように揺れいる緑たち湖畔の周遊コース走れば | 中 山 恵 理 |
| 非常食を日常食に食むゆうべ消費期限をむかう赤飯 | 室 伏 郷 子 |
| 思い切り大きなくしゃみ5連発桃の畑にカラスとび立つ | 三 沢 秀 俊 |
| いつのまにでっかくなりしスニーカー男爵いものすぱっとはまり | 角 野 成 子 |
| 底なしの空を呑みこむ見張田は八ヶ岳南麓の底なしの湖 | 浅 川 清
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| 叶き捨てた言葉のはずの「憎たらしい」スマホがとらえ説明始む | 中 西 静 子 |
| アクセルを噴かした様な風が吹きゆっさゆっさとエゴの木ゆする | 卜 部 慶 子 |
| さて「いぬのおまわりさん」も安心すマイクロチップの装着義務は | 石 川 なほ子 |
| 赤白帽かぶりし子らの手にノート〈ポンポン展〉の空気やわらぐ | 岡 田 喜代子
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いっせいに水田に鳴ける蛙たち我が田の蛙加わるらしき
| 永 田 はるみ
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| わが歌を声にし読めば水槽の金魚あたふた鰭を動かす | 甘 利 和 子 |
| 「ありがとう」妻に電話をしたという命のおわりKAZUIの底 | 浅 川 節 子 |
| 炎天の道路工事の停止線日焼けの腕が白旗を振る | 佐 野 可主子 |
| 夜の雨みぞれに変わる無人駅アートペンチに冬が座りぬ | 樹 俊 平 |
| 馬子たちの汗の染み込む石畳復活めざし掘り起こすなり | 渡 辺 治 |
2022年7月号(VOL.40)NO.384 河野小百合 選
| レイトショー終われば非常階段は見知らぬ海へつながっている | 佐 藤 利枝子 |
| 十八歳(じゅうはち)の線刻まれず米松の太き柱は役ひとつ終う | 中 澤 晃 子 |
| 「雀の鉄砲」ロシアの風にのりこしか五月のわれの花壇を侵す | 藤 原 伊紗鎬 |
| 老い人のATMを手助けす防犯カメラに写されながら | 浅 川 春 子 |
| 軽トラの幅ぎりぎりの畑の道いつもの雉に先導されて | 三 沢 秀 敏
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| 食べるより見ていたいからリンゴ飴かざし歩行者天国を行く | 中 山 恵 理 |
| 九州から届いたんです豊満な乳房おもわすデコポンニつ | 佐 田 美佐子 |
| 一列に丈を揃えてハナアヤメ腰を伸ばせと言われたような | 砂 原 よし子 |
| 洗濯機三回分の冬服が風に揺れたり父の裏庭 | 笠 井 芳 美 |
| はりつめた閲覧室に入りゆけば人はかすかに耳を動かす | 角 野 成 子
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| 睦子さんが豆まく後を鳩が追う初夏の日差しがニコニコ見てる | 武 藤 睦 子 |
| フルートの響き思わす八ヶ岳(やつ)の風雑木林にたましい宿し | 内 藤 のりみ |
| この夏の参院選のお願いは個票にあらずライン登録 | 石 川 なほ子 |
| 四月きて『山女が俺を呼んでる」と夫の張りきるラジオ体操 | 甘 利 和 子
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立ち漕ぎで登りてくるはわが男の子俯きしまますれ違い行く
| 堀 内 和 美
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| 侵略者なき四階のベランダに春日を浴びて青菜は芽ぶく | 西 村 鈴 子 |
| 朝のひかり葡萄の棚に届ききて枝へ枝へと這う水の音 | 荒 居 干 継 |
| 子と孫とワイングラスを合わせたり何はともあれ一つの家族 | 鈴 木 憲 仁 |
| 閉店を告げる手書きの貼り紙が風雨に耐えて未だ破れず | 樹 俊 平 |
| 子育ても生まれ育ちも甲府にて墓所は直径一キロにある | 詫 間 妙 子 |
2022年6月号(VOL.40)NO.383 河野小百合 選
| 桜木の下の異界へ誘われん「どっとはらい」と言わるるまでを | 前 田 絹 子 |
| 〈このようになるまでオレは働いた〉束子で洗うゴム長の底 | 斎 藤 皓 一 |
| 白鯨の碑の足元に風ありて守るがごとくはなびらを積む | 赤 岡 奈 苗 |
| 西へ行き南へまがりさやさやと信号機なき北杜をはしる | 今 井 ひろ子 |
| トートバッグの中に草もち桜もち大法師公園母と歩みぬ | 中 山 恵 理
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| 早春の山のわさびのさみどりを今年限りと丁寧に刈る | 望 月 迪 子 |
| 咲きみちる連翹の垣に触れぬようぴっぴっぴっぴバックしてゆく | 砂 原 よし子 |
| スーパーのレジを打つ人今日からは客に打たせる指導者となる | 川 丼 洋 二 |
| ほんのりと赤み増したる四方の山むうんむうんとふくらんでくる | 浅 川 清 |
| 逆上がりが今もできない春の宵指にのこれる砂あたたかく | 仙洞田 紀 子
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| 枝先に莟ふくらむ白木蓮グーチョキチョキの明日はパアに | 秋 山 眞 澄 |
| ディズニーの動物連れて行進をキーウの街のみどりのなかを | 保 坂 謹 也 |
| 北側の廊下の空気やわらいで春の時刻表くっきりと貼る | 伊 藤 干永子 |
| 一階の校舎の窓の明るくてまだ帰らない先生がいる | 飯 塚 益 子
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「配信」てよく分からずに紛れ込む年甲斐もなく桜満開
| 田 村 悟
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| 新しいキャットタワーと思いしか縦横無尽にひな段を跳ぶ | 石 川 なほ子 |
| 夫とせし重き議論の正解(こたえ)なし特定少年実名報道 | 尾 野 深紗子 |
| 砲撃ののちの音階に揺れているキーウの街の赤いブランコ | 荒 居 干 織 |
| 歓声をあげ車からとび降りる幼は花のひとひらとなる | 山 内 薫 子 |
| 思い出は折り紙みたいに折り重ね時には広げ空を飛ばさん | 佐 野 可主子 |
2022年5月号(VOL.40)NO.382 河野小百合 選
| 長靴の泥んこおとす春の水 くよくよするな蛇口全開 | 古 屋 順 子 |
| ハンガーに腕組みをするセーターは弥生の風にためらうらしも | 今 井 ひろ子 |
| 横たえるわれに朝刊届けくれ階降りてゆく音の不揃い | 大久保 輝 子 |
| 青みゆくコップのクレソンひとつまみ里のせせらぎふくらむ頃か | 藤 原 伊沙緒 |
| 二泊して受験先から戻りくるあごにまばらな髭を生やして | 中 澤 晃 子
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| 息子よりのアメジストの月耳たぶに初のバイトの重みがゆるる | 中 山 恵 理 |
| デリバリーの簡易容器がみぎひだり春の疾風に揺れていきたり | 佐 田 美佐子 |
| 粗塩は次回にしよう チャージしたばかりのカード早々不足 | 久保寺 弘 子 |
| インタビュー受ける店主の黒マスクずり落ちたればまた引っ張り上げて | 三 沢 秀 敏 |
| 一週間前はオリンピック応援す逃げ惑いいる戦禍の人も | 笠 井 芳 美
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| 根を延ばしハコベに割り込むホトケノザ陣取り合戦ここにもありて | 秋 山 眞 澄 |
| 折りびなの小顔(こがん)に似合う越前紙色あざやかにわれを遊ばす | 内 藤 のりみ |
| ウクライナへの侵略激しわが家のお内裏さまの遠きまなざし | 永 田 はるみ |
| 器用ともものぐさとも思(も)う足指に夫はこたつのスイッチつける | 飯 塚 益 子
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| ウクライナもじゃが芋植える時期だろう終わってほしい戦争すぐに | 杉 山 修 二
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| 「めっちゃうまい」なんて言えない吾が世代そんな時代に戦争はじまる | 田 村 悟 |
| 寂しさを気ままという語におきかえる一人のこたつ三面空いて | 廣 瀬 由 美 |
| せせらぎに母と並びて摘みし芹巻きずしの具の遠き春の香 | 清 水 ひろみ |
| もう間もなく奏ではじめる春の川ぽぽぽ水底チューニングして | 荒 居 千 繊 |
| コードレスクリーナーに似て大切なところで充電切れる私 | 小久保 佐智子 |
2022年4月号(VOL.40)NO.381 河野小百合 選
| とてつもない空の青さよ「おーい空」だあーれもいない諏訪口の空 | 古 屋 順 子 |
| たおされし木々にゆるしを請うようにちいさな雪がきょうはやまない | 中 澤 晃 子 |
| 三度目のファイザー接種の朝の来て安定剤の一錠を飲む | 米 山 和 明 |
| 顔拭けと温きタオルを持ちくるる夫よ畑に春がきている | 大久保 輝 子 |
| 食事後のくすりの袋ガサゴソと互いに開ける冬の夜ごろを | 久保寺 弘 子
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| 切り山椒食めば思ほゆ雪の夜大神さんへ父と行きたり | 中 山 恵 理 |
| 「ふくはー内コロナー外」といつになく気合いを入れて豆撒く君は | 砂 原 よし子 |
| 鍛冶屋橋のたもとにおわす地蔵尊肩なだらかに雪をのせおり | 坂 本 芳 子 |
| 心やや整いにくく風呂上がり補修剤など立て爪に塗る | 杉 田 礼 子 |
| うすらいの中のビー王この朝の日差しを待ちているのかポツリ | 角 野 成 子
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| 怨念をはらすかのごと吹く風に裏の欅の太枝折れる | 武 藤 睦 子 |
| 八十度のお湯が若葉の色になる時をゆったり今朝の味なり | 保 坂 謹 也 |
| ひと夜かけ積もりし雪に被われた昨日の鬱を掘るのはやめよう | 堀 内 和 美 |
| 富士を見るスポット多きわが町に移住者がまたひとり増えたり | 堀 内 澄 子
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| 目をつむり猫は鼻先ひくひくす近づく春を吸っているらし | 石 川 なほ子
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| 昨日まで夫の着ていたカーディガン縮み具合がわたしに馴染む | 飯 塚 益 子 |
| 毎日の仕事は畑に行くのみのマスク不要の山里の春 | 早 川 辰 雄 |
| 老いた身が生きるためには手がかかる薬に眼鏡、イヤホンまでも | 鈴 木 憲 仁 |
| マスクして帽子かぶってどんと焼き誰が誰やら今年もよろしく | 廣 瀬 由 美 |
| 何気ない励ましのメモ付いてくるお隣りからの回覧板に | 塚 本 裕 子 |
2022年3月号(VOL.40)NO.380 河野小百合 選
| 街路樹のイルミネーションしあわせなイミテーションがまっすぐつづく | 中 澤 晃 子 |
| 日当りの良きむこう山柚子の木を境に5枚われの畑が | 窪 田 喜久子 |
| とりあえず黙食なれば車麩のフライさくさく音をさせおり | 佐 藤 利枝子 |
| 腰かけて腕組みをして眼(め)を閉じる冬日だまりは逝くによき処(とこ) | 斎 藤 皓 一 |
| ひとつだけ反りの合わないスープ皿朝のひかりに影をおとせり | 望 月 迪 子
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| 桃落ち葉片寄りし道行き行かば馬頭観音影ながく立つ | 荻 原 忠 敬 |
| 突然に馬の放尿始まればげに消火栓を開くがごとし | 三 沢 秀 敏 |
| 新宿の二丁目あたりの姐(ねえ)さんの瞳(め)をした黒き野良猫に会う | 深 澤 靖 子 |
| 泊まるならシングルにして女にはひとりになれる楽屋が要るの | 浅 川 清 |
| 冬至の日は「ん」のつくもの食う習いうどん・れんこん・南京(なんきん)なんぞ | 仙洞田 紀 子 |
| この道を真っすぐ行けば公園に堀を横切るオミクロンいる | 保 坂 謹 也 |
| 使いかけのセロリ一株キッチンに八重歯のように茎の伸びいる | 秋 山 真 澄 |
| のし板に広げる餅のふあふあとのびたい方へのばしてあげる | 永 田 はるみ |
| 中休み終りのチャイム生徒らの心残りのブランコ揺れる | 飯 塚 益 子
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| 広告にHELLO KITTYの福笑い 遠き日の子のお多福笑い | 岡 田 喜代子
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| 笹刈りのボランティアなるわれらまず薪ストーブをたく霜の朝 | 堀 内 澄 子 |
| 青春の入口近く差し伸べた僕の手君がすり抜けた冬 | 渡 辺 治 |
| スーパーの割引食品迷わずに買い来て日々のSDGS | 浅 川 節 子 |
| 正月の花を活け加え玄関は消毒液の置き場に戻る | 塚 本 裕 子 |
| 汗光らせ義足を外すアスリート走り高跳びセンチの誇り | 樹 俊 平 |
2022年2月号(VOL.40)NO.379 河野小百合 選
| トナカイは渡航制限ないらしいサンタを乗せてロヒンギャヘと行け | 杉 田 礼 子 |
| さんかくのフィックス窓に正解を知っているかの月があらわる | 中 澤 晃 子 |
| 静止画のごとき令和の三年の喪中はがきのぽつりと届く | 佐 藤 利枝子 |
| 夜の雨にぬれたる庭をなめくじが地上絵描くシルバートーンの | 藤 原 伊沙緒 |
| きまりよく丸まる白菜つぎつぎと説き伏せるごと剥がしてゆきぬ | 清 水 さき江
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| おそるおそる三面鏡の角度変う地肌のすけてきし頭頂へ | 坂 本 芳 子 |
| 月の面をしずかに覆う地球の影我らふたりをのせて移ろう | 望 月 迪 子 |
| おはようと広報渡す生垣のひとかたまりのさざんか散らせ | 砂 原 よし子 |
| 寒風のなかに足場を外される金属音が混じりていたり | 小佐野 真喜子 |
| いくえにも渓を覆えるもみじ葉にそまるまもなく奔りゆく水 | 浅 川 清 |
| 朝晩の寒気が募る漱石忌ねこは自慢のひげを揺らせり | 内 藤 のりみ |
| 雨音を消さないほどに夕暮れを顔赤くしてみどり児が泣く | 角 野 成 子 |
| 日帰りの山歩きにはこのポット今日のカフェラテ砂糖を少々 | 堀 内 澄 子 |
| 距離感を保ちてことばを交わす朝いつもの塀がことさら高し | 飯 塚 益 子
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| すっきりと皇帝ダリア青空に立ちて乳飲み子と暮らしはじめる | 永 田 はるみ
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| 「迷惑はかけたくない」と蔦落葉風に吹かれて庭から消える | 甘 利 和 子 |
| 「ただいま」の声の調子が伝えくるかばんに詰めた今日のあれこれ | 清 水 ひろみ |
| 振り返りつつ坂くだる友の背を今日の夕日がやさしく染める | 塚 本 裕 子 |
| 刃を入れて裂くとき秋の白菜はさみどりの風さやかに放つ | 荒 居 干 織 |
| 長き尾を得意げに振り柿の木に百舌鳥の初見え冬めぐり来る | 鈴 木 憲 仁 |
2022年1月号(VOL.40)NO.378 河野小百合 選
| 冬を待つ四尾連湖のあさ音もなく湖面の雲を風がかき消す | 佐 藤 利枝子 |
| 八ヶ岳南麓は霜菜園のあお首大根肩を迫り出す | 清 水 さき江 |
| 多摩丘陵を終の住処に雪豹は眠たげな目にしばし動かず | 内 田 小百合 |
| 腰痛にとらわれ過ぎて忘れいる渓流釣りの川の匂いを | 米 山 和 明 |
| 順番を示す番号そのたびに手の中のそを確かめてみる | 川 井 洋 二
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| 自粛明けの公民館のコピー機が二十八部の注意書を吐く | 砂 原 よし子 |
| 立ち漕ぎの君の尻ポケットふくらますわが文庫本 まっすぐに行け | 望 月 迪 子 |
| 飛ぶことを忘れたようにあゆむ鳩銀杏並木に光あふれて | 中 山 恵 理 |
| 割り箸の先に食紅をチョイチョイとさくら色した赤飯が好き | 仙洞田 紀 子 |
| さえずりは石積みの内早朝の竹刀と竹刀激しくあたる | 保 坂 謹 也 |
| わたくしの体調不良を引き受けて傷みておりぬ鍋のカレーは | 浅 川 清 |
| 泥つきの牛蒡を洗う噛み合わぬ夫との会話一緒に洗う | 武 藤 睦 子 |
| 「のら猫のいびきがすごい」と隣人が目を見開きぬゴミを出す朝 | 秋 山 久美子 |
| 十月の初冠雪の富士の山まとまらぬ歌三首に日が射す | 佐 藤 幸 子
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| 風呂の窓開けっぱなしで入る癖気にしなさすぎは似た者同志 | 飯 塚 益 子
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| 三時過ぎ常連客が入りくる熱いのぬるいの騒がせておく | 浅 利 尚 男 |
| 雲を呼ぶ四輪駆動のオフロード富士のすそ野を夏がかけゆく | 樹 俊 平 |
| 鶏卵を拡大鏡で見るごとし十月二十日の満月仰ぐ | 浅 川 節 子 |
| あちらからこちらから届くじゃがいもの豊かな夏を備蓄にまわす | 梶 原 富 子 |
| 既読のみ 音沙汰なしの息子らの無事願いつつ遠富士望む | 廣 瀬 由 美 |
2021年12月号(VOL.39)NO.377 河野小百合 選
| 咲きさかるグラジオラスを傾かせひと夜たのしみ雨は去りたり | 斎 藤 皓 一 |
| 弥陀ヶ原のコーヒータイム靴先にくくっと羽おくみやまあかねは | 藤 原 伊紗緒 |
| 小さなる千鳥湖の辺(へ)のベンチには描き掛けのままのキャンバスおかる | 米 山 和 明 |
| 飴の名は〈マスク空間〉リラックスルームの籠の一粒もらう | 浅 川 春 子 |
| 食卓から勉強机にそのあげく捨てられているカップ納豆 | 中 澤 晃 子
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| この朝の剃りを逃れしひょろひょろのたった一ぽん なぶられている | 内 藤 勝 人 |
| 彼岸会の初の里芋 焼きあごの出しにゆっくり昧をととのう | 久保寺 弘 子 |
| 夏草の茂みに一輪曼珠沙華プリマドンナのかみのほつれて | 室 伏 郷 子 |
| エアコン無(ね)えパソコンも無(ね)え吾のくらし縄文時代へつきすすむのか | 丸 茂 佐貴子 |
| ねむり入る時の間耳をすどおりす夫の寝息は眠剤である | 古 屋 あけみ |
| さざなみの琵琶湖を庭にひきいれてグランドホテル巨き船めく | 浅 川 清 |
| TOTOのボタンを押すとこの夜の静かな水は螺旋を描く | 保 坂 謹 也 |
| 鉢植の小さなポトスが柵れている宿泊療養ホテルの窓辺 | 田 丸 千 春 |
| 脱衣場におとなの義足たてかけて意外に明るい運動コーチ | 浅 利 尚 男
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| 貨物車の長い連結見送りてゆっくり渡る秋の踏切 | 甘 利 和 子
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| 色づいた甲州百目をゆっくりと手で数え終え椀ぐ日を決める | 横 内 進 |
| 庭に咲くアネモネの白夕暮れはエミール・ガレが点れるごとし | 樹 俊 平 |
| もやもやを吸い込みすぎし掃除機がぷしゅんと鳴いて事切れし朝 | 秋 山 久美子 |
| いわし雲かひつじ雲かと言い合いてとおい空へと旅をはじめる | 荒 居 千 織 |
| 夫いわく君が大勢家に居るトイレに居間に灯(ひ)を消し忘れ | 塚 本 裕 子 |
2021年11月号(VOL.39)NO.376 河野小百合 選
| 那須高原の風のにおいをとじ込めて冷たき梨がゆうべ届きぬ | 山 本 栄 子 |
| 振り返ること多くなるアリゾナの夕陽を共に見た兄が逝き | 石 川 輝 子 |
| トンボ鉛筆2B一本形見なり姉の好みのバッグの底に | 小田切 ゆみゑ |
| 百日紅なつの終わりの色きわめ吾が眠る間も散り急ぐなり | 渡 辺 淑 子 |
| くもりのちときどき晴れの晴れくらい勉強をするうちの高3 | 中 澤 晃 子
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| 庭先も縁側もなし玄関のドアをおさえて立ち話する | 前 田 絹 子 |
| 蝉しぐれほどよき声量となりにけりへたれ耳にも良きこと一つ | 内 藤 勝 人 |
| 「まあまあ」と「そこそこ」の差の体調の今朝はそこそこ友に語りぬ | 室 伏 郷 子 |
| 半円の窪みに月の光抱き窓辺に静か亡母のこね鉢 | 望 月 迪 子 |
| 熱中症冷房病は紙一重 森吹く風を恋しくなりぬ | 丸 山 恒 雄 |
| 「ライオンのおやつ」見終えて絵日記のお粥のようなときが流れる | 保 坂 謹 也 |
| この森の左半分晴れていて右に降る雨光らせている | 浅 川 清 |
| 学校の給食おいしくなくなった小四もらす分散登校 | 永 田 はるみ |
| 今はもうだあれの手にも繋がらずかごめかごめも一人で回ろう | 堀 内 和 美
