上野久雄創刊

今月の二十選


2018年5月号(VOL.36)NO.333 中沢玉恵 選

一つずつ手抜きをすれば限がない今朝まな板を使わなかった石 川 輝 子
正論をかざして隙間なき姉がいまぼろぼろとこぼし飯食む小田切 ゆみゑ
われの住む旧八田村本通りネパール食堂明日開店す浅 川 春 子
一人減り二人減りして三人の力に百キロの味噌が仕上がる沢 登 洋 子
わが村の芭蕉まつりの近づきて園児の太鼓森に響けよ橘 田 行 子
境内の杉の木立の木洩れ日に幼き吾の影を踏みゆく渡 辺 淑 子
すみずみに木の香の残る道の駅西山さんの花豆を買う佐 藤 利枝子
その朝のブーツの中のうすやみに足差し込めば柔く噛みつく深 澤 靖 子
しもばしら残した庭のでこぼこに黄色の花がいちはやく咲く中 澤 晃 子
それとなく防犯カメラが吾に向く校門ぎわの紅梅撮れば内 藤 勝 人
買い来たる漬物を出す香りよき母のぬか床も失せて久しく前 田 絹 子
雪の夜の工事現場に男等はひときわ大き声をはり上ぐ古 屋 あけみ
萌えいでし小松菜まびく長靴に赤土おもくからみつきたり角 野 成 子
五人囃子を恐がりて首をさしかえし子も三人の父となりたり内 田 文 恵
雨上がりの天に高々と鍬を上ぐホカホカ温む菜園の土 秋 山 眞 澄
たびら雪速度ゆるめてベランダにそっと置かれぬ形崩さず 長谷川 君 代
三月の畑の土を口に噛み今年の農の計画立てる横 内  進
願いごと今年こそはが一つ増え厄地蔵さんは春待つ祭り岡 田 喜代子
じゃんけんに負けて背負ったランドセル友だち二人脇で励ます依 田 郁 子
いにしえの火口の跡にどんぐりが落ちて次代を託されている 雨 宮 たつゑ

2018年4月号(VOL.36)NO.333 中沢玉恵 選

どんど焼終わらんとする灰の上に黒き目をしただるまが残る長 坂 あさ子
冬至よりひと月すぎた明るさにカリヨンが鳴るゆうやけこやけ小 林 あさこ
リヤカーで通った道も塞がって雪そのままに今日からの春石 川 輝 子
波の間の真黒な山瞬間に鯨となりて尾を振り上げる窪 田 喜久子
雪解けのトタンに落ちる滴音トーントトトトン ムーンリバーだ渡 辺 淑 子
雪かきをしない程度に降る雪は学生時代の恋に似ている 中 山 恵 理
くれないに二十日大根ふくらみぬ一坪ハウスの外は大雪古 屋 順 子
この道は我が家一軒日の丸が風受けている建国記念日曽 根 寿 子
来ないでのセリフを添えてプリントは夕べの卓にぱさり置かれる中 澤 晃 子
増富のにごり湯にのばす足先が触れあいそして始まる会話 望 月 迪 子
御坂嶺はあけぼの色に染められて国旗のごとく朝日がのぼる砂 原 よし子
竜電が十勝をした千秋楽子と飲むビール一本ふえる宮 内 春 枝
雪降れば背中の痛み消えるとう「中也」の詩あり雪中に立つ大久保 公 雄
わが町のふる里納税返礼品「幕地の清掃」ラジオに流るる秋 山 眞 澄
いくつもの傷にぬりゆくコロスキンこんな匂いの風船がある勝 村 真寿美
ぼやきいる客に負い目のあるごとく頭を下げる野菜の高値内 田 文 惠
一月のラグビーボールのような月学習塾の窓のぞきいる依 田 郁 子
若い友は黒戸尾根から甲斐駒へ登りましょうとかんたんに言う中 山 久美子
長女二女そして三女が現れてまるでロシアのマトリョーシカだ堀 内 澄 子
ボクサーのごとく闘うワイパーにこわばってゆく夫の横顔 福 田 君 江