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| 「ひまわり歌会」もり立てて鳴るこの午後の南部風鈴とんぼをよべり | 佐 藤 幸 子
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| 寝そべった案山子もあってこの朝はご苦労さんと声かけて過ぐ | 飯 島 今 子 |
| タリバンのテロの映像一瞬にパラリンピックの熱戦となる | 西 村 鈴 子 |
| キッチンに崩れた形そのままの布巾乾きて残暑のゆうべ | 飯 塚 益 子 |
| 大小に揺れて止まらぬ穂の波に感染数の曲線重なる | 荒 居 千 織 |
| 夫の指挟んで九十七と出るパルスメーター朝のはじまり | 浅 川 節 子 |
2021年10月号(VOL.39)NO.375 河野小百合 選
| 夏まつり今年もなくてポケモンの浴衣着られぬ背丈となりぬ | 秋 山 久美子 |
| くつ下を履かんと椅子に座り込む白湯をひと口最中をひとつ | 石 川 輝 子 |
| 人影のなき夕暮れのグラウンドに誘うごとく水たまり照る | 斎 藤 皓 一 |
| とり出だす時に小さく鈴が鳴る遠き幼の祭半纏 | 大久保 輝 子 |
| 原爆に奪われし命さやぎいん〈核兵器なき世〉を読みとばされて | 今 井 ひろ子 |
| キタアカリ、男爵、洞爺掘り終えてけものの如く汗振り払う | 砂 原 よし子 |
| つくるのをやめたところと水田のパッチワークがひろがる車窓 | 中 澤 晃 子 |
| 引越しの友が処分の荷のなかに木肌清しき木馬が立てり | 前 田 絹 子 |
| 我が家へも味見に一箱送らせて今年の中元これで完了 | 内 藤 勝 人 |
| 睡蓮の葉の浮く鉢にキジバトの一羽を待ちて朝の水たす | 望 月 迪 子 |
| あそうよソーシャルじゃないフィジカルよ私とあなたのこのディスタンス | 浅 川 清 |
| 客途絶え午後三時過ぐ青果店あぶら蝉のみの世界となりぬ | 内 田 文 惠 |
| コロナ過をご先祖さまは来るらしい夕べの風に迎え火をたく | 内 藤 のりみ |
| 二ヶ月の病院暮らし坪山は仲び放題の蔓が絡みて | 卜 部 慶 子
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| 卜りどりのマスク作りしさと子さんそのエネルギーを我らいただく | 伊 藤 于永子
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| 夕暮れて野良着を掛ける五寸釘倉庫の柱に黒く光りぬ | 杉 山 修 二 |
| 会終えてマスクはずせばスペーシアに吾の空間ドンと広がる | 佐 藤 幸 子 |
| コロッケにソースをかける一瞬に一本背負いを見損ないたり | 石 川 なほ子 |
| 届きたる暑中見舞いは空と海クレパスの青親指につく | 西 村 鈴 子 |
| アクセルを踏み続けたらこの青に溶けていけそうな梅雨明けの空 | 廣 瀬 由 美 |
2021年9月号(VOL.39)NO.374 河野小百合 選
| 塩味がちょうどいいよとひと粒の猫の餌をなめ孫はいいたり | 今 井 ひろ子 |
| 大方は高齢となり庭の辺の石垣に座す納棺までを | 大久保 輝 子 |
| スケボーの少女するする走りゆく小瀬公園の青葉の中を | 米 山 和 明 |
| シルバーの草刈隊に志願せし夫に持たせる水ニリットル | 山 本 栄 子 |
| 山々をローランサンの色あいがゆんわりつつむ夏のゆうぐれ | 中 澤 晃 子 |
| 四十年同じ団地に住みふりて老人会の茶菓子を選ぶ | 前 田 絹 子 |
| こまぎれに徒(かち)と車にはこばれる聖火ランナーのみが笑みつつ | 内 藤 勝 人 |
| チェンソーの音ひびかせて盛大に太枝を剪る木くず飛ばして | 砂 原 よし子 |
| 巴旦杏とはゆかしきひびき円やかな心のかたちを両手につつむ | 望 月 迪 子 |
| 桑の実のぽたりぽたりと地に落つる春蚕(はるご)の後にジャムとした母 | 山 下 愛 子 |
| ちぢみ紫蘇塩でもむこと五回なり夏の暑さを瓶につけこむ | 丸 茂 佐貴子 |
| 紫陽花の藍に埋もれし地蔵さん切れ長の目の誰ぞに似てる | 日 向 このえ |
| 造影剤は瞬時に身体中めぐりマスクの中の呼気にもれいん | 勝 村 真寿美 |
| 接種へと向かうよそゆきブラウスのボタンの一つがぷらぷら揺るる | 岡 田 喜代子
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| 平箱にジグソーパズルをするように茄子とトマトと旬を嵌めゆく | 秋 山 眞 澄
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| 各々の待機の時間確かめて出発のごと人は立ち行く | 堀 内 和 美 |
| どこまでが本音なんだろ失恋をぴえんでくくるあなたのメール | 秋 山 久美子 |
| 「AIが伺います」と電話口 夫かしこまり「ハイ」と言うなり | 福 田 君 江 |
| 病院の床の掃除を任されるルンバのほこり人が拭くなり | 石 川 なほ子 |
| ワクチンの接種せっしゅの掛け声がわっしょいわっしょいに聞こえたりして | 飯 塚 益 子 |
2021年8月号(VOL.39)NO.373 河野小百合 選
| この年の百花蜂蜜すきとおる豊富村の日差しを溜めて | 浅 川 春 子 |
| 参加賞がマスクに変わるこの朝の区民一斉の缶ひろいなり | 清 水 さき江 |
| ひとつだに雲なく空の暮れてゆく借財残し兄は逝きたり | 斎 藤 皓 一 |
| 郭公のスタッカートの切れの良く父母のワクチン接種日の朝 | 佐 藤 利枝子 |
| 八ヶ岳を背景にして田植機が一筆書にゆうゆう進む | 中 澤 晃 子 |
| じゃが芋の白き花打つ走り梅雨わずか堆肥の臭いをさせて | 砂 原 よし子 |
| 椅子席をどうぞと指されし宴席に従いている己がありぬ | 荻 原 忠 敬 |
| オニヤンマふっとよぎれる夕まぐれサングラス似合う父なりしかな | 中 山 恵 理 |
| 富谷(とみたに)のみどりのトンネルくぐりゆく青葉の密はゆるされていい | 浅 川 清 |
| とうとうと述べる理由を傾聴す行きたくない日の姑のケア論 | 望 月 迪 子 |
| 荒畑を耕すときの我が意欲機械の力とコラボしている | 渡 辺 健 |
| 麦畑をみたことが無い子はパンを食べるが麦の青さを知らず | 武 田 東洋一 |
| 一日の始まりとして夫のするテレビガイドの赤丸のかず | 甘 利 和 子 |
| ひょいひょいと芝生に顔出す庭石菖シシリンチウムの名で店に出る | 伊 藤 干永子
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| 父の日に馬刺しが届き育休を取りいる長男の無精髭思う | 田 村 悟
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| そういえば母親まかせの時流れ今は聞きたし息子の青春 | 浅 利 尚 男 |
| 黙食はいつもながらのことですとテレビに向きて一人つぶやく | 梶 原 富 子 |
| 「お母さんがワクチン二回打ったから一度帰るわ」金魚が跳ねる | 山 内 薫 子 |
| 神殿に頭を下げて手を合わす節くれだつ指はぴったり合わず | 鈴 木 憲 仁 |
| ”おーいお茶”言ってみたいな日本の妻という座の代表として | 飯 塚 益 子 |
2021年7月号(VOL.39)NO.372 河野小百合 選
| 野口さん、お帰りなさいこの惑星(ほし)はいまでも青く見えたでしょうか | 小 林 あさこ |
| 猫に付き私もタンポポ踏んで行く娘の家の鍵をつるして | 石 川 輝 子 |
| 襟足をさらう夕風生(あ)れたての夏の兆しを隠していたり | 佐 藤 利枝子 |
| 夏の葉ををひたすら食みてみずからの身をもて余すこの芋虫は | 斎 藤 皓 一 |
| じゃがいもは蒔いておくから気にするな農婦もどきがオペ室に入る | 中 澤 晃 子 |
| 変わらざる山と川とが呼応するマスクを外す深き呼吸に | 加々美 薫 |
| 掬っても掬っても母は指の問(ま)に桜散る問に記憶のなかに | 深 澤 靖 子 |
| 芋畑一畝さくり腰のばし一畝さくり鍬も休めな | 小佐野 真喜子 |
| もうすぐに期限の切れるパスポート草原に建つゲルを思いき | 角 野 成 子 |
| 失礼ですがと声かけられてむき出しの口元に気付く食品売場 | 望 月 迪 子 |
| 草蘇鉄内緒話をしているか行儀良い輪があちこち並ぶ | 武 藤 睦 子 |
| 「行けない」のか「行かない」のかはふたたびの桜の咲きて不登校なり | 浅 川 清 |
| 末端でも医療従事者卯月にはワクチン接種の案内届く | 勝 村 真寿美 |
| コロナ禍の五輪の決行誰(た)がためにクーベルタンに問いてきやががれ | 田 村 悟
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| そんなにも密に咲いたら叱られるこでまりこでまり風に揺れおり | 堀 内 和 美
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| 今朝は雨みどり濃き雨さむい雨音のない雨会話無き雨 | 卜 部 慶 子 |
| セーターをしまいし頬に春の風次に着る日に風はどう吹く | 廣 瀬 由 美 |
| 旅先に世事の全てを忘れるも三度の薬つきまとい来る | 鈴 木 憲 仁 |
| さよならは明日も会えるという意味の思い違いの友の急逝 | 早 川 辰 雄 |
| 「リニアが開通したら大阪にランチに行こう」彼女は黄泉に | 雨 宮 たつゑ |
2021年6月号(VOL.39)NO.371 河野小百合 選
| さえずりが楡の巨木をころげくる風すこしある花冷えの里 | 藤 原 伊沙緒 |
| 数学を今なら好きになれそうだ畑のはこべらきれいに抜いて | 清 水 さき江 |
| 春祭り告げる花火の白煙が若葉の森にしばしとどまる | 佐 藤 利枝子 |
| 自粛して日向ぼっこの老い二人軒先に来たアンパンを買う | 窪 田 喜久子 |
| 勝沼の駅のめぐりは葉桜に突っ込み線とは遠き日のこと | 加々美 薫 |
| 平等に老うらし女ともだちと桜のロールケーキ分けつつ | 中 山 恵 理 |
| 五日ぶりに戻り来たればほわほわと門からずっとわが家がにおう | 中 澤 晃 子 |
| 大菩薩今のぼり来し朝の日は消毒の霧に虹いくつ掛く | 荻 原 忠 敬 |
| 雨の日の桜花びら貼りついてちぎり絵のよう傘をさしゆく | 保 坂 謹 也 |
| 耳元の髪のカットにかかるとき片方外すマスクのひもを | 浅 川 清 |
| 楽しみの改革なりやコロナ禍に息子は絵ハガキ吾はメールで | 日 向 このえ |
| ベランダの上と下とに住み分けてつばめの家族の啼き交わしおり | 内 藤 のりみ |
| 風の音とおのれの音とを沸き立たせ〈あずさ〉は春の踏切を過ぐ | 甘 利 和 子 |
| 四月十九日ワクチン接種の通知くる見上げた空に雲雀鳴きおり | 横 内 進
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| 甲子園春の選抜一回戦同じ縦じま甲府はどちらだ | 秋 山 眞 澄
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| ケロケロと池の方から聞こえきて猫がしきりに鼻を動かす | 岡 ゆり江 |
| うぐいすに会いに行きましょあの森へできればこの手つなぎたいけど | 尾 野 深紗子 |
| この枝はこう伐るんだと剪定師こだわる鋏に春の陽そそぐ | 早 川 辰 雄 |
| ゼロ四つ値札を付けて中央にクラウンメロン睨みをきかす | 樹 俊 平 |
| 交差路のまるいミラーの映し出す四月の空は霞む花色 | 荒 居 干 織 |
2021年5月号(VOL.39)NO.370 河野小百合 選
| 十年を経たると聞けば揺れながら共におびえた猫思い出す | 前 田 絹 子 |
| 暖かき春のひかりは山上のダム湖に大き鳥をあそばす | 山 本 栄 子 |
| いちめんの野焼きのけむり男衆が影絵のように畔に浮きいる | 清 水 さき江 |
| ガッツポーズの大坂なおみ朝刊にぬくくつつまる焼いもふたつ | 藤 原 伊沙緒 |
| 肋骨のすきまに風の道ありて春あさき夜はセーターを巻く | 石 川 輝 子 |
| 風に乗りさぞや黄砂が飛ぶでしょうマスクのような富士の笠雲 | 中 澤 晃 子 |
| ポスターは塀にたるんでせっかくの美人もいまや変な顔なる | 内 藤 勝 人 |
| 中国の旅に求めし端渓の硯この家のどこかあるはず | 久保寺 弘 子 |
| 呟きはいつだって本音 春雨はやさしい間合いに雫をこぼす | 望 月 迪 子 |
| みちのくのみやげに買いし青ベコは三陸の海 果てしなき青 | 仙洞田 紀 子
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| 春のきてわたしの耳はやわらかくマスクのゴムの外れやすしも | 日 向 このえ |
| 赤信号渡るのもよlし春が来て私の胸にくすぶるジェンダー | 保 坂 謹 也 |
| とことこと坂道をいくランドセル私の脚のギア切りかえる | 永 田 はるみ |
| われの名を金魚につけてぶつぶつと何か物言う夫のうしろ背 | 甘 利 和 子 |
| わさわさと枯葉除ければ約束の水仙一列呼吸しており | 堀 内 和 美
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| 老いしゆえ賀状終えるとう幾通か老いてこそ消息を知りたきものを | 青 柳 順 子 |
| ″落穂拾い゛の農夫のような祖母のいた昭和中頃背戸の畑に | 樹 俊 平 |
| 春の空春の匂いだこんな日は菜の花買いに橋渡りゆく | 山 内 薫 子 |
| 名を呼ばれMRIに入る時夫の補聴器吾の手が包む | 西 村 鈴 子 |
| 就寝用外出用に普段用いつしかマスクも使い分けして | 飯 塚 益 子 |
2021年4月号(VOL.39)NO.369 河野小百合 選
| 枝先にポップコーンのはじけたるごとく白梅開きはじめる | 佐 藤 利枝子 |
| 三枚のレシート今日の一日が洗濯槽にこなごなとなる | 浅 川 春 子 |
| たんたんとペースメーカー走りいる今日の代価をわれは思えり | 清 水 さき江 |
| 古株の紅梅四、五輪咲きいだす根元静かに春の水おく | 窪 田 喜久子 |
| ああまたもプラカードに見る髪飾りスーチlさんは少しく老いて | 前 田 絹 子 |
| 何度目の冬かは知れずヤマザクラ芽吹く準備はもうできている | 中 澤 晃 子 |
| 里びとの通わぬ道に白椿一糸まとわず咲いているなり | 深 澤 靖 子 |
| ねじを巻き秒針の音に耳を当つ母のつぶやきたしかめるごと | 室 伏 郷 子 |
| ゆったりと春の雲行き図書館は碇おろした客船のごと | 望 月 迪 子 |
| コロナ禍に見舞うことなく逝きし義姉手作りマスク縫いためてあり | 仙洞田 紀 子
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| 霰ともつかぬこの日の粗目雪剪定はじむと芽は動くなり | 広 瀬 久 夫 |
| 陽の匂う二人の下着たたむ手に日日の足跡刻まれている | 山 下 愛 子 |
| 梅園のゆうらり揺るるブランコにふわり浮いてる夫婦二人で | 岡 田 喜代子 |
| 夜の更けのスマホ歩数に浮かびくる今日会いし人別れたる人 | 伊 藤 于水子 |
| 流星群を見んと仰げる冬のそら 哀しき言葉は日記より消す | 青 柳 順 子
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| 大寒の昼間の月にケンケンパ子らの遊びは夢の中まで | 山 内 薫 子 |
| 難問のクイズの解ける日のありて体調不良をしばし忘れぬ | 塚 本 裕 子 |
| 茶饅頭半分にして姉と食む一か月ぶりに訪ねて来たり | 小久保 佐智子 |
| 寒月の光あつめて青白き水道管は垂直に立つ | 秋 山 久美子 |
| アメフトのオフェンスラインの娘婿臼と杵とが小さく見える | 堀 内 澄 子 |
2021年3月号(VOL.39)NO.368 河野小百合 選
| これ以上は望まぬものを口中に今朝のバナナのわずかな苦み | 内 田 小百合 |
| 隙間風にドアがうるさく鳴っている安倍晉三の空疎な「おわび」 | 清 水 さき江 |
| 国道のすすきが夕日返しおり群れ立つ獅子のたてがみのごと | 浅 川 春 子 |
| 即席麺の空袋ひとつテーブルに昼餉の仕度せずに戻れば | 山 本 栄 子 |
| ゆく川の流れは一方通行でコロナ前にはもう行けません | 中 澤 晃 子 |
| 初詣行かずとろとろ昼のころスマホアプリでおみくじを引く | 中 山 恵 理 |
| この家の匂いをすべて消している投げ入れされた壺の蝋梅 | 久保寺 弘 子 |
| 太極拳の靴跡の中交じりいてガラスのものか往き戻りせり | 前 田 絹 子 |
| 千切りの冬のキャベツはコールスロー メルケル首相の涙流れて | 保 坂 謹 也 |
| くれないのつぶらつぶらのっぼみ梅鹿の子絞りの帯揚げに咲く | 杉 田 礼 子
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| 怪獣の吐きたる針にほむら立つどこまでを伸ぶ感染者数 | 浅 川 清 |
| ばればれのつまみ喰いとも数の子は囗の外まで音のはじける | 望 月 迪 子 |
| 農鳥が新年早々現れてコロナウイルス変異は続く | 田 村 悟 |
| 初仕事は小寒の日の畑に出て李の剪定ペースを掴め | 広 瀬 久 夫 |
| 急ぎいるマスクにもれる息荒く涙袋も湿りはじめる | 岡 田 喜代子
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| いつからか行方しれずのわがバケツこの強風に戻り來たりぬ | 甘 利 和 子 |
| 玄関に泥持ち込みし吾の姿微々たる罪をセコムは暴く | 尾 野 深紗子 |
| 朝焼けの橙色は少しずつ宇宙に続く空色になる | 石 川 なほ子 |
| 迷わずに汁粉の缶のボタン押す工事事業者のゴム手袋は | 秋 山 久美子 |
| 蓋代わりにカップラーメンに歌集載す方代さんが温かそうだ | 飯 塚 益 子 |
2021年2月号(VOL.39)NO.367 河野小百合 選
| 良いほうのふたつを言いてそのほかの期末テストは寄せ鍋のなか | 中 澤 晃 子 |
| 編みあげし正ちゃん帽がよく似合う夫が窓越しに手をふっている | 古 屋 順 子 |
| いさぎよく枯葉を落とす木蓮にけさ銀色の若芽が光る | 大久保 輝 子 |
| 当然のように座って目をつむる縁側にいる誰かの猫が | 山 本 初 子 |
| 誰もいぬ静かな昼の炬燵なり青い風船ままに転がる | 小田切 ゆみゑ |
| 日溜まりに美しくなる吊し柿ドソミソドソミソ両手に揉まれ | 砂 原 よし子 |
| 亡き父の万年筆の滑らかさ喪中葉書にひとこと添えて | 中 山 恵 理 |
| マスターズに夢中なひとの傍らでスマホにオリーブの塩漬け搜す | 久保寺 弘 子 |
| 午後五時にガス灯がつく和良足湯(わらしゆ)に浸かっているのは旅人ばかり | 仙洞田 紀 子 |
| 一人住む淋しき時間の嵩ならん母折るチラシの屑入れ二十 | 望 月 迪 子
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| それぞれが分裂家族となりゆきて今年の聖夜は息子とふたり | 内 藤 のりみ |
| 家電(いえでん)に吾のケイタイ探す朝もみじ葉の中にくぐもりて鳴る | 角 野 成 子 |
| 公園のブランコだけがゆれているコロナウイルス追い出すように | 卜 部 慶 子 |
| 椎の実が坂を埋める道細くずずずずずっと神社へ向かう | 永 田 はるみ |
| これまでも人と逢う事少なくて自粛生活と名を変えて過ぐ | 堀 内 和 美
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| しっかりと眠れた朝の太陽はしっかり吾の体をつつむ | 飯 島 今 子 |
| コロナ禍に職業言えぬ友のおり白衣の天使蔑む社会 | 石 川 なほ子 |
| 過去のこと全て忘れし叔父なれど古賀メロディーのギターをならす | 樹 俊 平 |
| 亡き姉が学芸会にかぶりたる赤頭巾あり母の箪笥に | 小久保 佐智子 |
| 汗だくの体に一滴香水を落として籠に李椀ぎゆく | 市 川 ふくじ |
2021年1月号(VOL.39)NO.366 河野小百合 選
| このあした体温計を挟みたる腋下もいつか老いていにけり | 斎 藤 皓 一 |
| 根津邸に灯り点れば人気なき廊下の記憶足音となる | 佐 藤 利枝子 |
| おっかない顔だと母が笑いたり体温計手に近づきゆけば | 清 水 さき江 |
| 徒渉湖のウッドチップを敷く径が足をふうわり押しあげてくる | 浅 川 春 子 |
| 長い長い戦いだった夏草を荼毘に付すごと火を放ちたり | 砂 原 よし子 |
| アルバムに貼るをすでにしあきらめて菓子箱三つにぎしぎしためて | 加賀美 薫 |
| 泥つきの大き里芋一株の親子をはなすパキリパキリと | 坂 本 芳 子 |
| 向う岸にシャッターチャンス待ちいるか車の列が朝の日返す | 小佐野 真喜子 |
| コンビニは煌々として夜明けまで淋しきものを誘いつづける | 望 月 迪 子 |
| 帰り来て今日のマスクを四つ折りすはあっと息をはき出しながら | 保 坂 謹 也
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| 加速する判子文化のデジタル化わが存在をたしかめて押す | 内 藤 のりみ |
| いいんだよ紅葉がりならこの庭で無駄な答弁寝ころびて聴く | 丸 茂 佐喜子 |
| 湯上がりの手首に残るマジックの時計おさえて幼はねむる | 青 柳 順 子 |
| 朝霧は盆地を満たし二子山越えてわが里神金に来る | 広 瀬 久 夫 |
| 柿ひとつ奪い合うこの椋鳥ら嘴赤く重なりている | 横 内 進
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| 坂の上の家の柚子の木だいだいがぽかりぽかりと青空にうく | 永 田 はるみ |
| 久びさに会う約束は友の死の列に加わる明日の夕刻 | 梶 原 富 子 |
| 森深く道は岐れて夕焼けにコテージを指す矢印の立つ | 樹 俊 平 |
| われわれも逝けば老衰のふた文字ね受話器通して淋しく語る | 塚 本 裕 子 |
| 七か月ぶりに入りゆく図書室の言うに言われぬ「ああこの匂い」 | 飯 塚 益 子 |
2020年12月号(VOL.38)NO.365 河野小百合 選
| 敬老会中止となりて配られる電気ミニマットふかふかとして | 大久保 輝 子 |
| 稲扱きの準備するらし物置の明かりのともりエンジン音す | 日 向 敬 子 |
| 宗次郎の奏でる音色乗せてゆく人間ドック健診のあさ | 斎 藤 皓 一 |
| 三円のセブンイレブンの袋には三円以上の手触りのあり | 米 山 和 明 |
| マスク着け会話を控えテーブルにかに釜飯を三分蒸らす | 佐 藤 利枝子 |
| セキレイの尾にまねかれて林道をこのままゆけば秋の入口 | 中 澤 晃 子 |
| ひと冬を送れますよう五枚ずつ夫の下着に名を記しゆく | 古 屋 順 子 |
| 果てのあることの安けし海までの一本道をただに歩めり | 前 田 絹 子 |
| この朝稲田は刈田と化しておりいつもの道がぽかあーんと広い | 望 月 迪 子 |
| さっと触れトンボがゆきし水溜り怒りのように雲を乱して | 仙洞田 紀 子
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| ハモニカのドレミを順に吹くように唐蜀黍の粒を噛みゆく | 丸 山 恒 雄 |
| 鰯雲わんさか浮かぶ大空に底引き網を曵いてゆきたい | 砂 原 よし子 |
| 予科練の雷艇隊の隊長の親父は何も話さず逝けり | 田 村 悟 |
| 玄関のマスク専用フックにはひらりと下がりわれを待ちおり | 岡 田 喜代子 |
| 観客は一家族一人懸命にバトンを渡す動画を見つむ | 甘 利 和 子
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| 旅好きの息子が今は自粛して動画で「呉」を旅するらしき | 斉 藤 さよ子 |
| 面会は十五分まで 老い母に「あかんべえ」して笑顔引き出す | 浅 川 節 子 |
| ただいまの声と帰りし洗濯物行ってきますに間に合わせよう | 廣 瀬 由 美 |
| 借り手なく作る人なく山裾の畑は獣の遊び場となる | 雨 宮 たつゑ |
| 秋めいて売り場に並ぶランドセル男の子すばやく黒をかかえる | 梶 原 富 子 |
2020年11月号(VOL.38)NO.364 河野小百合 選
| 思い出の何もなき夏スカートの裾を揺らして終わりを告げる | 佐 藤 利枝子 |
| フェイスガードに盂蘭盆の経上げくるる僧侶の首に汗の光れり | 山 本 栄 子 |
| 荒草が伸び放題で絡みつくこれも筋トレ足踏みしめる | 日 向 敬 子 |
| お情けの裁きがいいね秋の夜は長谷川平蔵に逢わんと思う | 山 本 初 子 |
| コロナ禍でなくても家で過ごす日日総理のマスク私は好きよ | 石 川 輝 子 |
| 本を読む吾の机のそばに来て居眠る母に秋の風過ぐ | 清 水 さき江 |
| 安倍首相辞任のニュース食卓に今年最後の「美しき」桃 | 中 山 恵 理 |
| 地下足袋の鞐はずして待機する夕立はすぐすぎてゆくだろ | 三 沢 秀 敏 |
| 雨上がりのタイルにできた水溜まり我のうしろに青空があり | 保 坂 謹 也 |
| 縁側にしおからとんぼ飛んでくるギョロギョロ目が父に似ている | 丸 茂 佐貴子 |
| 雨蛙オクラの葉っぱに座りいる親指姫を探してみたり | 笠 井 芳 美 |
| 突然の首相辞任に蝉しぐれ和すがごとくに競うがごとくに | 日 向 このえ |
| 猛暑日の歌評述べあうテーブルに汗をかいてる冷凍みかん | 浅 川 清 |
| 新築が二軒増えたるわが組をゆっくり見ながら区長が行けり | 浅 利 尚 男 |
| だれかれに過剰サービスする君は酢豚の赤いパプリカのよう | 角 野 成 子 |
| ふくらめる莢から順に食べてゆく枝豆夫は畦豆という | 岡 田 喜代子 |
| 炎天の防災訓練おみならは日傘をさしてディスタンス取る | 石 川 なほ子 |
| ほんの少し涼風混ざり吹くタベスプリンクラーに秋茜寄る | 飯 塚 益 子 |
| 肩並べ妻と見上げる三つ峠縄文人も眺めただろう | 樹 俊 平 |
| 一日の仕事を終えて脱ぐシャツの汗に重たしまだまだやれる | 鈴 木 憲 仁 |
2020年10月号(VOL.38)NO.363 河野小百合 選
| 花嫁の白き半巾よそゆきのマスクにせんと鋏を入れる | 山 本 栄 子 |
| ひまわりのソフィアローレン涼やかに梅雨の見舞のハガキ手に受く | 山 本 初 子 |
| ピンク帽の児らが駆け込むうすべにの合歓がゆれあう午後の木陰に | 藤 原 伊紗緒 |
| 精出して水施せしメークインざくっと掘ればあらかた小振り | 藤 原 昭 夫 |
| 航空写真しけじけ見れば吾が家の継ぎ足し普請なんとも多し | 古 屋 順 子 |
| この宵は雨乞虫もくわわって夏の網戸は密になりゆく | 中 澤 晃 子 |
| オフイスには夏草の香のながれきて感染防止対策中なり | 佐 藤 利枝子 |
| ストレスの解消になれわり箸とバケツを持って毛虫を探す | 清 水 さき江 |
| あぐらかく梅雨前線ずぶ濡れの町にうす目のごとき青空 | 仙洞田 紀 子 |
| 行く末を思えば雲はいつの間に分かれわかれて青に溶けゆく | 望 月 廸 子 |
| 土用干しの南高梅のしわくちゃをまたほっとして紫蘇酢に戻す | 杉 田 礼 子 |
| ミニトマトは音符のごとく生りており「ひいふうみい」と赤き実を摘む | 山 下 愛 子 |
| 長雨はうってつけだよピーマンのひだに身を置くなめくじひとつ | 永 田 はるみ |
| 原色の幾何学模様のTシャツが在宅勤務の次男を晴らす | 勝 村 真寿美 |
| コロナ過はマスクのままで焼香す律儀な君に失礼ながら | 浅 利 尚 男 |
| 膝の痛みに三日通わぬ畑中のバットのような瓜につまずく | 角 野 成 子 |
| 盂蘭盆に読経する僧マスクしてショートショートと帰りを急ぐ | 雨 宮 たつゑ |
| みつ豆の赤えんどうの存在感そんなばあばでいたいと思う | 秋 山 久美子 |
| 朝七時エンジン音の威勢よし葡萄を載せて運搬車行く | 伊 藤 千永子 |
| 終活をしている友より付き合いはもうここまでとメールが届く | 堀 内 澄 子 |
2020年9月号(VOL.38)NO.362 河野小百合 選
| 〈ウィズコロナで乗り切ろう〉三河木綿のマスクに添える子の走り書き | 大久保 輝 子 |
| 手わたしが禁じられたる回覧板されど手わたす老いの夫婦に | 沢 登 洋 子 |
| 平らかに水の入りしを確かめて十六枚の田を巡り来つ | 山 本 栄 子 |
| モリアオガエルふいに現る墓参り蛙が好きと初めて聞きぬ | 米 山 和 明 |
| 火を抱き微かふるえる富士山に今朝も添うなり雲のさまざま | 渡 辺 淑 子 |
| 強いられているわけでない家呑みはテイクアウトのフレンチフライ | 佐 藤 利枝子 |
| 正しくは〈再開〉なれど〈会〉の字が令和二年にしっくりとくる | 中 澤 晃 子 |
| マスクつけ帽子をかむるわたくしの影を薄めることにも慣れて | 清 水 さき江 |
| ひさびさに鉄打つ音のひびきくる吉田鉄工の高窓が開く | 加々美 薫 |
| 額から化粧はじめて病院へ額を出してまずは検温 | 日 向 このえ |
| 挿し芽せし白紫陽花を地に植えん夏がしぼんでしまうまでには | 杉 田 礼 子 |
| 我が畑をキャンパスなりと草を刈る振り返り見る初夏のいろどり | 渡 辺 健 |
| 土鳩は畑の中に餌求めなきつつ春の光に沈む | 武 田 東洋一 |
| このような施策もあったと孫子までアベノマスクを箪笥にしまう | 浅 川 清 |
| 手の甲を青銅色に焼いている野良の仕事にマスクは無用 | 横 内 進
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| 入選の朝は静かに明けてゆく天狗山なる緑が沁みる | 広 瀬 久 夫 |
| スイッチを入れればコロナウイルスが映る画面に猫はパンチす | 西 村 鈴 子 |
| 愛車より降りる日近くわが夫の貧乏ゆすり日ごとに荒し | 福 田 君 江 |
| 屋根の上にソーシャルディスタンス保ちつつ梅雨の晴れ間を囀りつづく | 藤 原 三 子 |
| 「どうしっか」困った時の甲州弁「おれんやらあ」の男気を待つ | 秋 山 久美子 |
2020年8月号(VOL.38)NO.361 河野小百合 選
| 里山の木々の間にパラソルをかざすがごとし白き桜は | 浅 川 舂 子 |
| 職退きて七年が経つわが夫に贈られて来し〈創業百年史〉 | 山 本 栄 子 |
| 伊奈ヶ湖の白鳥の名はマイク君「おれの達(だち)だ」とパン屋指さす | 米 山 和 明 |
| 森永のミルクキャラメル袋入りうすくなりたる昭和の昧は | 今 井 ひろ子 |
| 過ごしたる”おうち時間”はクリムトのジグソーパズルの半分を埋む | 佐 藤 利枝子 |
| お田植は特別許可に該当しひと月ぶりに夫は帰り来 | 中 澤 晃 子 |
| 母と行く川べりの道フェンスには小指がほどの木通が下がる | 清 水 さき江 |
| マスクしてシート隔てた応答にわれの補聴器ねをあげている | 内 藤 勝 人 |
| 夕暮れのバケツに洗うTシャツが呼吸のようにジベを吐き出す | 砂 原 よし子 |
| 犬猫と話すだけって日もあると自粛生活笑いし父は | 笠 井 芳 美 |
| 一人来て拉致海岸の砂を踏むわれのめがねはつめたく曇る | 内 藤 のりみ |
| 縫いあげしハンカチマスクくちもとにあててはずしてひとりの夜に | 仙澗田 紀 子 |
| いくつもの小さきハンカチかけたごとヤマボウシ咲く おろしたての白 | 浅 川 清 |
| 自粛緩和の荒川こうえん園児らはピンクの帽子をジグザグゆらす | 飯 島 今 子 |
| 六月の柿の若木の太い幹登れば体力(からだ)は空を見上げる | 横 内 進
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| 玄関に男の子こぼせる缶ジュースてらてらてらと蟻の寄り来る | 角 野 成 子 |
| ああこれが〈アベノマスク〉か可も不可もなくとりあえず箪笥にしまう | 飯 塚 益 子 |
| 新しき車のカタログめくる手は動物図鑑繰りしあの手よ | 尾 野 深紗子 |
| 触れること向き合うことも許されず何処まで続く地下茎の絆 | 堀 内 和 美 |
| 新聞紙広げて豆の筋を取る 医療現場の友思いつつ | 伊 藤 干永子 |
2020年7月号(VOL.38)NO.360 河野小百合 選
| 「回覧板は中止にします」とりあえずひとつ日常が変えられてゆく | 大久保 輝 子 |
| 「おごれる人も久しからず」と口ずさみこの日も洗う使い捨てマスク | 今 井 ひろ子 |
| 今ならばカルロス・ゴーンはどこへゆくよしなしごとを思いてわれは | 小 林 あさこ |
| コロナ禍のせいなのだろうLINEには色んな花の動画がとどく | 米 山 和 明 |
| 肺胞のひとつひとつを浄化する五月の風を待ちいる今は | 佐 藤 利枝子 |
| 休校がまた延ばされて母と子の時差がじわじわ広がってゆく | 中 澤 晃 子 |
| 〈北杜市に移住してます〉フロントに貼って多摩なるナンバーけなげ | 古 屋 順 子 |
| 室外機の風におののく紋白蝶声を持たぬは個性なるべし | 加賀美 薫 |
| 鳴くのならこぴっとなけよ嘴太烏はるの畑はねむくてならぬ | 久保寺 弘 子 |
| 空っぽの運動場のブランコに使用″禁止の札が揺れてる | 仙洞田 紀 子 |
| 大型のクレーンの活躍“ゴジラ”なみ東宝エイトのサヨナラ上映 | 日 向 このえ |
| さみどりの大蔵経寺山にゴマダレをかけ食卓におきたいような | 丸 茂 佐貴子 |
| 手にふれるものを数えたことことなんて令和二年のわが手見つめる | 浅 川 清 |
| ひょうひょうとコロナ禍の中現れる赤銅色に日焼けす庭師 | 永 田 はるみ |
| 新しい地図に書きこむ過去の旅令和二年は思い出旅行 | 田 丸 干 春 |
| ひと呼吸おいて言葉を探してるあなたの思いをマスクが隠す | 角 野 成 子 |
| 片手上げ娘と吾とそれぞれの職場へ向かう朝靄のなか | 樹 俊 平 |
| 「接触をしないように」のお達しに居間から家族消えてしまえり | 石 川 なほ子 |
| 着ないまましまわれてゆくよそゆきのピンクのセーター「ステイホーム」の春 | 廣 瀬 由 美 |
| クリーニングされて届いた冬コートこのまま友への形見となるや | 塚 本 裕 子 |
2020年6月号(VOL.38)NO.359 河野小百合 選
| 陽を風をたのしむごとくツバメらは引込み線をゆらしておりぬ | 斎 藤 皓 一 |
| 黒猫がゆるく入りゆく休校の庭のさくらが満ち咲く朝を | 藤 原 伊紗緒 |
| 線香は焚かぬと決めしこの里の傾りの墓所に夕暮れ迫る | 山 本 栄 子 |
| わたくしを支える人はこのわたし昨日より白き北岳の尾根 | 浅 川 舂 子 |
| 安らぎを貰いに来ました一人して桃の花咲く畑に立ちぬ | 赤 岡 奈 苗 |
| 母さんと私の筋力まだ確かゴム風船を飽かずつき合う | 清 水 さき江 |
| 外泊は果たせてやれず花は散り君の分までじゃがいもを播く | 古 屋 順 子 |
| 本日は百人超える感染者 十進法の一喜一憂 | 中 澤 晃 子 |
| 日曜の午後の空白虹いろのスカーフ選ぶパソコンのなか | 中 山 恵 理 |
| 木管のロングトーンに似る今朝のクロの遠吠え弥生の空へ | 望 月 迪 子 |
| 土手歩くマスク姿の人増えて風に消される挨拶の声 | 笠 井 芳 美 |
| 何かこう押さえられてる感じしてマスクの口にドロップ頬張る | 古 屋 あけみ |
| マスクにはニコニコマークを貼るという健康ランドのコロナ対策 | 浅 川 清 |
| 休校の窓が全開されている増穂小学校明日離任式 | 秋 山 眞 澄 |
| とまり木のスターバックスは休業日持ち帰るのみの春が重たい | 勝 村 真寿美 |
| 公の施設はすべて閉鎖なりひと日縫いゆく朱き猿ぼぼ | 佐 藤 幸 子 |
| コロナという名の柔らかにこの春の人と人とを遠ざけている | 堀 内 和 美 |
| 会合におなかの虫が鳴るよりも咳のひとつの居心地悪し | 石 川 なほ子 |
| 土つきの鳥取砂丘のらっきょうが青き芽を立て吾を急かせる | 山 内 薫 子 |
| 軒先にたがいの元気確かめる手作りマスク見せ合いながら | 伊 藤 千永子 |
2020年5月号(VOL.38)NO.358 河野小百合 選
| 無意味でも完璧でもマスクしてTSUTAYAに夕べわれが入りゆく | 米 山 和 明 |
| 地下鉄を二つ乗り継ぎ君に会う「変わらないね」の声変わらない | 浅 川 春 子 |
| 信号無視のわれを許して朝霧がふかくたゆとう美術館通り | 藤 原 伊沙緒 |
| ガスボンベとり替え終えてにっこりと青年春の日にまぐれゆく | 山 本 初 子 |
| 組体操解くかのように春キャベツ一枚いちまい剥がしておりぬ | 清 水 さき江 |
| 家順に年齢順に次々と来る役と知れ跡とり息子 | 古 屋 順 子 |
| 出歩いてつながる権利あっさりとウイルスたちに渡してしまう | 中 澤 晃 子 |
| ファンヒーターがごくりと洩らす一人言まるで今宵の私のよう | 坂 本 芳 子 |
| ことば無くバナナの皮を剥くふたりこんなに甘く熟れているのに | 久保寺 弘 子 |
| ピチピチとおたまじゃくしは側溝に春のひかりをかき混ぜている | 砂 原 よし子 |
| 吹き上げる春の嵐にTシャツが洗濯ロープにジルバを踊る | 古 屋 あけみ |
| ここまでと誰が線など引くものかほうれん草が冬日に伸びる | 角 野 成 子 |
| 純白にかすかな緑「月影」の木札を下げた梅の木に向く | 岡 ゆり江 |
| 山あいのこんな小さな民宿にコロナウイルスキャンセルのあり | 卜 部 慶 子 |
| 拡大と拡散のちがいこの朝のポストに落とす中止の知らせ | 秋 山 眞 澄
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| 道端に踏まれてちぢむマスクありウイルス感染まだこぬ我が町 | 横 内 進 |
| 富士山とドクターヘリがコラボするやまなみ通りのこの橋の上 | 西 村 鈴 子 |
| 剪定の桃の上枝の雨粒が朝の光を受けて円やか | 浅 川 節 子 |
| 先生も生徒もいない校庭は猫がゆるりと春を浴びおり | 秋 山 久美子 |
| 春空を見上げるわれの足元にわれを見上げる名を知らぬ花 | 廣 瀬 由 美 |
2020年4月号(VOL.38)NO.357 河野小百合 選
| タクシーにクルーズ船に飛行機にウイルスとして乗りついでゆく | 中 澤 晃 子 |
| ごろごろと箱のみかんの残されて一人二人と子らは帰りぬ | 大久保 輝 子 |
| 一匹のもぐらを殺めトラクターは春の畑を耕してゆく | 斎 藤 皓 一 |
| 右折せずまた川沿いを遠廻り夕陽にかがよう波しずかなり | 窪 田 喜久子 |
| 欄干に立つ裸婦像のすんなりと朝日の中に胸をつき出す | 藤 原 昭 夫 |
| 滝壺の泡と揉みあう流木の行き処なく春まだ遠し | 加々美 薫 |
| 庭先の漏水の箇所見つからず使ったと思えば二月も終わる | 古 屋 順 子 |
| この年もメールにすますe-TAX確定申告するほどあらず | 内 藤 勝 人 |
| のど飴もトローチも効かぬ咳続き新型コロナを検索しているのだ | 笠 井 芳 美 |
| 冬蝶の離るる時のゆらめきは一歩を踏み出す姑にも似たり | 望 月 迪 子 |
| つややかなオレンジ色の薔薇の実が窓のまわりを暖めている | 砂 原 よし子 |
| じやが芋の芽がぼうぼうと育ちいて収納庫の中は異界となれり | 中 西 静 子 |
| 八歳のアキレス腱のしなやかさ〈なわとび選手権〉ま近となりて | 永 田 はるみ |
| 冬晴れの水車の矢羽根に絡みつつ跳ねつつ雫のひかりがまわる | 浅 川 清 |
| 忘れゆきし小さきボールに積む雪が小さく崩れ黄の色みせる | 角 野 成 子 |
| 眠らない母に包帯の手を見せる母が母になり撫でてくれおり | 田 丸 千 春 |
| 春の陽に古き家計簿ひらきおり 白紙、白紙の昭和五十年 | 福 田 君 江 |
| 赤ワイン飲みながらする雑談のそれは豊かな月並みだったの子 | 樹 俊 平 |
| 「ひさしぶり」セーラー服にハグすれば私の腕はその腰あたり | 飯 塚 益 子 |
| まがりなりにも葡萄農家の三代目その荷の重さ誰か知るべし | 芹 沢 昇 |
2020年3月号(VOL.38)NO.356 河野小百合 選
| ひゅーひゅーひゅう金曜の夜に巡りくる焼芋売りの顔は知らない | 小 林 あさこ |
| オレンジの明かりの灯る安らぎは真夜の車のキーを抜くとき | 大久保 輝 子 |
| 〈芯なし〉の予備のペーパー初売りの家電ノジマのトイレに置かる | 米 山 和 明 |
| 口内炎とにきびは同じ薬です寝る前にのむピンクの小粒 | 山 本 栄 子 |
| LEDの照明器具に紐はなく母の右手が宙を引っぱる | 清 水 さき江 |
| 〈認知症介助講座〉の申込書送られきたり もういりません | 古 屋 順 子 |
| 黒にんにく菊芋じねんじょ道の駅に並ぶ元気な老男老女 | 坂 本 芳 子 |
| 展示車のアピールをする風車師走の空に回りつづくる | 加賀美 薫 |
| バカボンの父ちゃんが着たメリヤスも温かいけれど「ハズカシイ」のだ | 丸 山 恒 雄 |
| 三つ四つの染みもいとわず日章旗令和のそらとコラボしている | 久保寺 弘 子 |
| 街路樹の向こうの空は雨模様ふみつぶされた空き缶をける | 保 坂 謹 也 |
| 切り株の熾火見守る夕畑に新雪の富士あわくなりゆく | 望 月 辿 子 |
| 半世紀を稲架につかいし竹竿が今しどんど焼の炎に上がる | 秋 山 眞 澄 |
| 店頭に細き秋刀魚が並びいる焼けばことさら細くなりたり | 角 野 成 子 |
| わが夫の言葉忘れし沈黙に電波時計の秒針速し | 卜 部 慶 子 |
| 燃えるゴミの袋かかえる収集所八ヶ岳颪がおそいくるなり | 佐 藤 幸 子 |
| 褐色のシャープな顔のアルバイト村のマックに国際化来る | 石 川 なほ子 |
| 「サンタはもう家の近くに来てるかな」グーグルマップ見つめる男の子 | 伊 藤 千永子 |
| 遠くにてわれを見守る人ありと凍てつく夜はしきりに思う | 小田切 敏 子 |
| 台風の復興支援の壁剥がし夫の作業着に千曲川の泥 | 飯 塚 益 子 |
2020年2月号(VOL.38)NO.355 河野小百合 選
| 六十余年共に過ごせし夫なれど爪の伸びしをついに見ざりき | 堀 内 竹 子 |
| 虐待はしないでしょうよしっかりと子芋をかかえ里芋届く | 山 本 初 子 |
| もう少し生きてみたいとふうせんは冬の欅の枝にゆれおり | 斎 藤 皓 一 |
| 三十余年綴り来たりし〈タカハシ〉の三年日記廃刊となる | 山 本 栄 子 |
| 昔ならば妻が看るべきだったろう介護4だの5だの言わずに | 古 屋 順 子 |
| 食材の届く火曜のフリーザー部活帰りがくまなく漁る | 中 澤 晃 子 |
| マニュアルのように返し来ありがとうございましたと寝る前の母 | 清 水 さき江 |
| おひさまは子沢山なり冬に入る広葉樹林に遊ぶこもれび | 前 田 絹 子 |
| 自らの老いめ思いは遠く置く老母の歩みに合わせる歩幅 | 望 月 迪 子 |
| 何とはいうことなけれども思い出す母の口癖「のの様しだい」 | 仙洞田 紀 子 |
| 冬の夜の街の灯りによどむ空シークワーサーサワー味わう | 保 坂 謹 也 |
| 逆さまに壁にはりつくカマキリも見ているだろう八ヶ岳ブルー | 佐 藤 幸 子 |
| チャージしてこの世の流れにのらんとし電子マネーをそっと触れさす | 飯 島 今 子 |
| 取扱説明書(トリセツ)の同じ個所から進めない明日へ持ち越すことのいくつか | 岡 ゆり江 |
| にぎわえる台ケ原カフェの客達は髭の店主に声かけてゆく | 浅 川 清 |
| まくら辺に夫読みかけの『孫育て』イヤイヤ期ありのページそのまま | 福 田 君 江 |