2018年3月号(VOL.36)NO.332 中沢玉恵 選

今日煮よう明日にしようと黒豆のかわきし袋四日いすわる今 井 ひろ子
弥彦神社に土俵入り見し日のありぬ断髪式もなく日馬富士山 本 栄 子
朝まだきベッドの端に座りいて紙のオムツに尿を出しぬ小 島 正のり
早よ嫁をとれとて囲む団欒の温(あった)か鍋のやがてぐじゃぐじゃ斎 藤 皓 一
ドラム缶の薪燃え出しまずはまず元旦祭の区長の挨拶川 井 洋 二
百歳を越えし十人の共通語「あっというま」の答え楽しも堀 内 久 子
明日(あした)来る孫等のために気合入れ金時いもの裏ごしをする長谷部 静 子
ゼラニュームの緑の新芽かがやけり辞表出したる睦月のなかば米 山 和 明
小気味よく抜けゆくコルクふたありのXマスイブのグラスを並べ久保寺 弘 子
あめ色の縦皺深め百目柿どれみふぁそらし五百が並ぶ砂 原 よし子
しんねりと髪拭いつつ湯上りの娘(こ)は缶ビール立ち飲みをする加々美   薫
テーブルの正月飾りの小さくもダリ美容室に昭和がはずむ内 藤 のりみ
しゃきしゃきとニキロの柚子を刻みたり銀光りする菜切包丁秋 山 眞 澄
穀き去りにされし包丁しっとりと霜をかむりて畑中にあり田 澤 きよ子
閉店のスーパーやまとの駐車場に八ヶ岳颪の渦巻きあがる佐 藤 幸 子
広辞苑第七版に先ずはひく不可逆性とう歌の一語を青 柳 順 子
誓約は「まごころこめてこわします」総合解体株式会社 浅 川   清
テレビ台に写真の孫は笑いおりミサイル発射の画面を消しぬ福 田 君 江
十二人、六人となり三人に戻ってしまう正月三日田 村   悟
切り餅がふくらむように息こごり浮かんで消えるおはようの声 永 田 はるみ

2018年2月号(VOL.36)NO.331 中沢玉恵 選

里山がふっと吐き出す満月が峡の一郷ひとしく照らす渡 辺 淑 子
いくつもの御守り袋をさゆらせて手提げバッグはわれを追い抜く斎 藤 皓 一
縁石に乗り上げよなんて課題受け高齢講習ハンドルぬれる浅 川 春 子
この家より皆居なくなり古炬燵の脚つかまえてテレビ見ている小田切 ゆみゑ
ちんすこう雪塩味とて卓におく少女はこの春高校を終う藤 原 伊沙緒
一時間たてば授産園より子が帰るりんごの皮をむいておこうよ曽 根 寿 子
療法士に支えられつつ散歩する平等川まで今日は行きたし橘 田 行 子
ベランダのころ柿ひとつつまみ食い洗濯物を干す今朝のこと中 山 恵 理
空まわりして溜まりゆくエネルギー男の子の頬やおでこに湧いて 中 澤 晃 子
潰された、立たないなどと騒ぎいる男は柔き顔を持つらし前 田 絹 子
落葉語は知らないけれど散歩道はらりはらりと語りかけくる日 向 このえ
大根を一本拔いては空を見る老人のいる段々畑坂 本 芳 子
揺れいるは茅か芒か川べりの白穂のひかり冬が来ている廿 利 和 子
隈取に似て雪被く北の山亡父は吉右衛門が大好きだった青 柳 順 子
水たまりが大好きな君なが靴をバシャバシャさせて景色をこわす佐 藤 幸 子
いつになく濁る湖面に鴨が五羽こ波をえがき岸を離れゆく飯 島 今 子
修行僧の鼻緒の白に海からの光まぶしく稲村ヶ崎 福 田 君 江
帰りゆきし息子の部屋に三組のパジャマ清しく畳みてありき西 村 鈴 子
ヘッドライトの光芒のなか生真面目な横顔見せて鼬が過る浅 川  清
家ごとに軒に積まれし薪束ここ清里の一冬分の 永 田 はるみ