| 一人また約束ごとであるように病み尽くしては逝ってしまえり | 堀 内 和 美 |
| 祭り済み公民館のごくろめは老人ばかり早々と終う | 秋 山 久美子 |
| 右左口の隧道抜けて秋の邑火の見櫓は百年を立つ | 伊 藤 千永子 |
| 掃き寄せし落ち葉の上に雨降りて少しずつ沈む 日本が沈む | 中 山 久美子 |
2020年1月号(VOL.38)NO.354 河野小百合 選
| 戻りきし傘はいずこに置かれしか広げる時に枯葉が匂う | 角 野 成 子 |
| 六科(むじな)区のまつり広場のしゃぼん玉西の山並み映しながらに | 浅 川 春 子 |
| 晩秋のキウイの蔓の先っちょがつかまりたくて風を呼んでる | 渡 辺 淑 子 |
| 長雨に枝垂れてなお咲きつづく金木犀に匂いのあらず | 大久保 輝 子 |
| 初霜のおりれば柿の収穫期ひとつひとつが朝の陽に照る | 日 向 敬 子 |
| 天日干しの藁を差し上げwinーwin厩舎のかぐろき堆肥いただく | 中 澤 晃 子 |
| 母と行く朝の運動むらさきに木通の熟す川向こうまで | 清 水 さき江 |
| ワイン酌む切子の青に秋深む眠れぬ夜は眠れぬままに | 深 澤 靖 子 |
| 一年の仕事を終えしs・sの油を今日は不凍液に替う | 鈴 木 源 |
| 見えている星の数をも違うらし互いの老いを受け入れつゆく | 笠 井 芳 美 |
| ジーンズの色落ち具合丁度よしコキアの花に会いにゆこうか | 日 向 このえ |
| 五十年前のアロハを着て見ればこそばったさが背中を走る | 丸 山 恒 雄 |
| 「越流」と入力をして意味を知る台風被害の映像見つつ | 田 丸 千 春 |
| しっかりと足をあげてと妻の声気合いはいらぬテレビ体操 | 浅 利 尚 男 |
| 波のごと光を返す椿の葉今朝はシーツを三枚ひろぐ | 佐 藤 幸 子 |
| 寂しさが青い芽となり上を向く 放っておかれた玉葱一つ | 堀 内 和 美 |
| リハビリの部屋の隅より高らかに両手を上げて「ソーラン ハイハイ」 | 福 田 君 江 |
| スクラムのかみ合いし音に歓喜する獣めくもの吾に残りいる | 秋 山 久美子 |
| テレビには被災者の涙絞り出すインタビュアーの平板な声 | 石 川 なほ子 |
| うたた寝の肩にかけられし夏掛けの重みに気づく夜の深まりて | 樹 俊 平 |
2019年12月号(VOL.37)NO.353 髙安 勇 選
| わしづかみ持って行けとてつまみ菜を流るる汗も袋に入れて | 藤 原 伊沙緒 |
| 放棄されつる草の這うワーゲンが夕つ日をあび鈍色に映ゆ | 藤 原 昭 夫 |
| 墓石には二つの姓がきざまれて日差しぬくとき秋の白山 | 山 本 初 子 |
| 満月をカーテン開けてのぞき見る停電っづく千葉に光を | 石 川 輝 子 |
| 台風の進路みながら木目込みのねずみに白き布をはりいる | 小佐野 真喜子 |
| 黄楊の木にこんもり糸を張りながら何を待ちいるこの女郎蜘蛛 | 坂 本 芳 子 |
| 新しきお札の顔を語り合うポイント還元縁なき仲間 | 前 田 絹 子 |
| この家に住みし年月数えつつ壁這い上る蔦を剥ぎ取る | 渡 辺 淑 子 |
| いくばくかリスクともなう造影剤いま動脈をかっかとめぐる | 内 藤 勝 人 |
| カップルら着物姿で自撮りする三年坂の人ごみを行く | 仙洞田 紀 子 |
| じわじわと値を上げてゆく手立てなれ一円二円の切手を探す | 丸 山 恒 雄 |
| 故郷の右左口郷は山の中防災無線木霊するなり | 武 田 東洋一 |
| 露さけてオクラ摘む手がひぐらしのうすき緑の羽にふれおり | 角 野 成 子 |
| 意外にも幼子のような返事きて吾を和ませる台風の夜 | 勝 村 真寿美 |
| 増税がいかほどひびく購買力要るものは要るさと声たかき人 | 内 田 文 恵 |
| 茄子・カボチヤートマトにラッキョウ目玉焼妻と向きあう今朝の食卓 | 広 瀬 久 夫 |
| 映像は津波のような洪水に浸蝕されるふるさといわき | 中 山 久美子 |
| 萩の花円をえがいてこぼれ落ちわが家の庭に秋がはじまる | 依 田 郁 子 |
| 台風に備えるほどに狭くなり足幅のみを残す玄関 | 秋 山 久美子 |
| 来年の家計簿手帖の注文書届くもしばしためらいており | 塚 本 裕 子 |
2019年11月号(VOL.37)NO.352 髙安 勇 選
| 団扇では生きられなかった老姉妹ゆたかにうちわの日もあったのに | 長 坂 あさ子 |
| 思い出を捨ててここまできたけれど空箱ひとつ残るわが秋 | 斎 藤 皓 一 |
| 頂きし北杜の茄子の艶やかさしくしくと食む今朝のテーブル | 小田切 ゆみゑ |
| 萌え出づる夏芹分けて川端に農にほてりし双手を冷やす | 藤 原 昭 夫 |
| 綿シャツを好むわたしにファッションは大事だなんて帰省の次男 | 浅 川 春 子 |
| 足跡はぶどう畑を横切れり鹿か猪爪の大きく | 坂 本 芳 子 |
| 夏野菜小箱に詰めて弟に夫がしていたように今年も | 渡 辺 淑 子 |
| 古書店のバーゲン絵本一冊に赤子の匂い残りていたり | 前 田 絹 子 |
| 絵の筆を洗うバケツにぼくたちは遠心力を教わったんだ | 中 澤 晃 子 |
| こじれいる日韓関係それはそれ柿の梢にゆれる冬瓜 | 久保寺 弘 子 |
| バスタブに胸までつかりゆらゆらとひたいのこれは猛暑日の汗 | 保 坂 謹 也 |
| ひげ剃りは男のスイッチ入るときパパンと頬を鏡に打ちて | 渡 辺 健 |
| みそ部屋の簾の裾にからみたる蔓草は青きつぼみを持てり | 山 下 愛 子 |
| 夏まつりに一〇二歳なるやちよさん〈ここに幸あり〉ソロで歌いぬ | 佐 藤 幸 子 |
| 会場の床に光れるクリップは穂村氏のいう「世界」であるか | 浅 川 清 |
| 下栗生野、春米小倉、上円井、広辞苑に無く三人に聞く | 田 澤 きよ子 |
| これ以上年を重ねぬ亡き母の写真やさしく絹布に包む | 塚 本 裕 子 |
| 青黒き透析の跡見せながら「止めれば終り」知人は笑う | 秋 山 久美子 |
| 竜電のねばりの格好いただいて腰つき悪いが秋を歩こう | 浅 利 尚 男 |
| 落花生の殼がカラリとわれるよう「お帰りなさーい」と嫁さんの声 | 永 田 はるみ
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2019年10月号(VOL.37)NO.351 髙安 勇 選
| 人住まぬ家の土間にはしゅくしゅくと味噌は昭和の味醸してる | 藤 原 昭 夫 |
| それぞれが足腰病むとかたりいる後期高齢わけあうように | 今 井 ひろ子 |
| バス停の時刻表のわずかなる日陰に身を置く夏の真昼に | 沢 登 洋 子 |
| あさまだき梢こずえのさえずりはハタリと止みぬ吾の気配に | 窪 田 喜久子 |
| このところ客人あらず床の間に介護用品あまた積みおく | 古 屋 順 子 |
| やはりソは半音低く夕ぐれの谷戸集落に「家路」流るる | 中 澤 晃 子 |
| 夏風の起こすウェーブちがや原赤いリードの子犬が駆ける | 加々美 薫 |
| ため息とともに記憶を無くすらん母はしずかに昼を眠りぬ | 清 水 さき江 |
| この夏は海苔に変わりぬ極上の桃のてあてができなかったと | 内 藤 勝 人 |
| 庭芝をこえて男の子のその声は風呂に歌っているらし「Gifts」 | 久保寺 弘 子 |
| 若き日に吾(あ)が組立てし物置が解体されて運び出される | 丸 山 恒 雄 |
| 囀りの目覚めの中に今朝はまたツバメの雛の声の加わる | 渡 辺 健 |
| ゴミステーションまでの近道朝つゆがサンダル履きの指を濡らしぬ | 岡 ゆり江 |
| 日に三度洗濯機回す生活に野良着の袖口綻びており | 横 内 進 |
| バス停の時刻表の文字うすれいて白立葵に囲まれている | 角 野 成 子 |
| 雨音に浅葱刻みゆく音の混じりゆくなり八月夕べ | 斉 藤 さよ子 |
| 千疋屋に並ぶ仲間もいるだろうはね出しの桃ていねいに剥く | 秋 山 久美子 |
| 梅雨明けの空の太陽乗せているフロントガラスが次次過ぎる | 石 川 なほ子 |
| またいつかいつかいつかの貯金箱果たされないのか果たさないのか | 田 丸 千 春 |
| 薄紅の大輪咲きの百合の花衝動買いせし夫のおつかい | 岡 田 喜代子
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2019年9月号(VOL.37)NO.350 髙安 勇 選
| 足早に人の行き交うコンコース改札口は人を選ばず | 赤 岡 奈 苗 |
| ふわふわと一羽のアヒル空を飛ぶ糸つかむ子の手から離れて | 佐 田 美佐子 |
| 高校は楽しい けどさ中学の窓からはいる風はよかった | 中 澤 晃 子 |
| ひまわりの迷路に入りて見失うこの世に夫と呼べる一人 | 前 田 絹 子 |
| 松脂にゆびを汚すや新芽摘む夫は脚立に体あずけて | 久保寺 弘 子 |
| カーテンを閉じてジーパンはき替える隙間に見える若き店員 | 保 坂 謹 也 |
| 肺癌の手術のことを聞きたいと二十年ぶり友の訪い来る | 丸 山 恒 雄 |
| マスタードの辛味を添えるピクルスのこの涼しさに朝がはじまる | 浅 川 清 |
| 短冊に「算数がんばる」と児の願い昔も今も風にゆれおり | 横 内 進 |
| 食卓の大根卸しにホッとする暑気は背中にはりついている | 広 瀬 久 夫 |
| 降水量危険レベルの赤や黄に日本の形あらわとなれり | 依 田 郁 子 |
| AIに関係なくで畑仕事桃も葡萄もこまやかな手で | 雨 宮 たつゑ |
| ぬげた靴ふりかえり見て少年は裸足で走るチャリティーランを | 田 丸 千 春 |
| 天井のクロス張り替え若職人飛び降りるときピアス光らす | 福 田 君 江 |
| 上枝吹くつゆの晴れ間の風の音ラジオを止めた部屋に入り来る | 小 林 あさこ |
| この世では遅れはじめし枕辺の時計の針を正すことあり | 斎 藤 皓 一 |
| 音のなき食べものとしてチーズ味カロリーメイトつゆぐもる朝 | 大久保 輝 子 |
| 外階段上がる少女の足音に今日のテストを推しはかるなり | 藤 原 昭 夫 |
| 石段をとび上がらんと五度六度あきらめ鶺鴒羽を広げる | 長 坂 あさ子 |
| はく息に薬の匂う夕つ方慣れてきたよな待つという事 | 山 本 初 子 |
2019年8月号(VOL.37)NO.349 中沢玉恵 選
| 明日からは雨と予報をききし日のチョコレートすこしやわらかくなる | 小 林 あさこ |
| 鉢植えの花にいっぱい水そそぐ虐待のニュースまた耳にして | 今 井 ひろ子 |
| 帰京せし子の脱ぎゆきしセーターの力は抜けて炬燵辺にあり | 斎 藤 皓 一 |
| 呑み終えし酒のパックを開くとき9点分のベルマークあり | 山 本 栄 子 |
| シャンプーをミントの香りに買い替えて特別でない夏を待ちおり | 佐 藤 利枝子 |
| 六月の瀬音すずしき大滝村十割そばの暖簾をくぐる | 加々美 薫 |
| 東山越えくる朝の太陽にジベレリン液の紅の輝き | 坂 本 芳 子 |
| 加湿器のはき出す湯気にこの家の猫は利き手でパンチ繰り出す | 三 沢 秀 敏 |
| 始めるより簡単だった止める処理十三年をつづけしブログ | 内 藤 勝 人 |
| ひたすらに葡萄花房ととのえるきな粉のような花粉浴びつつ | 砂 原 よし子
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| 小粒なる青柿ぽつりまたぽつり間引かれるように落つる六月 | 久保寺 弘 子
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| 掌の中にやわくホタルをつつみいるこれの仕草は祈りに似たり | 仙洞田 紀 子 |
| フロントガラスを強く打ちたる雹に挑むワイパーボクサーのよう | 甘 利 和 子 |
| 桑の葉のみどりが深く抱きおり子供用自転車捨てられていて | 内 田 文 恵 |
| 百メートル超えて大空を舞う凧のタコ糸なだらかに曲線えがく | 杉 山 修 二 |
| 山ガールの揃いのジャージが降りてゆき大月過ぎれば座席に声なし | 横 内 進 |
| 待ちわびた雨ははらはらやさしくて八年ぶりにオリーブが咲く | 秋 山 久美子 |
| ページくる音のきこえる午後三時図書館は今日休館日なり | 田 丸 千 春 |
| 果樹園の中の宅地化広がりてトラブル続く消毒作業 | 荻 野 真 啓 |
| ぱたぱたとドミノ倒しのソーラーパネル並べられゆく裸の畑 | 石 川 なほ子 |
2019年7月号(VOL.37)NO.348 中沢玉恵 選
| 日柄とは優しいことばそのあとに「治りますよ」とどのひともいう | 小 林 あさこ |
| わが廻りつかずはなれず天狗蝶春は何かと触れたくなって | 山 本 初 子 |
| 蜂たちのすでに影なき藤棚を花びらちらし風はすぎゆく | 斎 藤 皓 一 |
| 沼津まで海鮮丼を食べに行く期日指定の誘いのありぬ | 米 山 和 明 |
| マンションの庭に馬鈴薯の花咲かせ大詰めまでは多少のゆとり | 前 田 絹 子 |
| 体重の三分の一を許されてギプスの取れた右足を着く | 中 澤 晃 子 |
| 時折を大型トラック過ぐるとき書斎の網戸律儀に揺れる | 荻 原 忠 敬 |
| 春来れば日曜ごとの堰ざらい今朝は鋤簾にくさび打ちこむ | 古 屋 順 子 |
| 山の木々たんぽぽの綿毛わが心とりとめもなく春は膨らむ | 砂 原 よし子 |
| 産み終えし午後を平らかに眠りいる牛のピアスにすぐ五月風 | 杉 田 礼 子
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| 鉄瓶のまろやかな湯にゆっくりと茶葉の旨みが落ちてゆきたり | 保 坂 謹 也 |
| 裏山の夢見心地の竹の子に狼藉物のごとく鍬ふる | 望 月 迪 子 |
| みずいろのくすくす笑いの波が立つネモフィラの丘に風わたるたび | 浅 川 清 |
| 「五キロがさ九千円だぞ」筍の競り値に惑う息子の電話 | 内 田 文 恵 |
| やわらかな蕗のうす皮むいているこむら返りの脚まだ痛し | 飯 島 今 子 |
| 柏餅供えて孫の初節句 霜がおります雹もふります | 田 村 悟 |
| こでまりが発光している夕つ方私が並ぶ母の享年 | 堀 内 和 美 |
| 各県の狐が並び評議する願い集まる豊川稲荷 | 鈴 木 憲 仁 |
| 人身事故は家を失う例もある 医師の告知は夫に届かず | 西 村 鈴 子 |
| 平成から令和へ続く十連休 緋めだか卵を抱きてゆらめく | 岡 田 喜代子 |
2019年6月号(VOL.37)NO.347 中沢玉恵 選
| アベさんを信頼する奴しない奴夕餉の卓にグラスも三つ | 斎 藤 晧 一 |
| この春のピカソ版画展にきておりぬピンク系リップちょっと濃いめに | 藤 原 伊沙緒 |
| プランター庭隅に寄せ聞こえ来る子供神輿の先触れを待つ | 山 本 栄 子 |
| しばらくは潮騒のようにきこえしがエアコンの音と気づく醒めぎわ | 小 林 あさこ |
| たらちねの手押し車に紛れいる鶯神楽のうすき花びら | 清 水 さき江 |
| 菩提寺の役職終えて記念にとオンコの若木一本植える | 鈴 木 源 |
| Sに始まる単語競いし十歳があるあるあるよSONTAKUがある | 佐 田 美佐子 |
| 屋敷神の御座す如きの樫の木に庭師のチェーンソー響きいるなり | 橘 田 行 子 |
| お久しぶりテーブル囲む女子会の菜の花パスタに春を絡めて | 砂 原 よし子 |
| 尺八の音は妙なるに補聴器の共鳴きしみ脳がけばだつ | 内 藤 勝 人 |
| 選挙カーに年齢記載いや若くガンバレガンバレ桜満開 | 日 向 このえ |
| 母に似てその母に似て靴下の右の指先綻びにけり | 衫 田 礼 子 |
| 初啼きの「ホーホケキョケキヨ」窓をあけグレイヘアーにしようと決める | 秋 山 眞 澄 |
| 縮小を決めていたのに春となり夫はぶどうの棚を広げる | 岡 ゆり江 |
| 木々芽吹き花咲く季をこの家の生業イベントいよいよとなる | 内 田 文 惠 |
| われの名前の一文字入る「令和」なり〈百歳人生〉楽しかりしか | 甘 利 和 子 |
| 期問限定「さくらコーヒー」香りたち新元号の発表をまつ | 福 田 君 江 |
| 一日中振りまわされる日本国令和れいわと言葉がおどる | 依 田 郁 子 |
| いくつもの春を語るか桜木は今年十人の一年生に | 秋 山 久美子 |
| 桃の花天の国から見えますか私の仕事何点ですか | 雨 宮 たつゑ |
2019年5月号(VOL.37)NO.346 中沢玉恵 選
| 自分のことは自分でするとキッチンに二人で立てば身動きならず | 石 川 輝 子 |
| 昨夜の夢ぽつりと話す朝食を済ませたことを忘れる夫が | 長 坂 あさ子 |
| 呑み忘れの薬に気づく午後3時冬の苺がほろほろ甘い | 窪 田 喜久子 |
| 六十年を使いし竹の物差しの目盛の線の確かなりけり | 山 本 栄 子 |
| 今のほうが母さん感があっていい十歳(とお)ほど若い写真見ながら | 中 澤 晃 子 |
| わが畑と隣り合わせしモロコシが今年は在らずカラスも来ない | 古 屋 順 子 |
| 二人分あればいいよと芽の多き種ジャガイモを夫と選びぬ | 赤 岡 奈 苗 |
| 揺れるたびふんばり直す大型犬春の軽トラ荷台の上に | 三 沢 秀 敏 |
| 雪降らぬ冬でありしよスタッドレスの軽トラックを貸すこともなく | 砂 原 よし子 |
| 月集Ⅱの中村道子(中村さん)の白べ夕に”ツメル”の朱が入る四月号ゲラ | 内 藤 勝 人 |
| 彩色の富士とさくらのあざやけき「富士山ナンバー」わが前を行く | 久保寺 弘 子 |
| 枯れ草のなかにあおあお雑草が顔を並べる湯上りのごと | 宮 内 春 枝 |
| 雲の上(え)に浮かびいたりし八ヶ岳夕べは我の庭にそびえる | 浅 川 清 |
| 木蓮の千の蕾はいっせいに如月の空に物申します | 佐 藤 幸 子 |
| 山なみがぼわっと煙り三月は花粉まみれの信号機たつ | 秋 山 眞 澄 |
| もどかしくもホースつぎつぎ繋がれて消防隊は山に入りゆく | 岡 ゆり江 |
| 俯きて春の道行く少年の膝の後ろに濃き影の見ゆ | 堀 内 和 美 |
| 義母の部屋そのままにして七年が過ぎてしまえり東風吹きぬける | 西 村 鈴 子 |
| 雪を見ぬ今年の冬のしめくくり音たてながら夜の雨ふる | 秋 山 久美子 |
| 的確な返事求めた訳じゃない 俺に聞くなと一蹴されて | 雨 宮 たつゑ |
2019年4月号(VOL.37)NO.345 中沢玉恵 選
| マスクした人の混み合う病院の受付ロビーにマスクして入る | 小 林 あさこ |
| ベランダの物干し竿に年越さん幾多のものの沈黙ふかし | 斎 藤 皓 一 |
| 朝空があんなに青く高いのに足の一歩が動かない嗚呼 | 小田切 ゆみゑ |
| 「元気ですか」元気でもない私が声かけて通る午後の散歩に | 石 川 輝 子 |
| 桃源郷村の誇りを担いいる吾が一〇〇本の桃の木々たち | 荻 原 忠 敬 |
| 燻されて荒草春を知るらんか大井ヶ森区の野焼き始まる | 清 水 さき江 |
| 月あわき路地から路地へ練り歩く灯籠の焔が狐火に似る | 加々美 薫 |
| 如月の風のフィルターに掛けられて春の時間がゆっくり進む | 深 潭 靖 子 |
| 記録より記憶に残る稀勢の里 番付表をみやげにしよう | 仙洞田 紀 子 |
| 掛金の六割ほどが戻りきて生命保険の永きを解かる | 内 藤 勝 人 |
| 冬眠も‶りすのおやつ″も飽きたでしよ梅がきれいと暦がさそう | 日 向 このえ |
| マスターは歩いて帰る深夜二時本日ゲスト吾ひとりなり | 保 坂 謹 也 |
| レジに置くわが短歌帳のフレーズを小学生の客が読みあぐ | 内 田 文 惠 |
| 夕ぐれの八ヶ岳峰は茜色裾野はすでに影となりゆく | 佐 藤 幸 子 |
| 半分は冗談だけどという時の全部が本気 氷柱が光る | 浅 川 清 |
| 杖友と言われたるかな雪道に庇い合いたる姿見られて | 長谷川 君 代 |
| 脳梗塞の麻痺した右手さしのべて握手もとめる義姉の手をとる | 堀 内 澄 子 |
| 新宿駅3番ホームの雑踏に父の靴音ひそみていたり | 西 村 鈴 子 |
| うすくなりし髪七三にして帰る褒めずかわらず連れ合いがいる | 浅 利 尚 男 |
| 硝子戸に二月のひかり透き通り千本格子をうかびあがらす | 永 田 はるみ |
2019年3月号(VOL.37)NO.344 中沢玉恵 選
| わたくしの甲州弁をAI犬風邪の声にてそのまま返す | 浅 川 春 子 |
| 息子から受取る包丁のあたたかし研いでもらって新年迎う | 石 川 輝 子 |
| 寺本の角をまがれば三昧の音がああ先生が元気になられた | 窪 田 喜久子 |
| 名峰のあまた踏みこしこの脚がふらつきながらジーパンをはく | 藤 原 昭 夫 |
| 膝を病む吾に替わりて夫がなす家事に新たなルール増えゆく | 前 田 絹 子 |
| きっちりと五時ともなればコップ酒娘の愚痴を今日は肴に | 佐 田 美佐子 |
| 両の手を広げたような八ヶ岳ハグされたくてこの坂をゆく | 中 澤 晃 子 |
| たくらみの少しはありてくちびるに春限定のベリーレッドを | 佐 藤 利枝子 |
| 自転車の荷台に括られ年越しの大塚人参土付けしまま | 久保寺 弘 子 |
| 霜描く市松模様きわやかにソーラーパネルが屋上に並む | 内 藤 勝 人 |
| 町内の商工会の案内図今はなき店そこここにあり | 日 向 このえ |
| 輪になりてみる豆餅の塩加減はふはふ白き息を吐きつつ | 笠 井 芳 美 |
| すっぴんで師走の町にまぎれこむ今年のスルメ異常に高い | 角 野 成 子 |
| だるそうに前の女性が運びゆく格安リゾート朝食ビュッフェ | 浅 川 清 |
| 女性だけの筋トレルームに出合いたる知人の中に元同僚も | 岡 ゆり江 |
| 夫婦して商いている姿よし妻は夫を威張(いばら)せていて | 内 田 文 惠 |
| 曾孫の五人は生きた証だと伯母の葬儀に上人が説く | 田 丸 干 春 |
| 初仕事に葡萄園にて剪定す珍客狸があいさつに来る | 雨 宮 たつゑ |
| 里帰りの娘夕べを戻りゆく湯呑みの茶渋なべて落として | 石 川 なほ子 |
| きのう買ってあるとは言えず持ちくれし叔父の白菜しきりにほめる | 梶 原 富 子 |
2019年2月号(VOL.37)NO.343 中沢玉恵 選
| マスターがじてんしゃに乗りて開けに来る二軒となりの珈琲の店 | 小 林 あさこ |
| 岳樺の黄葉ぐわっとうねらせて千畳敷カールをドクターヘリが | 藤 原 伊沙緒 |
| 大樫の根元に幼はリスのよう実の落ちる音にまたも走りて | 長 坂 あさ子 |
| 天空のホテルに和服着こなして迎えてくれるフィリピンの人 | 今 井 ひろ子 |
| 馬一頭の共済掛金二百円領収書あり祖父も百姓 | 古 屋 順 子 |
| 角張らずくずし過ぎずに年賀状一枚毎に重みのありぬ | 室 伏 郷 子 |
| 山畑の桃の枝伐る寒き朝雪の秩父の峰近く見ゆ | 鈴 木 源 |
| 《ビタミン大根》おまけにくれるりんご園安曇野の里に冬の近づく | 清 水 さき江 |
| 「印籠が目に入らぬか」入ります答える夫と三時のお茶を | 仙洞田 紀 子 |
| ほのかなる温みのこして野良猫がわら束寝座(ねぐら)しぶしぶ降りぬ | 望 月 迪 子 |
| 葡萄酒をひそかに絞りおいた瓶もはや時効とメダカの泳ぐ | 久保寺 弘 子 |
| たまご焼き塩をたしては甘くするシオのあまさのしおっぱいが好き | 保 坂 謹 也 |
| 錆止めに睫毛染まりし日のはるか工場跡に朱の色残る | 角 野 成 子 |
| 均したる畑の土がくきやかに見せる狐の夜の通い路 | 浅 川 清 |
| 「山月記」読み終えじっと目をとじる李徴の心根われの心根 | 杉 山 修 二 |
| 「起きてすぐ化粧をするの」とも江さんの和装の遺影は九十六歳 | 秋 山 眞 澄 |
| 恭子さん、一緒に皮を剥いたよね枯露柿作り今年はひとり | 石 川 なほ子 |
| 話せない、文字が書けない、歩けない子らであれども嘘はなかりき | 西 村 鈴 子 |
| しろばんば飛ぶ夕まぐれ山茶花の紅きはなびら一つくずれる | 堀 内 澄 子 |
| 老人を押しのけるように座りたる白い杖もつ男も老いて | 浅 利 尚 男 |
2019年1月号(VOL.37)NO.342 中沢玉恵 選
| 信号が変わって一斉に三叉路に散らばってゆく白いソックス | 山 本 初 子 |
| この日頃人とも会わず独り居は次第しだいに酸素が足りぬ | 小田切 ゆみゑ |
| 髪の毛にすぐに手をやる今日の友そのウィッグ似合っているのに | 今 井 ひろ子 |
| 来る年の元号何となろうとも縄文土偶の腰ゆたかなり | 浅 川 春 子 |
| 幼らと落葉たきいる夕まぐれ藤の実はぜる音をたのしむ | 橘 田 行 子 |
| 畳まれしままの朝刊傍らに母は今でも九十六歳 | 清 水 さき江 |
| 夜の更けの卓に置きたる虫めがね蛍光灯を小さく映す | 加々美 薫 |
| まっすぐに生きてゆくのは難しいブラの左の肩紐ずれて | 中 澤 晃 子 |
| 星座とは星の絆かふゆ空にこの家のかたち如何にかあらん | 望 月 迪 子 |
| あれやこれマグロのサクの品さだめ三浦岬の朝がかおりぬ | 砂 原 よし子 |
| 背を向けて湿布を貼ってもらうとき夫の下っ腹時どきあたる | 仙洞田 紀 子 |
| ゆで栗を匙に椈いてふたりかなほろほろ雫しほろほろ老いる | 久保寺 弘 子 |
| 大写しの大谷選手の後ろ手に痛々しくも胼胝(たこ)四つ見ゆ | 飯 島 今 子 |
| 岳樺の林は白き珊瑚礁わがゴンドラは海中(わたなか)をゆく | 浅 川 清 |
| 秋となり川面に静もる朝霧が光の中に吸い込まれゆく | 斉 藤 さよ子 |
| 玄関に積る枯葉の今朝の量(かさ)寒暖の差は箒で測る | 横 内 進 |
| 紅葉みち 紅葉回廊 紅葉まつり どう名付けてもこれは終焉 | 堀 内 和 美 |
| 水平にならぬ心の天秤に合う分銅がまだ見つからず | 田 丸 千 春 |
| 黄葉の透き間の空はモザイク状アキレス腱をのばし闊歩す | 岡 田 喜代子 |
| 四尾連湖に黄金に染まる桂の木同期九人をやさしく包む | 伊 藤 千永子 |
2018年12月号(VOL.36)NO.341 中沢玉恵 選
| ハロウィンに無縁の僕の誕生日避難所用の寝袋を買う | 斎 藤 皓 一 |
| 防災無線が避難勧告つげているマニュアル通りの長閑な声に | 山 本 栄 子 |
| 思い切り整理をせねばアルバムの若き自分をしみじみと剥ぐ | 小田切 ゆみゑ |
| ロビーなる客の荷物の預かり所東南アジアの暮しがかおる | 今 井 ひろ子 |
| 小春日の畑に鶺鴒遊びいる笛吹なずなも長閑に揺れて | 荻 原 忠 敬 |
| 天秤の錘冷たくゆらしつつ蒟蒻玉を母と量りき | 清 水 さき江 |
| 「三十分トイレに座っておりました」ディ・サービスの連絡帳に | 古 屋 順 子 |
| 八本の骨に重たい雨受けて橋のたもとを左折してゆく | 深 澤 靖 子 |
| その後の草取り枝切りお札肥 かなぐり捨てて温泉に行こう | 坂 本 芳 子 |
| 道の端に紐結ばれてスニーカー落ち葉と共に去りてゆきたり | 保 坂 謹 也 |
| ぶどうにも柿にも種がなくなって映し出される無人コンビニ | 中 澤 晃 子 |
| 一向にたどり着けないお役所のホームページの『バスの乗り方』 | 内 藤 勝 人 |
| 思うより太き幹あり私のひとりくらいは受けとめている | 勝 村 真寿美 |
| 夕焼けのうすくなりゆく西空を水平に切る鴉の群れが | 角 野 成 子 |
| 小諸にて藤村蕎麦をすすりおりりんごの天ぷら一片(ひとひら)浮きぬ | 佐 藤 幸 子 |
| 夕焼けの彩(いろ)を沈める海の面にさざ波立てて船は出て行く | 長谷川 君 代 |
| 野に山にお疲れさまと声かけて秋はやさしい色を差しゆく | 浅 川 清 |
| 語らえば何かがこぼれてしまいそう「悲愴」の余韻にひたりて歩む | 田 丸 千 春 |
| 大いなる南瓜が届きグーグルに知る〈おしくじり〉じっくりと炊く | 石 川 なほ子 |
| ぐっしょりと濡れいる稲の束つかみ吾が手力は竿よりはずす | 永 田 はるみ |
2018年11月号(VOL.36)NO.340 中沢玉恵 選
| 縁側より言葉なくそっと入りきて座布団に座る初秋の光 | 山 本 初 子 |
| 返る言葉は期待をせずに話しいる遠い花火の音きこえきて | 長 坂 あさ子 |
| 仏壇から出ただけなのにお客さんが揃った様に座敷にぎわう | 石 川 輝 子 |
| 12号は逆走したらしいと13号眉をひそめて14号に言う | 斎 藤 皓 一 |
| 炎天に細身のスーツ着て立てり田んぼの中の案山子の男 | 深 澤 靖 子 |
| 漬けしまま四年は経つか床下の眠り覚まさす飴色らっきょ | 室 伏 郷 子 |
| 放水の訓練終えし舗装路の小さき埋みに鶺鴒あそぶ | 清 水 さき江 |
| 若き日のむち打ち症を首だけが思い出すなり夏遠花火 | 米 山 和 明 |
| 半端ない汗が溜ったマスク取り吸いこんでいるま夏のひかり | 砂 原 よし子 |
| 小半日ぶどう計りて仰ぎ見る目脂のような雲の散らばり | 坂 本 芳 子 |
| 汗取りのタオルを首に巻きつけて置き薬やさんは三(み)月に一度 | 古 屋 あけみ |
| 残暑まだ 通所希望の姑と訪うゆうかり園は蟬声の中 | 望 月 迪 子 |
| 山猫はたちまち湖面をつつみこむ我のバイクの身動きならず | 田 澤 きよ子 |
| レタス一つを買いたる人のレシピ思う夏帽子よく似合う若者 | 内 田 文 恵 |
| 八月の観望会は疎らなり望遠鏡が四股を踏んでる | 秋 山 眞 澄 |
| この猛暑に子供祭は中止なり蟬が椚をふるわせて鳴く | 角 野 成 子 |
| 巾着にボンタンアメ入れ母の立つ竜王駅のモノクロ写真 | 西 村 鈴 子 |
| ぬばたまのブラックユーモア道徳を教科にします評価をします | 浅 川 清 |
| 「ためらわずクーラー使い凌ぎましょう」去年叫んだクールビズ消え | 鈴 木 憲 仁 |
| 朝より口つくことば「ああ暑い」熱い・厚いもありて始まる | 岡 田 喜代子 |
2018年10月号(VOL.36)NO.339 中沢玉恵 選
| 吾の血を吸いしやぶ蚊がまたふえる〈生産性ない〉にこだわるように | 長 坂 あさ子 |
| 駅前の書店なくなりスーパーに立ち読みをする『家族の認知症』 | 大久保 輝 子 |
| 台風が台風がくると予報士が慣れてはいけない北空の雲 | 山 本 初 子 |
| 冷房の効きたる部屋にひっそりと沈み込みいてこの世にひとり | 小田切 ゆみゑ |
| 毎年を盆に合わせて実らせるモロコシ名人九十三歳 | 古 屋 順 子 |
| ワレモコウキキョウリンドウにぎにぎと野には咲かずも園芸店に | 三 沢 秀 敏 |
| 夕されば隣の風呂場の灯りつき三人男の子のはしゃぐ声する | 曽 根 寿 子 |
| 亡き祖父にゼリービーンズ供えつつ母は何やら話しかけおり | 中 山 恵 理 |
| 熱中症ふせげふせげと三重のエコーでせまる防災甲府 | 内 藤 勝 人 |
| 凌霄花かさなり合いて散るところひと跨ぎしておはようをいう | 砂 原 よし子 |
| 竜電ががっちりととる右上手スー女が食べる和風のポトフ | 保 坂 謹 也 |
| 一ヶ月経りても手鞠ほどもなき庭の南瓜を問われつづける | 前 田 絹 子 |
| 何もかも乎伝いますよと言いたげに大き口あく夫の長靴 | 角 野 成 子 |
| 老衰の猫の重みを呟いて友はスコップに身をもたせおり | 青 柳 順 子 |
| 逆走をするのは人間だけじゃない12号は西へと進む | 岡 ゆり江 |
| 暑き日に熱きラーメン食らうべし店の前には赤きバラ咲く | 故・大久保 公 雄 |
| クーラーの風に揺れいるブラインド楡の緑を開いて閉じる | 浅 川 清 |
| もろきゅうで食べて食べてと成子さん朝採り三本手渡しされる | 堀 内 澄 子 |
| 窓ぎわの桜桃の木はさわさわと葉蔭作れり実をつけずとも | 伊 藤 于氷子 |
| 生い茂る草の中より里いもが芽をとんがらす負けるものかと | 永 田 はるみ |
2018年9月号(VOL.36)NO.338 中沢玉恵 選
| 生き物のように時間が棲みつきて人なき家の障子を破る | 今 井 ひろ子 |
| ブルーベリーの鍋に点火す三時までこころしずかにサッカーを待つ | 藤 原 昭 夫 |
| そこにあるパソコンに手の届かざる体となりて一歩に励む | 小 島 正のり |
| 法に依る死があり朝を淡たんと名を読みあげるアナウンサーは | 大久保 輝 子 |
| 広告の紙に毎朝箱を折る吾が大切なルーティンなり | 渡 辺 淑 子 |
| 熱心なハローワークの相談員短歌の会の事情聞かれる | 米 山 和 明 |
| 桃の実の一つひとつに袋かけここより始まる良品競走 | 三 沢 秀 敏 |
| もろこしもなすもきゅうりもいただきもの心豊かにすごしています | 曽 根 寿 子 |
| 鳴き声はテッペンカケタカたまさかにカケタノカって崩すから好き | 中 澤 晃 子 |
| トマトひとつ風の押さえに生協の注文表が軒下にまつ | 望 月 迪 子 |
| このように草引きの椅子を台にして弁当つかう柿の畑に | 望 月 嘉 代 |
| 夢半ばたたき起こされしベルギー戦また夢を見てまだ夢を見て | 前 田 絹 子 |
| 喧嘩など買わずにかわすを学びきし三十年を青果とともに | 内 田 文 恵 |
| 日めくりの今日は夏至なり朝々をたゆまず捲(めく)るわが妻のあり | 大久保 公 雄 |
| 町内に熊の出没伝わりぬニンニク味噌を作るこの朝 | 斉 藤 さよ子 |
| 朝作りにスピードスプレヤー二本噴くタイの少年ら救出さるる | 広 瀬 久 夫 |
| 行楽に絶好の日とラジオ言う葡萄農家はジベ付け日和 | 鈴 木 憲 仁 |
| カラフルな薬八粒夫の卓「デザートですか」とわが独り言 | 福 田 君 江 |
| 残ししは図鑑の余白の走り書き君偲ぶものの少なきひとつ | 堀 内 和 美 |
| 庭に薔薇サラダに自家製ハムありて若き夫婦のカフェの賑わう | 浅 川 清 |
2018年8月号(VOL.36)NO.337 中沢玉恵 選
| たたかれてただたたかれて今朝もまた木魚の音は畑に流れき | 斎 藤 皓 一 |
| ひとり居は自由と気負うさりながら春の風はも春の風なり | 小田切 ゆみゑ |
| わが畑の地籍調査のあかい杭ポツンとのぞく雨のあしたに | 藤 原 伊沙緒 |
| 窓の辺の木香薔薇が匂い来てシャンプー台に無防備となる | 山 本 栄 子 |
| 山の上(え)の「未病のいやしの里の駅」声は元気と判定される | 室 伏 郷 子 |
| スッピンで出かけた朝のスーパーに素っぴんの友と出合ってしまう | 深 澤 靖 子 |
| 六月の蕎麦街道に綿帽子の木(わたぼうし)ゆらゆら揺らし風吹き抜ける | 赤 岡 奈 苗
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| 坊様の読経の中を百何年続きし家の魂昇る | 曽 根 寿 子 |
| 掘り上げし筍は産毛さかだてて山の小さき獣のごとし | 望 月 迪 子 |
| 完全に夏の雲じゃん十四のきみが言うから八朔をむく | 中 澤 晃 子 |
| 紀州より來し南高梅熟れてゆく香りたのしむ五日(いつか)あまりを | 仙洞田 紀 子 |
| トランプ氏と金正恩氏の会談にわが家の主仕事をなさず | 久保寺 弘 子 |
| 番とも見ゆるまで著(しる)き影連れて子雀は草とる傍にあそぶ | 青 柳 順 子 |
| 削ぐような初夏の風にぞ吹かれいて青いもみじは枝をくねらす | 勝 村 真寿美 |
| 杖もなく散水しているやちよさん山日百歳コラムに語る | 佐 藤 幸 子 |
| 長男がもらいし記念の腕時計いまはこうして吾の腕にまく | 大久保 公 雄
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| コットンのスカーフするり潜りぬけ青葉の風は山へと帰る | 浅 川 清 |
| 寝不足の覚悟はすでにできている”ワールドカップロシア”開幕 | 秋 山 久美子 |
| 愛犬とともに埋葬可能なり姉が契約せし樹木葬 | 堀 内 和 美 |
| 隣家の夫婦げんかに参加する「はい、はい、はい」とぶどう園から | 田 村 悟 |
2018年7月号(VOL.36)NO.336 中沢玉恵 選
| わずかなる桃の香りを放ちつつあしたの喉に沁むヨーグルト | 斎 藤 皓 一 |
| 言い合いは家族のぬくもりリビングに西日の射してひごひごひとり | 小田切 ゆみゑ |
| 萌え出ずる木立の中の白ざくら築山(つくやま)にこそ自撮りの棒を | 浅 川 春 子 |
| やきいもを遠回りして買う君の白いワーゲン路地へ入り行く | 窪 田 喜久子 |
| 献血の協力願う放送は桃の畑に届き来るなり | 赤 岡 奈 苗 |
| 金川のアカシアの花真っ盛りデラのジベ処理いま真っ盛り | 鈴 木 源 |
| 山羊の好きな甘草の芽がほきょほきょと古杣(ふるそま)川の岸辺に生える | 清 水 さき江 |
| 允分に雨の気配をふくませた夜風のゆらすカーテンのひだ | 佐 藤 利枝子 |
| 喉元のぼたんをはずし風を入るタイの結び目くずさぬように | 保 坂 謹 也 |
| 一息にアルカリ1(ワン)の水を飲むジベ処理済みし赤き手のまま | 久保寺 弘 子 |
| ねだる声届かず親に見落とされ小さく育つ雛の一羽は | 内 藤 のりみ |
| こんなにも急だったのかな五年ぶりの父祖の墓処につづく坂道 | 内 藤 勝 人 |
| 笛吹の春の流れは気を吐いて白鷺を空に押し上げてゆく | 大久保 公 雄 |
| こんなにも素直になれず悪びれずごめんも言わずカレーを煮込む | 内 田 文 恵 |
| 母の日は金鶏菊の黄の帯が土手両側にくっきりのびる | 杉 山 修 二 |
| エゴの花はわたしと同じ齢くらいポツリポツリと地に咲かすなり | 卜 部 慶 子 |
| 一枚の残るページにシール張りおくすり手帳に命をつなぐ | 岡 田 喜代子 |
| 真向かいにこでまりの咲くこの居間にあの日の義母は寂しかったろ | 堀 内 和 美 |
| 街なかに出会いし人のスカーフのレモンの色に春が来ている | 堀 内 澄 子 |
| どのようになだめてみても跳ねる髪春の子鹿がわれを見つめる | 浅 川 清 |
2018年6月号(VOL.36)NO.335 中沢玉恵 選
| 玄関が狭くなってと譲り受くクリビアにけさ花芽がひとつ | 山 本 栄 子 |
| 気を長くおつきあいをと診察を終えたる医師に肩たたかれる | 今 井 ひろ子 |
| 数日を咳きこみながら心まで劣化していくことも知りたり | 大久保 輝 子 |
| 吾が庭を縄張りとして枝に鳴くお前の素性をボクは知らない | 斎 藤 皓 一 |
| 散り始む桜の下を通るときトラック僅かにスピード落とす | 佐 藤 利枝子 |
| 西表島の長寿ばあばは百六歳海風吸ってスクワットする | 佐 田 美佐子 |
| 宇宙人なりしか友はすっぽりと上の歯がない下の歯がない | 堀 内 久 子 |
| 古びたる野良着の綻びホッチキスに止めて残りの草を刈り取る | 荻 原 忠 敬 |
| 富士山が売り物のこの民宿に取り残された伝書バト小屋 | 仙洞田 紀 子 |
| 草とりの達成感は今のうちつながる根っこをするりと抜いて | 中 澤 晃 子 |
| つま先を投げ出すようなけるような歩きに変えて未来にすすむ | 内 藤 勝 人 |
| 階段は無料のジムと誰ぞ言う二階住まいも楽しからずや | 日 向 このえ |
| 原寸室の棚に灰皿置かれいて夫の小さな秘密のごとし | 角 野 成 子 |
| 採血室に〈エーリーゼのために〉は流れいて右腕ばかり針を刺さるる | 勝 村 真寿美 |
| 退院は治った訳では無いのだよ桜舞いいるぬくき午後なり | 杉 山 修 二 |
| 枝垂るるというは優しい川辺りの小枝しきりに水面を撫でる | 青 柳 順 子 |
| 老木も若木も何のてらいなく大法師山のひと色となる | 秋 山 久美子 |
| 物音の一つもしない病室に老女ばかりが三人眠る | 中 山 久美子 |
| 桃の花観にくる人は知りいるやこの花が実になるまでのこと | 田 村 悟 |
| 座禅草背(せな)の丸みはそれぞれに雪の重さを伝えるごとし | 田 丸 千 春 |
2018年5月号(VOL.36)NO.334 中沢玉恵 選
| 一つずつ手抜きをすれば限がない今朝まな板を使わなかった | 石 川 輝 子 |
| 正論をかざして隙間なき姉がいまぼろぼろとこぼし飯食む | 小田切 ゆみゑ |
| われの住む旧八田村本通りネパール食堂明日開店す | 浅 川 春 子 |
| 一人減り二人減りして三人の力に百キロの味噌が仕上がる | 沢 登 洋 子 |
| わが村の芭蕉まつりの近づきて園児の太鼓森に響けよ | 橘 田 行 子 |
| 境内の杉の木立の木洩れ日に幼き吾の影を踏みゆく | 渡 辺 淑 子 |
| すみずみに木の香の残る道の駅西山さんの花豆を買う | 佐 藤 利枝子 |
| その朝のブーツの中のうすやみに足差し込めば柔く噛みつく | 深 澤 靖 子 |
| しもばしら残した庭のでこぼこに黄色の花がいちはやく咲く | 中 澤 晃 子 |
| それとなく防犯カメラが吾に向く校門ぎわの紅梅撮れば | 内 藤 勝 人 |
| 買い来たる漬物を出す香りよき母のぬか床も失せて久しく | 前 田 絹 子 |
| 雪の夜の工事現場に男等はひときわ大き声をはり上ぐ | 古 屋 あけみ |
| 萌えいでし小松菜まびく長靴に赤土おもくからみつきたり | 角 野 成 子 |
| 五人囃子を恐がりて首をさしかえし子も三人の父となりたり | 内 田 文 恵 |
| 雨上がりの天に高々と鍬を上ぐホカホカ温む菜園の土 | 秋 山 眞 澄 |
| たびら雪速度ゆるめてベランダにそっと置かれぬ形崩さず | 長谷川 君 代 |
| 三月の畑の土を口に噛み今年の農の計画立てる | 横 内 進 |
| 願いごと今年こそはが一つ増え厄地蔵さんは春待つ祭り | 岡 田 喜代子 |
| じゃんけんに負けて背負ったランドセル友だち二人脇で励ます | 依 田 郁 子 |
| いにしえの火口の跡にどんぐりが落ちて次代を託されている | 雨 宮 たつゑ |
2018年4月号(VOL.36)NO.333 中沢玉恵 選
| どんど焼終わらんとする灰の上に黒き目をしただるまが残る | 長 坂 あさ子 |
| 冬至よりひと月すぎた明るさにカリヨンが鳴るゆうやけこやけ | 小 林 あさこ |
| リヤカーで通った道も塞がって雪そのままに今日からの春 | 石 川 輝 子 |
| 波の間の真黒な山瞬間に鯨となりて尾を振り上げる | 窪 田 喜久子 |
| 雪解けのトタンに落ちる滴音トーントトトトン ムーンリバーだ | 渡 辺 淑 子 |
| 雪かきをしない程度に降る雪は学生時代の恋に似ている | 中 山 恵 理 |
| くれないに二十日大根ふくらみぬ一坪ハウスの外は大雪 | 古 屋 順 子 |
| この道は我が家一軒日の丸が風受けている建国記念日 | 曽 根 寿 子 |
| 来ないでのセリフを添えてプリントは夕べの卓にぱさり置かれる | 中 澤 晃 子 |
| 増富のにごり湯にのばす足先が触れあいそして始まる会話 | 望 月 迪 子 |
| 御坂嶺はあけぼの色に染められて国旗のごとく朝日がのぼる | 砂 原 よし子 |
| 竜電が十勝をした千秋楽子と飲むビール一本ふえる | 宮 内 春 枝 |
| 雪降れば背中の痛み消えるとう「中也」の詩あり雪中に立つ | 大久保 公 雄 |
| わが町のふる里納税返礼品「幕地の清掃」ラジオに流るる | 秋 山 眞 澄 |
| いくつもの傷にぬりゆくコロスキンこんな匂いの風船がある | 勝 村 真寿美 |
| ぼやきいる客に負い目のあるごとく頭を下げる野菜の高値 | 内 田 文 惠 |
| 一月のラグビーボールのような月学習塾の窓のぞきいる | 依 田 郁 子 |
| 若い友は黒戸尾根から甲斐駒へ登りましょうとかんたんに言う | 中 山 久美子 |
| 長女二女そして三女が現れてまるでロシアのマトリョーシカだ | 堀 内 澄 子 |
| ボクサーのごとく闘うワイパーにこわばってゆく夫の横顔 | 福 田 君 江 |
2018年3月号(VOL.36)NO.332 中沢玉恵 選
| 今日煮よう明日にしようと黒豆のかわきし袋四日いすわる | 今 井 ひろ子 |
| 弥彦神社に土俵入り見し日のありぬ断髪式もなく日馬富士 | 山 本 栄 子 |
| 朝まだきベッドの端に座りいて紙のオムツに尿を出しぬ | 小 島 正のり |
| 早よ嫁をとれとて囲む団欒の温(あった)か鍋のやがてぐじゃぐじゃ | 斎 藤 皓 一 |
| ドラム缶の薪燃え出しまずはまず元旦祭の区長の挨拶 | 川 井 洋 二 |