2018年1月号(VOL.36)NO.330 中沢玉恵 選

水底にしずかな時間置きしままいつしか姿を消したザリガニ斎 藤 皓 一
相槌を打たれることも打つこともなくて夜長の二人の時間今 井 ひろ子
夕餉には長の娘が来る「お帰りなさい」今日始めての声を出したり堀 内 竹 子
「一度とて棄権はない」とわれも言い台風の中選挙へ急ぐ小田切 ゆみゑ
まだ人のまばらな会場蔵出しの新酒が舌にピリリと辛い渡 辺 淑 子
取り敢えず新市長が選ばれて普通の街にもどる霜月川 井 洋 二
昨夜の雨あがりし今朝の陽の温し吾が腕ほどの大根あらう堀 内 久 子
亡き夫は左ききなり長葱をリズムをとりて刻みいたりき江 口 喜美子
安定剤一粒ふやしこの夜の犬を眠らす我より先に坂 本 芳 子
手の平で頭を覆いミサイルを防ぐ訓練トホホホ、ホホホ久保寺 弘 子
光りつつ盆地の底を秋となすポーカーフェースのぎんなんの実は内 藤 のりみ
ひと抱えのコスモス胸に渡されて一瞬そらが消えてしまった 砂 原 よし子
さわさわとセイタカアワダチソウゆれて少し猫背の母を隠せり勝 村 真寿美
十月の山日新聞短歌欄画数少なき吾が名を探す広 瀬 久 夫
年金の次の支給日たしかめる猫寝そべりて背をのばしおり大久保 公 雄
台風はのらーりくらーり模擬店の食材を手に我は黙せり内 田 文 惠
私をおばちゃんセンセイお姉さんおいと呼ぶ人もいるこの職場 中 山 久美子
白菜に厩肥敷き込む長男の馴れない鍬を黙し見守る浅 利 尚 男
なるかみの太鼓の音のとどろきて泣き相撲にや境内ゆする浅 川  清
あみだくじのような小路の吾の家の奥に実りの田圃ひろがる岡 田 喜代子

2017年12月号(Vol.35)NO.329 中沢玉恵 選

この年の福祉まつりにバザーなく食糧支援のレトルトカレー山 本 栄 子
屋根を越す木も倒されて更地なり今日より風の近道となる長 坂 あさ子
誰かきて外せしわれの腕時計、であるはずもなし枕辺にあり斎 藤 晧 一
ロボットなる野口英世と対話してこのたかぶりにしばしつかりぬ山 本 初 子
ワンテンポ遅れて灯るLED優等生も遅刻するんだ中 山 恵 理
「売地」なる札の抜かれて角の田にソーラーパネル秋日を弾く浅 川 春 子
街路樹の銀杏いろづくさあ今日はミレーに会わんなにを着ようか藤 原 昭 夫
もういいかい昔むかしのかくれんぼ大きあんずの木陰にかくれ田 中 治 江
電気柵の間に張られし蜘蛛の巣に丸まっている楓の黄の葉清 水 さき江
シベリアで損した分は生きねえと志郎享年九十二歳中 澤 晃 子
もう少しもう少しその口元に届かぬ銀色(ぎん)の匙を見つむる古 屋 順 子
葉の落ちて欅大樹か太股にあらわにのびる青き静脈 内 藤 勝 人
さみどりのカーテン揺れる日曜日大きくふくれ風包み込む保 坂 謹 也
胸椎装具きっちりとつける秋の夜はうつうつつまらぬ夢ばかりみる内 田 文 恵
人ならば九十六歳の愛犬が九十四歳のわが前をゆく清 水 則 雄
百歳の伯母の囗ぐせ「胃袋も皺だらけだよ」元気に笑う卜 部 慶 子
来月を約し別れし友なりき十日後葬儀の列に並べり 青 柳 順 子
囗癖は「学んだことは取られない」父の遺品に六法全書西 村 鈴 子
端っこが落ちつく吾の誕生会主役の席は「真ん中真ん中」佐 藤 幸 子
わいわいと競いて伸びし大根を一気に間引くわが無情の手秋 山 久美子