| 百歳を越えし十人の共通語「あっというま」の答え楽しも | 堀 内 久 子 |
| 明日(あした)来る孫等のために気合入れ金時いもの裏ごしをする | 長谷部 静 子 |
| ゼラニュームの緑の新芽かがやけり辞表出したる睦月のなかば | 米 山 和 明 |
| 小気味よく抜けゆくコルクふたありのXマスイブのグラスを並べ | 久保寺 弘 子 |
| あめ色の縦皺深め百目柿どれみふぁそらし五百が並ぶ | 砂 原 よし子 |
| しんねりと髪拭いつつ湯上りの娘(こ)は缶ビール立ち飲みをする | 加々美 薫 |
| テーブルの正月飾りの小さくもダリ美容室に昭和がはずむ | 内 藤 のりみ |
| しゃきしゃきとニキロの柚子を刻みたり銀光りする菜切包丁 | 秋 山 眞 澄 |
| 穀き去りにされし包丁しっとりと霜をかむりて畑中にあり | 田 澤 きよ子 |
| 閉店のスーパーやまとの駐車場に八ヶ岳颪の渦巻きあがる | 佐 藤 幸 子 |
| 広辞苑第七版に先ずはひく不可逆性とう歌の一語を | 青 柳 順 子 |
| 誓約は「まごころこめてこわします」総合解体株式会社 | 浅 川 清 |
| テレビ台に写真の孫は笑いおりミサイル発射の画面を消しぬ | 福 田 君 江 |
| 十二人、六人となり三人に戻ってしまう正月三日 | 田 村 悟 |
| 切り餅がふくらむように息こごり浮かんで消えるおはようの声 | 永 田 はるみ |
2018年2月号(VOL.36)NO.331 中沢玉恵 選
| 里山がふっと吐き出す満月が峡の一郷ひとしく照らす | 渡 辺 淑 子 |
| いくつもの御守り袋をさゆらせて手提げバッグはわれを追い抜く | 斎 藤 皓 一 |
| 縁石に乗り上げよなんて課題受け高齢講習ハンドルぬれる | 浅 川 春 子 |
| この家より皆居なくなり古炬燵の脚つかまえてテレビ見ている | 小田切 ゆみゑ |
| ちんすこう雪塩味とて卓におく少女はこの春高校を終う | 藤 原 伊沙緒 |
| 一時間たてば授産園より子が帰るりんごの皮をむいておこうよ | 曽 根 寿 子 |
| 療法士に支えられつつ散歩する平等川まで今日は行きたし | 橘 田 行 子 |
| ベランダのころ柿ひとつつまみ食い洗濯物を干す今朝のこと | 中 山 恵 理 |
| 空まわりして溜まりゆくエネルギー男の子の頬やおでこに湧いて | 中 澤 晃 子 |
| 潰された、立たないなどと騒ぎいる男は柔き顔を持つらし | 前 田 絹 子 |
| 落葉語は知らないけれど散歩道はらりはらりと語りかけくる | 日 向 このえ |
| 大根を一本拔いては空を見る老人のいる段々畑 | 坂 本 芳 子 |
| 揺れいるは茅か芒か川べりの白穂のひかり冬が来ている | 廿 利 和 子 |
| 隈取に似て雪被く北の山亡父は吉右衛門が大好きだった | 青 柳 順 子 |
| 水たまりが大好きな君なが靴をバシャバシャさせて景色をこわす | 佐 藤 幸 子 |
| いつになく濁る湖面に鴨が五羽こ波をえがき岸を離れゆく | 飯 島 今 子 |
| 修行僧の鼻緒の白に海からの光まぶしく稲村ヶ崎 | 福 田 君 江 |
| 帰りゆきし息子の部屋に三組のパジャマ清しく畳みてありき | 西 村 鈴 子 |
| ヘッドライトの光芒のなか生真面目な横顔見せて鼬が過る | 浅 川 清 |
| 家ごとに軒に積まれし薪束ここ清里の一冬分の | 永 田 はるみ |
2018年1月号(VOL.36)NO.330 中沢玉恵 選
| 水底にしずかな時間置きしままいつしか姿を消したザリガニ | 斎 藤 皓 一 |
| 相槌を打たれることも打つこともなくて夜長の二人の時間 | 今 井 ひろ子 |
| 夕餉には長の娘が来る「お帰りなさい」今日始めての声を出したり | 堀 内 竹 子 |
| 「一度とて棄権はない」とわれも言い台風の中選挙へ急ぐ | 小田切 ゆみゑ |
| まだ人のまばらな会場蔵出しの新酒が舌にピリリと辛い | 渡 辺 淑 子 |
| 取り敢えず新市長が選ばれて普通の街にもどる霜月 | 川 井 洋 二 |
| 昨夜の雨あがりし今朝の陽の温し吾が腕ほどの大根あらう | 堀 内 久 子 |
| 亡き夫は左ききなり長葱をリズムをとりて刻みいたりき | 江 口 喜美子 |
| 安定剤一粒ふやしこの夜の犬を眠らす我より先に | 坂 本 芳 子 |
| 手の平で頭を覆いミサイルを防ぐ訓練トホホホ、ホホホ | 久保寺 弘 子 |
| 光りつつ盆地の底を秋となすポーカーフェースのぎんなんの実は | 内 藤 のりみ |
| ひと抱えのコスモス胸に渡されて一瞬そらが消えてしまった | 砂 原 よし子 |
| さわさわとセイタカアワダチソウゆれて少し猫背の母を隠せり | 勝 村 真寿美 |
| 十月の山日新聞短歌欄画数少なき吾が名を探す | 広 瀬 久 夫 |
| 年金の次の支給日たしかめる猫寝そべりて背をのばしおり | 大久保 公 雄 |
| 台風はのらーりくらーり模擬店の食材を手に我は黙せり | 内 田 文 惠 |
| 私をおばちゃんセンセイお姉さんおいと呼ぶ人もいるこの職場 | 中 山 久美子 |
| 白菜に厩肥敷き込む長男の馴れない鍬を黙し見守る | 浅 利 尚 男 |
| なるかみの太鼓の音のとどろきて泣き相撲にや境内ゆする | 浅 川 清 |
| あみだくじのような小路の吾の家の奥に実りの田圃ひろがる | 岡 田 喜代子 |
2017年12月号(Vol.35)NO.329 中沢玉恵 選
| この年の福祉まつりにバザーなく食糧支援のレトルトカレー | 山 本 栄 子 |
| 屋根を越す木も倒されて更地なり今日より風の近道となる | 長 坂 あさ子 |
| 誰かきて外せしわれの腕時計、であるはずもなし枕辺にあり | 斎 藤 晧 一 |
| ロボットなる野口英世と対話してこのたかぶりにしばしつかりぬ | 山 本 初 子 |
| ワンテンポ遅れて灯るLED優等生も遅刻するんだ | 中 山 恵 理 |
| 「売地」なる札の抜かれて角の田にソーラーパネル秋日を弾く | 浅 川 春 子 |
| 街路樹の銀杏いろづくさあ今日はミレーに会わんなにを着ようか | 藤 原 昭 夫 |
| もういいかい昔むかしのかくれんぼ大きあんずの木陰にかくれ | 田 中 治 江 |
| 電気柵の間に張られし蜘蛛の巣に丸まっている楓の黄の葉 | 清 水 さき江 |
| シベリアで損した分は生きねえと志郎享年九十二歳 | 中 澤 晃 子 |
| もう少しもう少しその口元に届かぬ銀色(ぎん)の匙を見つむる | 古 屋 順 子 |
| 葉の落ちて欅大樹か太股にあらわにのびる青き静脈 | 内 藤 勝 人 |
| さみどりのカーテン揺れる日曜日大きくふくれ風包み込む | 保 坂 謹 也 |
| 胸椎装具きっちりとつける秋の夜はうつうつつまらぬ夢ばかりみる | 内 田 文 恵 |
| 人ならば九十六歳の愛犬が九十四歳のわが前をゆく | 清 水 則 雄 |
| 百歳の伯母の囗ぐせ「胃袋も皺だらけだよ」元気に笑う | 卜 部 慶 子 |
| 来月を約し別れし友なりき十日後葬儀の列に並べり | 青 柳 順 子 |
| 囗癖は「学んだことは取られない」父の遺品に六法全書 | 西 村 鈴 子 |
| 端っこが落ちつく吾の誕生会主役の席は「真ん中真ん中」 | 佐 藤 幸 子 |
| わいわいと競いて伸びし大根を一気に間引くわが無情の手 | 秋 山 久美子 |
2017年11月号(Vol.35)NO.328 中沢玉恵 選
| 「ベルデ」は森の小さな雑貨店白い木綿の靴下を買う | 山 囗 明 美 |
| ようやくに初花つけしヘブンリーブルーあなたの為という選択肢 | 山 本 栄 子 |
| 点滴の一時間ほど夢をみるかも知れぬのでめがねそのまま | 石 川 輝 子 |
| ぼくんちになぜエンガワがないのかとふたりで掛ける秋の縁側 | 斎 藤 晧 一 |
| 上野久雄(せんせい)の「玉子は滋養」 独り居の夫の膳にもふたつを載せる | 佐 田 美佐子 |
| 咲き終えしきすげ刈らんと踏み入れば縄張りとばかり蜂襲いくる | 渡 辺 淑 子 |
| 耳寄せて夏の音符を拾ってる木洩れ日のした水琴窟に | 深 澤 靖 子 |
| 笑いながら今夜はここに寝なよとて孫の匂と本に囲まる | 長谷部 静 子 |
| ウッドデッキの柵がスタート「さあ行くよ」流し素麺わがおもてなし | 中 澤 晃 子 |
| 蝉のとよみ盛りなるときわれを呼ぶ痒いところに手の届かぬと | 久保寺 弘 子 |
| 無花果の熟実に鳥の穿ちたる穴あり穴にも陽がさしており | 加々美 薫 |
| 先頭もしんがりももうわからない朝の草原トンボがめぐる | 宮 内 春 枝 |
| 黙々と大地にしみて雨粒は巨峰の房を漆黒にせり | 保 坂 謹 也 |
| 擬宝珠はボウリングのピンに似たる花ストライクの音思い出させる | 広 瀬 久 夫 |
| 老いてなお学べば枯れることなしと清水房雄の「残余小吟」 | 清 水 則 雄 |
| 在りし日の吾が職場跡コンビニとなりて初秋のお茶を購う | 望 月 壽 代 |
| ライナーにとびつく縞のユニフォーム泥にかくれた背番号6 | 依 田 郁 子 |
| 手と足の先の先まで伸ばしきり夏の畳に大の字になる | 岡 田 喜代子 |
| 遠くより稲刈りの音聞こえ来る山梨の秋午後の一刻 | 横 内 進 |
| 物干しに子らのTシャツはためきいし一家は消えて雑草の波 | 西 村 鈴 子 |
2017年10月号(Vol.35)NO.327 中沢玉恵 選
| 背の籠にあかき花房ゆさゆさと山坂道を墓所へ墓しょへと | 窪 田 喜久子 |
| 風に揺るるラベンダー畑にみつ蜂があまた遊べり母も遊ぶや | 山 囗 明 美 |
| 昇仙峡のバスに増えくる登山帽夏がぐんぐん通り過ぎてく | 山 本 初 子 |
| ひとつだに思い出せない親孝行里の川面を花ねむおおう | 藤 原 伊沙緒 |
| 電線に横一列の小燕がわれの小用見おろしている | 三 沢 秀 敏 |
| 吾が植えし櫟林に野狐が一声上げる霧のあしたを | 藤 原 昭 夫 |
| 混みあいし山手線に若者のショルダーバッグに小犬がすわる | 赤 岡 奈 苗 |
| この度の長寿台風気になりて一宮水蜜落ちた夢みる | 鈴 木 源 |
| 隣の畑は日本放送一晩中山の獣に鳴らしつづくる | 坂 本 芳 子 |
| 体温を持たぬことばが選ばれて三者懇談おわりとなりぬ | 中 澤 晃 子 |
| さあ今朝はなんと起こそう百五歳の日野原翁のことを話さん | 古 屋 順 子 |
| わたくしとメダカ友なるおんな孫たまごか糞か電話かけくる | 清 水 さき江 |
| はさみ手に封筒開けてゆく夜のテーブルに落つ一ミリほどが | 保 坂 謹 也 |
| スマホより般若心経流れくる息子の演出鎮魂の歌 | 長谷川 君 代 |
| 子育ての頃の張り合いよみがえり炎暑の庭に水撒きをする | 甘 利 和 子 |
| おすそ分けの桃やぶどうをこの朝は会社の同僚におすそわけする | 杉 山 修 二 |
| サクサクとルバーブきざむ包丁のリズムほがらに梅雨明けとなる | 佐 藤 幸 子 |
| 腹腔鏡の手術を終えて娘は眠る酸素マスクを少しくもらせ | 堀 内 澄 子 |
| 問一に「天壌無窮」と書かせたり敗れし年の中学入試 | 浅 利 尚 男 |
| 父親の生年月日問うメール息子よ他に何か聞くべし | 福 田 君 江 |
2017年9月号(Vol.35)NO.326 中沢玉恵 選
| あぜ草を刈りゆく鎌を逃れゆくすずめ立(たち)っ子草むら深し | 斎 藤 晧 一 |
| 宵祭りの花火の音を追うように降りはじめたる大粒の雨 | 小 林 あさこ |
| いつしらに舗装されたるこの坂の物足りなさは疲れに変わる | 長 坂 あさ子 |
| 田植終え一段落よと雨のなか炊きたて「やこめ」ひょいと置きゆく | 藤 原 伊沙緒 |
| えさ台をこぼれ落ちたる種ならんひまわりの花一つ咲き初む | 小佐野 真喜子 |
| 猫の腹借りて指先あたためる梅雨ざむつづく夕暮れのこと | 三 沢 秀 敏 |
| 下校する生徒の数の少なくて三三五五というも淋しい | 曽 根 寿 子 |
| LINEから届く画面は「ヤッホッホ」夏休みの歌ふたりでうたう | 川 井 洋 二 |
| 一つずつ熟れたる順に落ちてゆく桃梅(ゆすらうめ)はも盛夏に向かう | 丸 山 恒 雄 |
| もう待てん驟雨のなかを小走りにゲラ刷り(ゲラ)はかかげる訳にはゆかぬ | 内 藤 勝 人 |
| 蛙の声とおくなる夜半少年はスマートフォンをいじりつづける | 加々美 薫 |
| 声の出ぬ猫と牛乳分け合いて夜明け始まる父の一日 | 笠 井 芳 美 |
| オペレーターの茶髪がひかりクレーンの先端ぐーんと空に伸びゆく | 保 坂 謹 也 |
| 愚直だと言われし人の散歩道予報どおりの雨に濡れおり | 大久保 公 雄 |
| 朝のラジオは笛吹市からの便りなりはね桃を売る一個百円 | 長谷川 君 代 |
| ライターの火を噴く音が聞こえてる素直な耳に今朝はもどりて | 飯 島 今 子 |
| 水張田の中より声を掛けくれる幼き面影のこる青年 | 角 野 成 子 |
| 六月の庭にザザザと吹く風が落葉松毬果の雨を降らせる | 浅 川 清 |
| 狐火のように野道を来る灯り 女子高生か会釈していく | 青 柳 順 子 |
| 自販機の無料の水の一杯に食後のクスリー包を飲む | 岡 田 喜代子 |
2017年8月号(Vol.35)NO.325 中沢玉恵 選
| ママありがとうのシール剥がしてスーパーに自分で買ったお鮨のパック | 石 川 輝 子
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| 青空はあっけらかんと晴れ渡るカンチューハイの封を切りたし | 小田切 ゆみゑ |
| 起き抜けに自信きざせば真水にて顔洗いたり今年初めて | 竹 内 輝 |
| 寡黙なるまま倒されて焉(おわ)る樹の切り株の辺(へ)に塩ふたつまみ | 斎 藤 皓 一 |
| 手のひらに指で単語をなぞるらし始発電車の向かいの少女 | 渡 辺 淑 子 |
| 満月をかげらす雲のなき夜は川生の草に沈む蛍火 | 堀 内 久 子 |
| 雪解けの山を下りくる夕(よい)の風ひと声あげて松の林へ | 浅 川 春 子 |
| 青空に抜け道ありや強風は巨峰の房を揺さぶり続く | 赤 岡 奈 苗 |
| 満腹を感じることがないと言う母の湯呑みにつもりゆく渋 | 清 水 さき江 |
| ミサイルが狙い定めたこの国のトップニュースは小さきパンダ | 中 澤 晃 子 |
| 祖母(おおはは)が吹き出しと呼びし雲かかり八ヶ岳より風走り出す | 望 月 迪 子 |
| ひと堰をすべて引かねば水張(の)らぬこの田端まで百と五十歩 | 古 屋 順 子 |
| 摘蕾の吾と脚立は一体なり登って下りて下りて登って | 望 月 壽 代 |
| 経木でも麦わらでもない材料で作られている帽子百円 | 清 水 則 雄 |
| 庭に咲く花のどれもがあやふやでネットに探す「アルストロメリア」 | 飯 島 今 子 |
| 六月の日射しが跳ねて河原のみどりの草に陽炎が見ゆ | 保 坂 謹 也 |
| 紅うつぎぽっと咲きいる山の墓地逢いたい人は皆ここにいる | 堀 内 和 美 |
| 遠足の園児らバスを降りて来ぬ最後の一段皆ジャンプして | 青 柳 順 子 |
| はつ夏の空と水田に揺れる空二つの空のあわいを歩く | 田 丸 千 春 |
| 無責任植木等もたまげてる今の日本はスーダラ節よ | 田 村 悟 |
2017年7月号(Vol.35) NO.324 中沢玉恵 選
| 牛池の舂の水面揺れやまず誰かが嘘をついております | 山 口 明 美
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| ははそはの残してくれし大角豆なり春の祭りの赤飯を炊く | 山 本 栄 子 |
| 片手鍋に何でも入れてサッと煮る丼ひとつわたしの夕餉 | 窪 田 喜久子
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| ビオフェルミン高いと妻が叫ぶなり音をさせずに三粒を飲む | 小 島 正のり |
| 木葉木莵五月の朝の小さき声われを見舞いて鳴いているのか | 田 中 治 江 |
| 購いしヴァンフォーレ甲府のステッカー何処へ貼ったら勝つのだろうか | 米 山 和 明 |
| 椎茸の太き榾木の天地かえあさの林に懸巣がさわぐ | 藤 原 昭 夫 |
| ねえ風がつめたくなったと言いたくてひとあしぶんの距離をつめおり | 佐 藤 利枝子 |
| 駆け抜けた青ランドセル向きをかう信号待ちの仲間をまって | 中 澤 晃 子 |
| 楽しみが一つ減ったと誰か言う老人会の帰りのバスに | 清 水 さき江 |
| 春深む夕べ陶器の触れ合えばシナプスというがほぐれゆくらし | 加々美 薫 |
| ノルディックの杖を受け止む仏の座紫色は分別がある | 佐 藤 ゆ う |
| タンポポが道を狭めて咲いているコンビニまでをゆっくり歩く | 飯 島 今 子 |
| いつの間に夕暮れの雨六月のどこかの隅に忘れて来たり | 保 坂 謹 也 |
| 四十日過ぎてわたしのモロコシは刀のような葉を伸ばしいる | 小 林 ケサエ |
| 道草も知らないだろう山間のスクールバスは定刻に来る | 岡 ゆり江 |
| 炊き立てのご飯にまぶす手作りのおかか山椒ぴりりと五月 | 浅 川 清 |
| 「ミサイルがとんでくるから中にいる」ゲームしながら男の子は言いぬ | 堀 内 和 美 |
| 重ねおく植木の鉢は雨ざらし今日隣屋は売りに出される | 岡 田 喜代子 |
| 風そよぐ木立の中を抜けてゆく二両電車は温泉駅へ | 鈴 木 憲 仁 |
2017年6月号(Vol.35) N0.323 中沢玉恵 選
| 葉ざくらの樹下の地べた「かあさあん」と叫ぶにあらん急ぐ毛虫は | 斎 藤 皓 一
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| 真っ直ぐに己と闘う稀勢の里われはレタスをちぎりつつ泣く | 小田切 ゆみゑ |
| ふじりんごにキウィを入れて口を閉ず彼の国またもミサイル発射 | 藤 原 伊沙緒
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| 花の下に大岡信はもういない多くの言葉を持ちゆきしまま | 長 坂 あさ子 |
| 早口に桜をほめる母のいて相槌さえも追い越してゆく | 佐 藤 利枝子 |
| 里駒村に一一〇人の同級生産めよ増やせよの時代のありて | 鈴 木 源 |
| シャッターの降りた店からこの朝は日の丸一本突き出されいる | 川 井 洋 二 |
| バルボッサに良く似た男がダンボール回収に来て煙草の匂いす | 米 山 和 明 |
| 朝の日にプリズムのごときらめきてぶどう樹液のつららが下がる | 砂 原 よし子 |
| 草も木も一途なる季吹く風に若き日のごと身をたわませて | 加々美 薫 |
| 南さんの開花予想は春がすみことしなごりの雪ふかくして | 古 屋 順 子 |
| 風密度太陽光線ばんぜんとわが家ことしもつばめのお宿 | 内 藤 のりみ |
| 冬枯れのままのススキが光ってる鴨の泳ぎが合間にみえて | 飯 島 今 子 |
| 根元のみ鶇の残したほうれん草春の日差しにすっくりと立つ | 望 月 壽 代 |
| 五十年を勤めし夫はこの朝をわれに手を振り出かけてゆきぬ | 秋 山 眞 澄 |
| 五センチのズボンの綻び繕いぬ初めて持ちし針というもの | 清 水 則 雄 |
| じぐざぐに息をととのえ登る坂空に近づくちちははの墓所 | 岡 田 喜代子 |
| 月光を掬うがごとく差しのべる両の手という脆い器を | 樋 耕 一 |
| 着なかった子の制服のスカートのチェックのひだにアイロン当てる | 西 村 鈴 子 |
| 小名浜の海岸通り走る日がまた来るなんて〈復興マラソン〉 | 中 山 久美子 |
2017年5月号(Vol.35 No.322) 中沢玉恵 選
| 運転は今日限りです誰もいぬ真っすぐな道とばしてみたい | 長 坂 あさ子 |
| 点火せし野火は走りて川原の雪解け水も走り出したり | 山 囗 明 美 |
| 「鬼は外」は言わぬ慣いの節分会尼寺の夜を明るめて更く | 山 本 栄 子 |
| 自販機は寒のもどりの雨に濡れわれにと落とすホット一本 | 斎 藤 皓 一 |
| 日常につづく階段のぼりおり折りたたまれた半券を手に | 佐 藤 利枝子 |
| 殿原の向こうの山の薄けむり流れてわれのくしゃみ止まらず | 堀 内 久 子 |
| 置きざりにされたと思う真夜深くただひたすらにレース編みする | 渡 辺 淑 子 |
| 割り算の余りのようにはこべ咲き三月の庭綻び初める | 深 澤 靖 子 |
| 雪かきは砦づくりと相成って少年はどの乱世にいる | 中 澤 晃 子 |
| 今日からは嫁と二人で畑に出るまず軽トラのマニュアル教え | 坂 本 芳 子 |
| 中締めの後は盆ござ男らは小さく集いコップを上げる | 清 水 さき江 |
| 稀勢の里の初陣見んといっときを離れていれば吹きこぼれたり | 久保寺 弘 子 |
| きっかけは誰かの咳でこの昼の市民ホールの空気がなごむ | 田 澤 きよ子 |
| 去年の春は蕗の薹入りコロッケを美味いうまいと食みし母はも | 秋 山 眞 澄 |
| この腕にリストバンドは巻かれおりユニフォームのごとパジャマ配らる | 長谷川 君 代 |
| アイドリングのエンジン音が変わりたりラッパ水仙もうすぐ咲く | 甘 利 和 子 |
| 豆ランプ灯すが程にたんぽぽの一つ咲きおり真冬の野道 | 青 柳 順 子 |
| 療養の友は南の地へ去りぬ8から始まる郵便番号 | 浅 川 清 |
| 陽炎に大小のかげ躍りつつしりとりの声角に消えたり | 福 田 君 江 |
| 座りたい椅子と座れる椅子がある座れる椅子でゆっくり生きる | 笠 井 文 次 |
2017年4月号(Vol.35 No.321) 中沢玉恵 選
| 白樺の細き木の根につまずきてヤマネの眠る森をさわがす | 藤 原 伊沙緒 |
| 胃ろうより解かれし叔母が眼をつむり白いむすびをゆっくりと食む | 山 囗 明 美 |
| 遅くまで起きてて電話したのにさ早口英語の留守電だった | 石 川 輝 子 |
| その事にふれずふっくら黒豆を好物と言うその手にのせる | 山 本 初 子 |
| 前を行く人の手提げに山梨のワイン五本が陽に透けて見ゆ | 赤 岡 奈 苗 |
| 間の岳農鳥岳は雪まみれ果樹の村里見守りながら | 浅 川 春 子 |
| 朝より風すさびいる川沿いに両手大きく振りて友ゆく | 堀 内 久 子 |
| 朗読会このフレーズがさわりだと思ったとたん裏声となる | 川 井 洋 二 |
| 正月は許しましょうか女酒ふたりの孫のいい飲みっぷり | 古 屋 順 子 |
| 家ぬちに豆撒く声は弱くして鬼はそとそとそのうち慣れる | 砂 原 よし子 |
| 日米は何を語っているのでしょうトランプタワーの金色の壁 | 内 藤 のりみ |
| 鹿除けの垣の高さは原さんの鹿を憎めぬ迷いの高さ | 望 月 迪 子 |
| 寒波つづくわが店内の冷えしるく昨日の小松菜元気なみどり | 内 田 文 惠 |
| 埋め置きし牛蒡をさぐるスコップの刃を撥ねかえすこの朝の土 | 岡 ゆり江 |
| がんがんと雪降り続くニュース消しチリのワインのふかき赤飲む | 保 坂 謹 也 |
| 軋みゆく私の中にもれる声見かけた背中を追いかけずいた | 勝 村 真寿美 |
| あっミレー富士山を背に種を蒔く小柄な農夫にシャッターをきる | 田 丸 千 春 |
| いつもより出口が遠いトンネルはUターン禁止進むしかない | 堀 内 和 美 |
| 九十年大黒柱の欅なり上がり框にいまよみがえる | 浅 利 尚 男 |
| 時経てもまだ言い足りぬありがとうあの日と同じ風すさびおり | 秋 山 久美子 |
2017年3月号(Vol.35 No.320) 中沢玉恵 選
| ホールまでの鈴かけの道まだ音とならぬ落葉を踏みながら行く | 山 口 明 美 |
| 俺なんか毎日独居老人だボランティアから戻れば夫が | 山 本 栄 子 |
| はがしゆくキャベツに淡き色をして二つの虫が向きあいている | 今 井 ひろ子 |
| 柚の照る木下に竿をふりまわす少し若やぐ秋の夫は | 藤 原 伊沙緒 |
| ひとつ傘に肩を濡らして歩きたるあの日と違う道を行くなり | 深 澤 靖 子 |
| 十二時の花火の音にめざめたり妙見山の冬至のまつり | 橘 田 行 子 |
| カウンターの隅のバナナは知っているわれのひそかなキッチンドリンク | 中 山 恵 理 |
| つややかな柿の実一つ山道に落として猿は逃げてゆきたり | 石 原 久 子 |
| 朗々のわが少年はアスリートまずはからまつ林を抜けて | 中 澤 晃 子 |
| この年の仕事仕舞に軽トラック二台を洗う夫に代りて | 坂 本 芳 子 |
| 樹にあれば交流できぬ木の葉たち紅黄茶色が落ちて交わる | 丸 山 恒 雄 |
| アッツアッツと一人まるめる鏡餅年々小さくなってしまうが | 古 屋 順 子 |
| どんど焼の火の粉を追いぬその先に北極星がくっきりと見ゆ | 岡 ゆり江 |
| 繰りかえし不安を不安がっている土鍋のふたがコトコトと鳴る | 新 藤 真 美 |
| 酉年は「私ファースト」すすめゆく終活計画練りはじめよう | 丸 茂 佐貴子 |
| 落ち込んで落ち込んでまた這い上がるじゃが芋の芽は出揃っている | 斉 藤 さよ子 |
| 早口に介護の日々を語る人じっと聞きいる雨の露天湯 | 堀 内 和 美 |
| リハビリに「できません」とは禁句なり汗がしたたり病衣をぬらす | 西 村 鈴 子 |
| 駅伝の襷渡して倒れこむランナーのような国の公債 | 浅 利 尚 男 |
| 山梨から六つの県を素通りしナビの教える母の病院 | 中 山 久美子 |
2017年2月号(Vol.35 No.319) 中沢玉恵 選
| お互いに視線をそらすこと多し子にゆかれたる友人ありて | 長 坂 あさ子 |
| 〈したことのすべてをオレは知ってるぜ〉蠅取グモは壁に動かず | 斎 藤 皓 一 |
| この頃のこの淋しさは何だろう夫の下着もLからMに | 石 川 輝 子 |
| さざんかの切り揃えられた庭奥に八方棘もつ柊が咲く | 窪 田 喜久子 |
| ベランダに干す柿の実を眠らせぬ十六夜の空こんなに青く | 浅 川 春 子 |
| 団欒にペットのごとく割り込みぬリビング用に買いしパソコン | 中 山 恵 理 |
| 憂きことを断ち切るかのごと鳴沢菜漬け込む腕に力のこもる | 渡 辺 淑 子 |
| 膝痛は右に左に移動して十一月の雪は降るらし | 赤 岡 奈 苗 |
| 冬の日に種とがらせてメナモミはにんげんの方へ傾きたがる | 清 水 さき江 |
| 縁が欠けその上文字も消えかかる我の一世の銀行印は | 内 藤 勝 人 |
| 十二月とまどうことの二つほどごみ出し〝プラ”と洗濯表示 | 日 向 このえ |
| もめ亊の非のある方へ肩人れをしたし夕べは冷えた茶をのむ | 前 田 絹 子 |
| 北風が甲府盆地を吹き抜けてリニアのような一年が過ぐ | 保 坂 謹 也 |
| 六文銭の兜の前に立てという初めて妻がシヤッターを押す | 広 瀬 久 夫 |
| 病経し身となりたれば惑いいるまだまだ先の免許更新 | 内 田 文 惠 |
| 飛騨の地の救急病院にはこばれて何のおもいかこみあげてくる | 大久保 公 雄 |
| 他人めく顔に吾が街しずもれり友を葬りて帰り来し夜を | 青 柳 順 子 |
| リタイヤののちを楽しみ買いおきし本はいずれも小さき字なり | 佐 藤 幸 子 |
| 白波が寄せては返す塩屋埼私の上を津波が越えた | 鈴 木 憲 仁 |
| 老人はかたえに歩行器置きながら銀杏落ち葉をはき寄せている | 永 田 はるみ |
2017年1月号(Vol.35 No.318) 中沢玉恵 選
| 杉山を鳴らす風聴く境界を教えぬままに夫は逝きたり | 堀 内 竹 子 |
| 歯切れよく認知症だと告げる友病とうまくつきあうらしも | 今 井 ひろ子 |
| 涅槃へと導く太鼓の音ですと僧が打ちつぐロックのリズム | 山 口 明 美 |
| 幾百の家族の日々を見守りてマンション脇のけやきの紅葉 | 内 田 小百合 |
| 二百余の吾が集落に嫁のくることし一番の明るきニュース | 鈴 木 源 |
| あの空へ飛び立ったっていいんだよオバマさんの折った折鶴 | 深 澤 靖 子 |
| わたしにもやれば出来ると高尾山の一〇八段を上り下りする | 江 口 喜美子 |
| 細すぎて干切れそうなる三日月を工事現場のクレーンが支う | 三 沢 秀 敏 |
| 軽トラック帰れば庭に尾を振りぬ夫が降りてきた日のように | 坂 本 芳 子 |
| 最新版ガイドブックに原発の文字ひとつなく敦賀駅過ぐ | 清 水 さき江 |
| じんるりと薪ストーブを焚いている秘めた氷はとかさぬように | 中 澤 晃 子 |
| ヴァンフォーレの青き旗立つあたりより小走りになる散歩のリズム | 渡 辺 健 |
| 雨粒は街の静けさ奪いつつしだいに強く地面を跳ねる | 保 坂 謹 也 |
| 思いだしているかのように落ちてくる桃の葉それぞれ色を違えて | 小 林 ケサエ |
| 防災のザックの乾パン期限切れ夫の癌の癒えて五年目 | 田 澤 きよ子 |
| 退院の庭先に咲く山茶花の控えめの白秋は進んで | 内 田 文 惠 |
| くすの木の木漏れ日すこし揺れていてわたしの夢をくすぐっている | 堀 内 澄 子 |
| 立札の文字褪せぬまま風のなか飯舘牛はどこにもいない | 田 丸 干 眷 |
| 新築の主なき家庭先に被災五年目の水仙の咲く | 伊 達 旅 人 |
| 峠道歩みし犬の白き背に落葉松の針いくつも刺さる | 鈴 木 憲 仁 |
2016年12月号(vol.34 NO.317) 中沢玉恵 選
| 従順については来ても時々にひっくり返るこの掃除機は | 斎 藤 皓 一 |
| 沿道の八十万の群衆が万歳のごとスマホ掲げる | 小 林 あさこ |
| 庭の草ぎゅうぎゅう詰めの四つ五つ袋のこして子は帰りゆく | 大久保 輝 子 |
| 丸の内の昼を信号待ちておりコンビニ袋次第にふえて | 今 井 ひろ子 |
| 力ラコ口と泣いているのにつかめない ラムネの瓶の中のビー玉 | 中 山 恵 理 |
| 山際の茜しばらくひきとめて背伸びしておりオフィスにひとり | 佐 藤 利枝子 |
| 青くって吸い込まれそうな秋の空明日は嫁が来てくれるはず | 田 中 治 江 |
| 軽トラが夕日に染まり田の畔にもう帰ろうとわれを呼んでる | 曽 根 寿 子 |
| この年のささぎは黒く実とならず種損手間損雨ばっかりで | 古 屋 順 子 |
| スーパーのトイレの中の荷物掛きっと毋には手が届くまい | 清 水 さき江 |
| 芝を刈る金属音にうろたえてわが膝にくる精霊蝗虫 | 久保寺 弘 子 |
| 自転車で県庁までは行けるかな金木犀の結界ベール | 内 藤 勝 人 |
| 靴ひもを少し緩めてスタートす晩秋の蝶が飛びてゆきたり | 保 坂 謹 也 |
| どこからか湿布のにおいただよいて今井恵子氏の確かな歌評 | 中 澤 晃 子 |
| 鹿の絵の十円切手の母の文エンディングノートにはさみて置きぬ | 平 本 已奈子 |
| 大き風われに残して走り去る白き保冷車東北ナンバー | 宮 内 春 枝 |
| 仄暗き無言館内聞えくる今を生きいる人の足音 | 田 丸 千 春 |
| 食卓に皿盛りの梨好物が秋を運んで目の前に来た | 笠 井 文 次 |
| キッチンに夫が籠りて二十分庭の無花果ジュースとなりぬ | 西 村 鈴 子 |
| 黄金田は蜘蛛や飛蝗の棲み家なり立ち退きせまるコンバインの音 | 杉 山 修 二
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2016年11月号(vol.34 NO.316) 中沢玉恵 選
| ひそかなるエールをおくるわがままな孫言いつのる「こわい先生」 | 前 田 絹 子 |
| 隣り会うデイサービスの部屋からは体操指導の声だけ聞こゆ | 中 村 道 子 |
| リオの風まあろく頬にふふみしか最終ランナーケンブリッジは | 藤 原 伊沙緒 |
| 自販機の入れ替え終えし青年の腰にゆれてる赤いお守り | 山 本 初 子 |
| 閃光が一瞬にして引き寄せる喝采のような大粒の雨 | 山 口 明 美 |
| みどり濃く棚に吊さる島ゴーヤ蝉が止まりてかすかに揺れる | 三 沢 秀 敏 |
| 心まで四角になってしまうから丸い型のスマホが欲しい | 飯 島 公 子 |
| 古里の白雲橋のあさ六時ときめきながら新竿伸ばす | 藤 原 昭 夫 |
| 目に入る汗を拭きつつ菜園に相撲取るよう草と戦う | 沢 登 洋 子 |
| ワイン用の葡萄切りゆく傍らに小さき椅子を相方として | 砂 原 よし子 |
| オホーツクの冷凍タラバガニ解けてクリオネの浮く潮の匂い来 | 荻 原 忠 敬 |
| 雨上がりの隣のラベンダー畑よりありったけなる香りが届く | 中 西 静 子 |
| 控えめな脇侍のような山茶花と夫の退く日の風が重なる | 杉 田 礼 子 |
| 仏壇の奥のひらたき封筒に亡父の戦争体験記あり | 岡 ゆり江 |
| 「ゴホンゴホン」と夫の咳をすぐ覚え家族となりぬインコの(ペコは) | 田 澤 きよ子 |
| 供えると言うより飾るが似合う花君が好みしコスモス一輪 | 長谷川 君 代 |
| 「女座敷表」と上書きありて婚礼の席順を知る明治時代の | 田 丸 千 春 |
| 胸までの畑の草を掴み取り泥の軍手に汗拭いたり | 横 内 進 |
| 蕎麦の実が三角と知りおどろきて研修生らの刈り取りたのし | 小 林 ケサエ |
| 飼い猫に「アポロ」「銀河」と名付けたる次男夫婦の夢を想えり | 福 田 君 江 |
2016年10月号(vol.34 NO.315) 中沢玉恵 選
| 一枚のブラウス選ぶ我がことのあまりに小さし八月六日 | 石 川 輝 子 |
| 戦死することを「散る」と言いし日々兄の散りにし八月の来る | 小田切 ゆみゑ |
| 雨の日のいつもの眼科ロビーにはだれも乗らない木馬がふたつ | 小 林 あさこ |
| こんにちは、声をかけ合う木道に尾瀬七月の風すれちがう | 山 本 栄 子 |
| 忙しく三日とらずにいた茄子はやや大きめのお盆の馬に | 鈴 木 源 |
| とりたてて言うほどにない一日の流れの中の赤いガーベラ | 飯 島 公 子 |
| 太陽という名の李この一つ椀げば今年の作業が終る | 沢 登 洋 子 |
| 五十歳の知恵うすき子の広き背を八十歳の夫が流す | 曽 根 寿 子 |
| つまれたる書道半紙は茶の菓子の包み紙にとわたしがつかう | 古 屋 順 子 |
| 雄大な北アルプスを天守閣の目線にのぞむ今日は「山の日」 | 日 向 このえ |
| 噴水のみずのドレスがかがよいてポケモンGOがそこに來ている | 内 藤 のりみ |
| せいせいと素足踏みゆく板の間の百年のつやはりつくごとし | 望 月 迪 子 |
| また別の風が北から吹いてきて画鋲は夏を落としてしまう | 杉 田 礼 子 |
| そのつもりだったのだろう意思のある南瓜の花に聞いてみたくて | 佐 藤 ゆ う |
| ルーティンの散歩に寝坊する犬ら錦織圭はああ銅メダル | 笠 井 芳 美 |
| ぽたぽたと無知な小粒の青柿を拾い集める八月の朝 | 斉 藤 さよ子 |
| 砂浜にひ孫の作る夢の城波がざふっとみなさらいゆく | 三 枝 幸 子 |
| 肺の影の経過観察十五年寛解となり空を見上げる | 佐 藤 幸 子 |
| 朝露を踏んで稲田へ急ぎ足青い穂を抜き穫れ高を読む | 横 内 進 |
| この海が浚いてゆきしもの数多それでもここで生きると店主 | 田 丸 千 春 |
2016年9月号(vol.34 NO.314) 中沢玉恵 選
| コンテナの重さに軋む股関節猛暑にやっと慣れてきたのに | 砂 原 よし子 |
| 大根の輪切りのような白い月シンプルライフ目標にせよ | 山 囗 明 美 |
| 首振りを止めてしまった扇風機卯の花いため匂いはじめる | 中 村 道 子 |
| このようにしんどかりしか朝明けの寝起きに遠き母を重ねる | 依 田 邦 惠 |
| 切傷に火傷に効くらしヘビイチゴ梅雨の湖岸に赤く灯れり | 藤 原 伊沙緒 |
| 郭公の遠鳴き聞こゆ年々に膨らみてゆくわが天邪鬼 | 浅 川 舂 子
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| 急がねばならぬことなきわが暮らし青の点滅赤やがて青 | 室 伏 郷 子 |
| 兄夫婦に飼われ始めしミニ柴の写真二枚がスマホに届く | 米 山 和 明
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| 家庭葬のホールオープン見学しワインとティッシュ、じゃが芋もらう | 飯 島 公 子 |
| 本棚は他人の歌集で溢れいる 入道雲が高さをきそう | 内 藤 勝 人
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| オスプレーの動きのようなみずすまし水辺の平和奏でていたり | 内 藤 のりみ |
| 高齢の男女集えるスーパーの無料イベント老いた歌手来る | 前 田 絹 子 |
| 認知症をうたがわれたる言の葉の打ち消せぬまま木橋を渡る | 宮 内 春 枝 |
| 支援金は八千円で一致してシルバー会の例会終える | 平 本 巳奈子 |
| 露天風呂で本を読んでるばあさんは私であるらし声かけらるる | 佐 藤 ゆ う |
| 次つぎに桃の袋をはぎゆけば舞い上がる毛が銀色に光る | 岡 ゆり江 |
| イギリスの事情はさておきレコードに針を落して聴くイェスタディ | 甘 利 和 子 |
| 食足りて戦争無くて揚げ茄子の色をたのしむこの夕まぐれ | 青 柳 順 子 |
| 畦道に見知らぬ若き顔もあり田植はじまる日曜の朝 | 角 野 成 子 |
| 夕餉には地産地消の海の幸目が楽しんでいる山国育ち | 杉 山 修 二 |
2016年8月号(vol.34 NO.313) 中沢玉恵 選
| ぐっさりと手がんなの刃を引く時に地下茎という繋がりを断つ | 堀 内 和 美 |
| 千年のむかしにもありし引きこもり紫式部も五箇月ほどを | 小 林 あさこ |
| 「すみません」今日幾度の言葉なり年をとるとはこういうことで | 中 村 道 子 |
| 引き出しの奥はさびしい国鉄の切符二枚がしまわれていて | 長 坂 あさ子 |
| 父母はシナ・クナと忌みていたりけりされど四日に籾種を播く | 山 本 栄 子 |
| 五十キロの制限速度の県道を五十キロ走行のあとをつき行く | 川 井 洋 二 |
| コンビニのおにぎり上手く開かない 大統領が折った折鶴 | 深 澤 靖 子 |
| 手のうちにほど良きおもさ残しおり炭酸水の青きあきび | 佐 藤 利枝子 |
| アカシアの花のさかりがめやすなりデラウエアーのジベ処理をなす | 鈴 木 源 |
| 明日からテストだという少年の背に跳ねている〈なんくるないさ〉 | 古 屋 順 子 |
| 手押し車おしゆく母に歩を合わすニセアカシアの匂う川べり | 清 水 さき江 |
| 盛り上がりまた盛り上がる湧水は地球の鼓動 畏れつつ覗く | 望 月 迪 子 |
| 空高く曳航され來しグライダー鳳と化し何処をめざす | 内 藤 勝 人 |
| 水張田に風波生るるつかの間を散歩の汗がさーっとひきぬ | 飯 島 今子 |
| いくつもの病気と小さなリュック背負い小田切さんが歌会にくる | 中 澤 晃 子 |
| 河川敷にニセアカシアが匂いくるあの子狐はおおきくなったか | 佐 藤 ゆ う |
| わが膝の人工関節たのもしく東北四大まつりへ行かん | 古 屋 あけみ |
| 部活する生徒のいない運動場日曜午後は風遊ぶ庭 | 依 田 郁 子 |
| 懐古園の花の下なるオカリナの「さくらさくら」の胸にしみいる | 佐 藤 幸 子 |
| 葉のかげに青実びっしりつけている姉さんかむりの動く梅畑 | 大久保 公 雄 |
2016年7月号(vol.34 NO.312) 中沢玉恵 選
| いっせいに高校生が礼を言う目立たぬように入れた硬貨に | 今 井 ひろ子 |
| 百日草もレタスも育つと宇宙船われは地球に春の種蒔く | 山 囗 明 美 |
| やわらかな山椒の芽を摘みたるは一日増えしわれが休日 | 内 田 小百合 |
| 一人より二人はすてき手際良く柘植の生垣刈り込み終わる | 窪 田 喜久子 |
| 温といのを四つ冷たいのを三つ浅利さんの声いとぬくとくて | 浅 川 舂 子 |
| 同窓会より酔いて帰りし夫の手が記念のガーベラしっかりにぎる | 曽 根 寿 子 |
| 朝の陽が障子に差してゆらゆらとゴールドツリーの影絵をつくる | 赤 岡 奈 苗 |
| 三世代うから集える子供の日バット振る子が主役となりぬ | 橘 田 行 子 |
| 一枝にふた房のこし摘みおとす幼きぶどうに優劣つけて | 久保寺 弘 子 |
| 思いどおり苗育ちたる四月尽保温シートをゆっくりはずす | 古 屋 順 子 |
| 捨て置かる畑といえど踏み入れず今が採りごろ蕨山ぶき | 望 月 迪 子 |
| ペンライト揺らす市民の言祝に大村博士のめがねがくもる | 内 藤 のりみ |
| 朝々に「久しぶりだね」と待つ人の食事つくりて五年となりぬ | 平 本 巳奈子 |
| 「長時間座れる椅子に変えました」パチンコオーシャンの色めくチラシ | 中 澤 晃 子 |
| 震災地からこの日入荷の紅甘夏くまもんの紙入りて香れる | 内 田 文 恵 |
| 玄関に名刺を添えて置いてあるだるまのような筍二本 | 秋 山 眞 澄 |
| できぬのを寒さのせいとしていたり四月の風が背を押してくる | 甘 利 和 子 |
| 分譲地の真ん中あたりに作られしぶらんこふたつ揺らす風あり | 角 野 成 子 |
| 息子さん定年となりわが町の自転車屋さん復活したり | 伊 藤 于永子 |
| 魚屋さんズンドコ節を響かせて青葉の下を団地へ向かう | 横 内 進 |
2016年6月号(vol.34 NO.311) 中沢玉恵 選
| スマホに変える、電力自由化、答えずに腰へ湿布を手さぐりで貼る | 小田切 ゆみゑ |
| 少しずつ描き足すようにさみどりの葉を増やしゆく公孫樹の並木 | 内 田 小百合 |
| サバンナの木漏れ日のようのっぽりと麒麟三つが朝のしじまに | 藤 原 伊沙緒 |
| 検索のレシピの大さじ倍にして春のキャベツを芯まで刻む | 依 田 邦 惠 |
| 下校の子黄色い旗を振りながら雉の鳴き声まねして過ぎる | 三 沢 秀 敏 |
| 閉ざされた校門前に手をつなぐ子供二人の横断標識 | 川 井 洋 二 |
| 濁川をオアシスとしてこの昼を鴨とカメとが並びいねむる | 米 山 和 明 |
| 全身が急速冷凍されていく同病の友今朝逝きたりて | 志 村 栄 子 |
| 春の畑へきょうふみ出だす第一歩土の凹凸足裏にやさし | 久保寺 弘 子 |
| 申告の数字もつれる夜の間を雨ひそひそと身を浸しくる | 望 月 迪 子 |
| 花便り花粉だよりとこの頃を出番のふえたローションティッシュ | 日 向 このえ |
| 神之原に近づいてくる御柱木遣りの声が風に聞こえる(茅野市玉川) | 清 水 さき江 |
| 切るところ縫うところ自き印あり六年生のエプロンの生地 | 中 澤 晃 子 |
| 圧雪の歩道に二本のカート跡残して息子帰りゆきたり | 長谷川 君 代 |
| あの事はもう勘弁してもらいたいまた曖昧な夢から覚める | 山 下 愛 子 |
| 大丈夫君はいい子と言い聞かす犬の瞳に映るわれにも | 笠 井 芳 美 |
| 米を研ぐ朝の水の心地よし有線放送開花をつげる | 角 野 成 子 |
| スカートの裾の高さに桜草 卒園式の入場進む | 浅 川 清 |
| 種いもの芽を探しつつ切り分ける母亡き後のはじめての春 | 永 田 はるみ |
| 友がみなLINEというを楽しめばスマートフォンに私も迷う | 佐 藤 幸 子 |
2016年5月号(vol.34 NO.310) 中沢玉恵 選
| ゆるやかな上昇感に抱かれて今年最後の雪をみあげる | 佐 藤 利枝子 |
| 申告の順番を待つ 体温ののこれる椅子を移りながらに | 中 村 道 子 |
| 〈ジュピター〉に着信音を変えし朝わたしは何を待つというのか | 山 本 栄 子 |
| この辻の大き桜樹なくなりて風邪ひきそうな空がひろがる | 内 田 小百合 |
| ひよどりが蜜によりくる蝋梅は今日もむかしも亡き母の花 | 依 田 邦 惠 |
| 休耕の田を真四角にほとけのざ今年も花を色濃く咲かす | 浅 川 春 子 |
| 五アールのキウイ作りし日のありき夢は真白き花を抱える | 田 中 治 江 |
| ハーメルンの笛吹き人はどこへゆく海辺の町に粉雪のまう | 瀬 尾 典 子 |
| やま盛りの菜の花パスタ絡めつつ半年分の身の上を聞く | 砂 原 よし子 |
| 水替えの網にすくわれ時の間を金魚は朱く艶めきにけり | 坂 本 芳 子 |
| 枯るるもあり生き延ぶるもあり早春の光に当てる鉢の数々 | 丸 山 恒 雄 |
| ヌートリアだって過食はしませんよ夜更けにスナック菓子など食べて | 荻 原 忠 敬 |
| それぞれに思いかかえて椅子を立つペーパーカップにお茶は残りて | 平 本 巳奈子 |
| スポーツジムに中国会話たかく飛び交いてひるみそうなり日本人われ | 佐 藤 ゆ う |
| 四年間の荷物は車一台分煙草の匂い漂わせており | 笠 井 芳 美 |
| なにごともほめ上手なる友なればサクラ草大鉢抱いて手をふる | 宮 内 春 枝 |
| 公園の遊具指さし「触ってもいい」と聞くなり福島の子は | 田 丸 千 春 |
| 好きなもの、猫と自由と便利グッズ 七十歳を越えて定まる | 浅 川 清 |
| ピシッ・ピシッと難聴の身に響きくる剪定の音こころよきかな | 広 瀬 久 夫 |
| 海風と折り合いてきし写真館昭和の家族の笑顔飾りて | 福 田 君 江 |
2016年4月号(vol.34 NO.309) 中沢玉恵 選
| 姿見のうすきほこりを払いつつ手ばなすための着物を選ぶ | 今 井 ひろ子 |
| 『アンナ・カレーニナ』の最終章を思わしむ北風の中の鉄を打つ音 | 小 林 あさこ |
| 花壇より掘りおこされし雨蛙地中の息をはかなくもちて | 長 坂 あさ子 |
| 今日だけの暖かさかもウォーキング帰りに寄って大根を抜く | 石 川 輝 子 |
| クレーンの先伸び上がり日に向かい一礼をする一月四日 | 飯 鳥 公 子 |
| 一月に台湾坊主あらわれて山梨あたりに大雪降らす | 鈴 木 源 |
| 剪定に洩れし巨峰の長き蔓そろりそろりと棚這いあがる | 赤 岡 奈 苗 |
| 菜園の最後の大根今日抜きぬ根も葉もしっかり食べてあげねば | 長谷部 静 子 |
| 富士見へと向かう車窓に八ヶ岳の峯ゆったりと間延びしてゆく | 望 月 迪 子 |
| 週末の祈込広告ずっしりと数枚に雛の笑顔が見ゆる | 日 向 このえ |
| あつあつの甘酒一杯手渡して盛る焚火を囲みていたり | 砂 原 よし子 |
| つつまれた新聞紙からすらり伸び大塚人参艶つやとくる | 内 藤 勝 人 |
| 琴バウアーのごと南天がゆっさりと凍てつき幹のうら側を見す | 丸 茂 佐貴子 |
| シルバーカー押して窓辺に立つ人にもういいからと手を振りかえす | 平 本 巳奈子 |
| ジビエとう鹿肉届くステーキがイケるとメモが書き添えられて | 岡 ゆり江 |
| 風に乗り蜘蛛は千里を飛ぶという納税申告時期の近づく | 田 澤 きよ子 |
| 一日中何もしないことにするせっかく風邪をひいたのだから | 佐 藤 幸 子 |
| おだやかで我慢づよいと子は吾を語りておりぬ医師に問われて | 青 柳 順 子 |
| 新聞がカップの位置が朝のまま変わらぬことがひとりの暮らし | 田 丸 干 春 |
| 泥漬けは吾がふる里の冬の昧大根の土軍手でしごく | 角 野 成 子 |
2016年3月号(vol.34 NO.308) 中沢玉恵 選
| しろばんば飛べば母来る気配して肉じゃがの鍋温めなおす | 深 澤 靖 子 |
| 黒豆がふっくら香るぬるき午後「シャガール」夫は念入りに拭く | 藤 原 伊沙緒 |
| この子は童謡カルタが好きという「こんと狐が鳴く」のが特に | 山 口 明 美 |
| 小鉢には山盛りの塩そのドアを私はあけてもいいのでしょうか | 今 井 ひろ子 |
| 湯上りを爪切りながら視るラグビーサモア反則アッと深爪 | 堀 内 竹 子 |
| 五十年使って今朝も機嫌良し食器戸棚の蝶番かな | 飯 島 公 子 |
| 難聴者協会設立十周年男子はネクタイ着用のこと | 石 原 久 子 |
| フィナーレはみんなで歌う「麦の唄」軒の干柿夕日にゆれて | 三 沢 秀 敏 |
| 結球になりそこなった白菜がうつらうつらとしてる日だまり | 久保寺 弘 子 |
| ホームでの母の年越しカレンダー奥村土牛の梅を咲かせて | 前 田 絹 子 |
| 稜線の向こうに残る夕明りハグする習い吾にはなくて | 清 水 さき江 |
| 座るたびスーツのボタンはずしてるナイスミドルになれるかオバマ | 内 藤 のりみ |
| お互いのリュックの大きさ見比べぬ登山ではなし歌会にゆく | 佐 藤 ゆ う |
| たかが二年成人式に集いいるされど二年のそれぞれの道 | 笠 井 芳 美 |
| やわらかな冬陽のなかにッ前山は散髪したてのようにかがよう | 中 澤 晃 子 |
| この昼はネットスーパーに入店しお米5キロと豚肉少々 | 飯 島 今 子 |
| この町は何処にいようと富士が見え私はずっと逃れられない | 堀 内 和 美 |
| 遠足を終えて干さるるスニーカー向かいのベランダお隣の庭 | 角 野 成 子 |
| 消え残る飛行機雲を夕焼けが一直線の虹に変えたり | 依 田 郁 子 |
| 餅搗きを続けて今年六〇年握った手形を杵に残して | 横 内 進 |
2016年2月号(vol.34 NO.307) 中沢玉恵 選
| 秋の陽が柔らかに来る図書館に手を触れてみる洋書「バイブル」 | 山 口 明 美 |
| 原節子逝きて昭和はなお遠く秋晴のない秋が過ぎゆく | 小 林 あさこ |
| ノルディックポールに頼り登る坂子どもの頃は遊び場たった | 山 本 栄 子 |
| 銀行の椅子に待ちおり横切れるひとの誰にも会釈のなくて | 竹 内 輝 |
| 白樫の枝を突きつつ下りゆく猪の跡ふかく残さる | 浅 川 春 子 |
| 三匹が二匹になってぽっちゃりとまだらの琉金二年目の冬 | 飯 島 公 子 |
| 一片のアップルパイをもてあましフォークは円をなんども描く | 佐 藤 利枝子 |
| この辺が身の引きどころ三代のたばこ小売を店じまいする | 曽 根 寿 子 |
| うすらかな霜は朝日にとけながら柿の落葉が朱を深めゆく | 坂 本 芳 子 |
| 苔玉の楓静かに葉を落とす水盤の中秋は終りぬ | 望 月 迪 子 |
| セーターにのこる焚火のにおいごとくぐりぬけたり今朝は寝ぼけて | 前 田 絹 子 |
| 錦秋のゴブラン緘の七里ヶ岩 大村博士の受賞祝えり | 日 向 このえ |
| すっぱさのほどよきほおずきプリン食む過疎の町なるプレハブカフェー | 中 澤 晃 子 |
| 売れゆきの鈍い土葱やわらかくはじけるような旨味をもてり | 内 田 文 恵 |
| 信号を待つ数十秒目礼をかえしてくるる紅きバラあり | 勝 村 真寿美 |
| ケイタイで話せばおわることだけどワンマン電車に芦川わたる | 宮 内 春 枝 |
| 冠雪の富士の見守る歩道橋 黄色の帽子がぽこぽこ渡る | 堀 内 和 美 |
| チラーヂン副作用あるも付き合いて生きんとわれは飲みつづけゆく | 佐 藤 幸 子 |
| 祖父も父もこの傾斜地を耕せり腰痛堪え吾も踏んばる | 広 瀬 久 夫 |
| 通知票マイナンバーを手にとればいよいよ雁字搦めの余生 | 大久保 公 雄 |
2016年1月号(vol.34 NO.306) 中沢玉恵 選
| 干し柿に一日をまわす扇風機ときあかりして降りつづくなり | 浅 川 春 子 |
| ふくらかに新米香る朝なり一年生の乳歯がゆらぐ | 依 田 邦 恵 |
| 熱の子の代わりに秋の午後をきてグレンミラーのサウンドに酔う | 藤 原 伊沙緒 |
| 会場よりもち来し悔いがすっぽりとレインコートに包まれている | 長 坂 あさ子 |
| そういえばただみつめらる広辞苑スマートホンは撫でられるのに | 中 村 道 子 |
| たんぽぽの綿毛撮らんと腹這いて夕日の中にとびたつを待つ | 藤 原 昭 夫 |
| シルバーパス使いこなして日盛りの街に出ずれど一人はひとり | 室 伏 郷 子 |
| アラームを振り払うごと背伸びする両手にふれる朝の冷たさ | 佐 藤 利枝子 |
| 五線譜のように張られし電気柵スイッチ入れて帰りきたりぬ | 清 水 さき江 |
| 紅の落葉を結球に巻きこみて白菜日ごとにそだちゆくなり | 古 屋 順 子 |
| 晩酌に障ると口にしなかったカレー今夜も食していたり | 内 藤 勝 人 |
| 秋の日の学園祭のきらきらのネイルアートに指を差し出す | 久保寺 弘 子 |
| あっさりと「今日はおっぱい縫ったよ」学生医師(スチューデントドクター)の医帥(ドクター)の顔 | 海 瀬 く み |
| 間延びしたままの歌稿をポケットに歩いて一分投函に行く | 杉 田 礼 子 |
| 大根の九十キロを洗い上ぐ小室の柚子がもう届くころ | 岡 ゆ り 江 |
| 真昼間の風にあおられワラを燃す煙がわれの車体呑みこむ | 中 澤 晃 子 |
| どこまでも秋空に浮く飛行機雲ゆっくりほぐす毛糸のように | 永 田 はるみ |
| 蔦の湯の源泉温くほっこりと乳酸というがとけ出すような | 佐 藤 幸 子 |
| 右ひだり揺れながら来るランドセル秋の夕日に追いかけられて | 角 野 成 子 |
| 八ヶ岳富士を左右に仰ぎみて自転車仲間ともみじの道を | 浅 利 尚 男 |
2015年12月号(vol.33 NO.305) 中沢玉恵 選
| みずからを朝の冷気にみがきいて花水木の実鳥を待つらし | 岡 な な を |
| 九・一一テロにそびれしパスポート開かぬままに終活に入る | 依 田 邦 恵 |
| ノーベル賞のよろこび皆で頒とうと防災無線に市長の声す | 山 本 栄 子 |
| 青年が入れ替え終えて出でゆけり無糖コーヒーホットとなりて | 山 本 初 子 |
| 「主婦なんてよくやってるね」と言われきて今宵のカレーすこーし辛い | 中 山 恵 理 |
| カタカナの葡萄と並び変わらない甲州ぶどうのあわき紫 | 飯 島 公 子 |
| じわじわと奥歯の痛み増してくる見なけりゃよかった国会中継 | 三 沢 秀 敏 |
| ようやくに葡萄のとり入れ終わりたり初冠雪の富士撮りにゆく | 鈴 木 源 |
| 薄闇をうけいれしころゆびさきは高野聖を書棚にさがす | 佐 藤 利枝子 |
| こらしょっと畑いっぱいの蔓引けばハロウインに行く顔がぞろぞろ | 丸 山 恒 雄 |
| 収穫を了えるまではとこの朝もウエーブのびし髪にブラシす | 久保寺 弘 子 |
| 大室山のリフトに二人秋風は光を連れて追い越してゆく | 坂 本 芳 子 |
| ちゃぼひばをぐんぐん刈ってゆく夫脚立の高さはそこまでですよ | 古 屋 あけみ |
| 掘れば埋め掘れば埋めたる狐の巣檜林に今日も枝打つ | 清 水 則 雄 |
| 手に取れば爆発しそうな黒いナス今出来ることを考えてみる | 卜 部 慶 子 |
| この二年屋根より高き雑草にわがお隣は覆われている | 山 下 愛 子 |
| 刈田にはキャタピラの跡くきやかに幾何学模様ナスカの文字か | 杉 山 修 二 |
| まだ青きどんぐり落ちてくる音が聞こえるような早朝ウォーク | 田 丸 千 春 |
| ヘアカットするもされるも無精ひげ店の主は教え子夫婦 | 田 村 悟 |
| 青年僧般若心経の息つぎにわれの唱和がときどきずれる | 佐 藤 幸 子 |
2015年11月号(VOL.33 NO.304) 中沢玉恵 選
| 一房ごと紙の舟へと包み込むシャインマスカット旅立つ朝 | 坂 本 芳 子 |
| 雨音に消されなからに聞こえくる演習場の大砲の音 | 小佐野 真喜子 |
| 参道の小石を拾って下さいと触れる人あり 横綱のため | 山 本 栄 子 |
| 身はすでにかたちなくして数本の緑の芽をば伸ばしつづける | 中 村 道 子 |
| 眼には蚊を耳には蟬を住まわせて今年の猛暑ようやく越えぬ | 堀 内 竹 子 |
| お施餓鬼の太鼓に風の少しある一拍休みのリズムにのりて | 依 田 邦 恵 |
| 痩せていく母の姿を犬が見る散歩に出よう明るいうちに | 米 山 和 明 |
| 右手には内緒にしていることだけど箸はやっぱり左手がいい | 深 潭 靖 子 |
| ジベレリンの効果はなくて三千のデラウェフの房落としたり | 赤 岡 奈 苗 |
| バーベキューの匂いを含む夕風が生れしばかりの稲穂をゆらす | 清 水 さき江 |
| 両の手に刃先を包み研ぎてゆく明日は千のぶどう切り込む | 久保寺 弘 子 |
もうとうに開通したはずカーナビは頑固者だよ 曲がれまがれと
| 内 藤 勝 人 |
| プレミアム券利用の客のぐっと減りサルビアの花朱を濃くする | 内 田 文 惠 |
| 浴室にもあんと湯気を閉じ込めて息子出でゆくクラス会へと | 望 月 迪 子 |
| きゃっきゃっと乳呑み児あやす二歳なり二人に分かる二人の世界 | 中 西 静 子 |
| 一段ずつ脚立を登りこの秋の見えないものが見える新鮮 | 望 月 嘉 代 |
| 小高駅に通学自転車並びいる強制避難その日のままに | 田 丸 千 舂 |
| 兄弟の七十過ぎが六人の兄弟船でギネスをねらう | 浅 利 尚 男 |
| 忙しくお盆を送り雨の日の今日恵まれし一人の時間 | 渡 辺 なつき |
| マスターのトランペットがとつぜんにわが誕生日祝ってくれる | 佐 藤 幸 子 |
2015年10月号(VOL.33 NO.303) 中沢玉恵 選
| 桃太郎花ぶるいして実となれず緑ふかぶかトマトの畑 | 古 屋 順 子 |
| 適切にエア・コン使えと有線放送が青き稲田を戦がせながら | 大久保 輝 子 |
| 合唱の声はいっぽんに透き通り「キリエ・エレイソン」天上までも | 山 口 明 美 |
| 朝一番のゴンドラ清しうすらかに海霧まとう女らをのせ | 藤 原 伊沙緒 |
| 捨てられるものいくつある日盛りをすぎて芝生は息ふきかえす | 岡 ななを |
| 満ちゆける海をふるふる泣かしつつ沈む陽キザな男のように | 中 山 恵 理 |
| 八人が耳を澄ませるスマホよりモリアオガエル鳴き始むなり | 浅 川 春 子 |
| 日盛りにまだらな蝶の舞いており時折ふれるセージが香る | 橘 田 行 子 |
| 身の丈をこえし頑張りおもいつつ炭火の炬燵はほこほこおこす | 藤 原 昭 夫 |
| 言いたいこと半分くらいは呑み込める缶ビールの蓋カチリとあけて | 坂 本 芳 子 |
| 勢いのいちばん高いジャグジーを確かめてから仰向けに寝る | 丸 山 恒 雄 |
朝まだき堅樋を登る蟷螂のけんめいの脚空を蹴りいる
| 加々美 薫 |
| 太陽をポケットにしまい吾は行く老々介護の家庭訪問 | 丸 茂 佐貴子 |
| ほどほどに放っておいた栗南瓜東京帰りの娘に食わす | 海 瀬 く み |
| カラフルな五本すべての色違えネイルアートの指がレジ打つ | 佐 藤 ゆ う |
| アスファルトを避けつつ歩くドゥードルは風を探して空を見上げる | 笠 井 芳 美 |
| 八十歳にして初めての観覧車彼につきあうおみな三人 | 田 澤 きよ子 |
| リハビリをはじめし頃の朝顔が窓辺に伸びて青々と咲く | 角 野 成 子 |
| 蚊取線香の煙の中に夜がふける段々重い読みかけの本 | 依 田 郁 子 |
| 初孫の湊太は港 猛暑日の老老介護に笑顔を集む | 田 村 悟 |
2015年9月号(VOL.33 NO.302) 中沢玉恵 選
| 沖縄戦に逝きたる若き兄のこと、最後に何を食べたのだろう | 石 川 輝 子 |
| 日がのぼる前のひととき山小屋の屋根に木の葉の降るおとを聴く | 小 林 あさこ |
| アスターの根付きたしかな朝の雨割りし玉子は黄身ふたつなり | 伊 藤 春 江 |
| あるかなしかの風はわが肩ふれてゆくしずかに寄りてくるもの怖し | 岡 ななを |
| 大小の爪切りがあり連合いの爪の硬さをわれは知らざり | 飯 島 公 子 |
| ボリュームをレベルの4に引き上げて郭公鳴きつぐ桃畑のうえ | 三 沢 秀 敏 |
| 棒立ちの脚を養い選果所にマンボステップふむ昼休み | 浅 川 春 子 |
| 雨の中を傘も持たずに歩きたい病院ぐらし長くしあれば | 田 中 治 江 |
| 紙袋つぎつぎとはぐ桃の実がほの青白き産毛を散らす | 坂 本 芳 子 |
| 夏空をしたがえて咲く向日葵のまっすぐな影あしもとに落つ | 佐 藤 利枝子 |
| 老いて住む門に真昼の灯をともし凌霄花のシャンデリア垂る | 前 田 絹 子 |
| 房なりの胡桃が雨に光りいる子のプロポーズ受け入れられて | 清 水 さき江 |
| 三時に起き桃の畑に行くというあの人に送るカルピスの昧 | 内 藤 のりみ |
| 蔓一本切ると葡萄のすき間から朝の風が流れくるなり | 砂 原 よし子 |
| 道端に蛇くろぐろと乾きおりわが難病はいつまでのこと | 武 藤 睦 子 |
| 友だちの弁当もらうのダメだって「アレルギー事故防ぐためです」 | 中 澤 晃 子 |
| たわいなき会話を終えて病状を知らざる兄の一人部屋去る | 平 本 巳奈子 |
| 車庫に一つ庭に一つと椅子を置く足の不自由な夫の居場所 | 田 澤 きよ子 |
| ジグザグに日陰をひろうウォーキングほたるぶくろの咲く道をゆく | 浅 川 清 |
| あの時と同じ空気と戦争を知る年代が危ぶむ政治 | 田 丸 千 春 |
2015年8月号(VOL.33 NO.301) 中沢玉恵 選
| 大いなる影にわが家を呑み込みてハングライダーゆうゆうとすぐ | 岡 な な を |
| チャイニーズの高き口調が飛び交いてリンゴ三個が買われゆく昼 | 内 田 文 惠 |
| カタカナの抑留死亡者名簿5ページを声に出し読むまだ半ページ | 竹 内 輝 |
| 鳶ならず鴉にあらず蒼穹をドローンらしきが近づきて来る | 堀 内 竹 子 |
| たかたかとたけのこザックに二本挿し兵士のような女らが行く | 藤 原 伊沙緒 |
| 木蓮の若葉ゆれいる縁側に今日四度目の目薬をさす | 橘 田 行 子 |
| 摘みたての新茶の旨み日曜の朝の腰椎5番に沁みる | 中 山 恵 理 |
| 里山もそれぞれ個性がありましてこんもりきりりふっくらぺしゃん | 川 井 洋 二 |
| 運転手はバスのドアから逃がしやる我と一緒に乗りたる蝶を | 曽 根 寿 子 |
| いっしんに背伸びしており朝顔の幼い蔓の先にある夏 | 佐 藤 利枝子 |
| 命令形を愛と思いし日もありぬ燕のさえずり今日は安らか | 清 水 さき江 |
今朝もまたちょっくら見てくれ携帯に妻を亡くした健さんが呼ぶ
| 古 屋 順 子 |
| 初ものが蓑で持ち込まれる里ぐらし今日は竹の子土を抱いて | 渡 辺 健 |
| 「どこかでね気にしながら放っとくの」蘭を咲かせるコツを聞かれて | 桜 井 憲 子 |
| むかし話の鬼は金棒持っていたあばれてほしい日本の力士 | 内 藤 のりみ |
| 土手沿いに旗ふるようなキンポウゲがんばれ私がんばれるから | 勝 村 真寿実 |
| みんなみの高い方よりひびきくる一年ぶりのほととぎすの声 | 小 林 ケサエ |
| 気の遠くなる程の粒摘果するエベレストだって一歩一歩だ | 広 瀬 久 夫 |
| はるみちゃん蛙の声はいいものねぽっつりと言う一人居の叔母 | 永 田 はるみ |
| 見せたいと言われた景色空までもつづく並木は落葉松の道 | 田 丸 千 春 |
2015年7月号(VOL.33 NO.300) 中沢玉恵 選
| それぞれに思いはありて帰りゆく公民館の固き座布団 | 岡 ななを |
| もう夫は特養ホームにも居ないうつぎの花の白すぎる白 | 小田切ゆみゑ |
| 運転士にあやまりながら降りて来ぬ一人占めして甲府駅なり | 中 村 道 子 |
| クライミングの力ある声故郷の鋏岩より風にのりくる | 山 本 初 子 |
| お返しに三日月ひとつ送信すLINEの中の織姫さんに | 米 山 和 明 |
| しだれ梅の紅の花びら散る庭を振り返り見てまた入院す | 田 中 治 江 |
| 月食が見える見えぬも運次第ノンアルコール飲んで待ちます | 三 沢 英 敏 |
| 今日ひと日晴れの予報に交配の毛ばたき跳ねる昏くなるまで | 石 原 久 子 |
| 菜園の頭上とびゆく五位鷺はごあっと一喝われに浴びせて | 久保寺 弘 子 |
| あさ風にオールドローズ香り立ちくちびるにおくピンクのグロス | 佐 藤 利枝子 |
| わが村に張り巡らさる電気柵この朝鹿の領域に入る | 清 水 さき江 |
| 知る限りのことばを全て披露する売られゆくこと鸚鵡は知らず | 加々美 薫 |
| 裸眼でははっきり見えぬ運命線この夜記憶は皮膚呼吸する | 内 藤 のりみ |
| 100メートル桐生が十秒切ったというそんな追風に吹かれてみたい | 海 瀬 く み |
| 城跡の昼の空気に交じり合う竹刀の音と気合の声と | 佐 藤 ゆ う |
| あごひいて少し歩幅を広げればシャツふくらますさみどりの風 | 勝 村 真寿実 |
| 玄関の横に置かれた椅子ひとつ施設のバスを待つ母の椅子 | 依 田 郁 子 |
| 待ち侘びし親族総勢二〇人笑い声にて鳩がとびたつ | 三 枝 幸 子 |
| この林ヘッセの匂いがするという君の心のゆたかなるかな | 浅 利 尚 男 |
| アマリリス真紅の大輪咲きそろい吾ら「七十路貯金会」なり | 渡 辺 なつき |
2015年6月号(VOL.33 NO.299) 中沢玉恵 選
| 富士山に二ヶ月早く飛来せる農鳥日本に何をもたらす | 田 村 悟 |
| 桜ふる真昼の道を一本の綱に曳かれて園児らがくる | 山 田 杞 子 |
| 富士に対きメガソーラーの基礎は立つさながら墓の群れのごとくに | 山 本 栄 子 |
| はばたいてとんび飛びいる三月の光に羽を洗いいるらし | 長 坂 あさ子 |
| 脱輪は左のうしろ花冷えの風に吹かれてJAFを待ちいる | 小 林 あさこ |
| どこに居ても二時には夫が帰り来る「黄門さま」のドラマ見んとて | 曽 根 寿 子 |
| 鉱泉を通すパイプの掃除するズボンに白い湯の花つけて | 藤 原 昭 夫 |
| 霜害をまぬかれたりし白蓮の白鳥のごと夜目に明るし | 橘 田 行 子 |
| 樟は赤いテープの帯まかれ散歩コースのわが道祖神 | 室 伏 卿 子 |
| きつく巻きぱっと放したゼンマイの玩具のように千鳥行き来す | 前 田 絹 子 |
| ミルフィーユかさねしパイはさっくりと砕けてしまう決意とともに | 佐 藤 利枝子 |
| JAの倉庫の隅までびっしりと肥料袋が積まれいる春 | 清 水 さき江 |
| 左手で名前を書けばはつかにも怒りらしきの薄らぎゆけり | 日 向 このえ |
| 静寂にかすかな重み感じおりヘリコプターの去りし図書室 | 望 月 迪 子 |
| この朝も息子が飲んで出掛けます夫に供えたホットミルクは | 中 西 静子 |
| 急行を先に走らせのんびりと各駅電車は花分けてゆく | 宮 内 春 枝 |
| みっしりと仏の座咲く梅畑に回転上げて除草機を繰る | 砂 原 よし子 |
| 「じゃがいも花見の季にうえなさい」桜を見れば母を思い出す | 横 内 進 |
| <県内の放射線量異常なし>小さな記事が必要な国 | 田 丸 千 春 |
| アルプスを総嘗めにするからっ風日本平に吹雪を飛ばす | 広 瀬 久 夫 |