2017年11月号(Vol.35)NO.328 中沢玉恵 選

「ベルデ」は森の小さな雑貨店白い木綿の靴下を買う山 囗 明 美
ようやくに初花つけしヘブンリーブルーあなたの為という選択肢山 本 栄 子
点滴の一時間ほど夢をみるかも知れぬのでめがねそのまま石 川 輝 子
ぼくんちになぜエンガワがないのかとふたりで掛ける秋の縁側斎 藤 晧 一
上野久雄(せんせい)の「玉子は滋養」 独り居の夫の膳にもふたつを載せる佐 田 美佐子
咲き終えしきすげ刈らんと踏み入れば縄張りとばかり蜂襲いくる渡 辺 淑 子
耳寄せて夏の音符を拾ってる木洩れ日のした水琴窟に 深 澤 靖 子
笑いながら今夜はここに寝なよとて孫の匂と本に囲まる 長谷部 静 子
ウッドデッキの柵がスタート「さあ行くよ」流し素麺わがおもてなし中 澤 晃 子
蝉のとよみ盛りなるときわれを呼ぶ痒いところに手の届かぬと久保寺 弘 子
無花果の熟実に鳥の穿ちたる穴あり穴にも陽がさしており加々美   薫
先頭もしんがりももうわからない朝の草原トンボがめぐる宮 内 春 枝
黙々と大地にしみて雨粒は巨峰の房を漆黒にせり保 坂 謹 也
擬宝珠はボウリングのピンに似たる花ストライクの音思い出させる広 瀬 久 夫
老いてなお学べば枯れることなしと清水房雄の「残余小吟」 清 水 則 雄
在りし日の吾が職場跡コンビニとなりて初秋のお茶を購う望 月 壽 代
ライナーにとびつく縞のユニフォーム泥にかくれた背番号6 依 田 郁 子
手と足の先の先まで伸ばしきり夏の畳に大の字になる 岡 田 喜代子
遠くより稲刈りの音聞こえ来る山梨の秋午後の一刻横 内   進
物干しに子らのTシャツはためきいし一家は消えて雑草の波西 村 鈴 子

2017年10月号(Vol.35)NO.327 中沢玉恵 選

背の籠にあかき花房ゆさゆさと山坂道を墓所へ墓しょへと窪 田 喜久子
風に揺るるラベンダー畑にみつ蜂があまた遊べり母も遊ぶや山 囗 明 美
昇仙峡のバスに増えくる登山帽夏がぐんぐん通り過ぎてく山 本 初 子
ひとつだに思い出せない親孝行里の川面を花ねむおおう藤 原 伊沙緒
電線に横一列の小燕がわれの小用見おろしている 三 沢 秀 敏
吾が植えし櫟林に野狐が一声上げる霧のあしたを藤 原 昭 夫
混みあいし山手線に若者のショルダーバッグに小犬がすわる赤 岡 奈 苗
この度の長寿台風気になりて一宮水蜜落ちた夢みる鈴 木   源
隣の畑は日本放送一晩中山の獣に鳴らしつづくる坂 本 芳 子
体温を持たぬことばが選ばれて三者懇談おわりとなりぬ中 澤 晃 子
さあ今朝はなんと起こそう百五歳の日野原翁のことを話さん古 屋 順 子
わたくしとメダカ友なるおんな孫たまごか糞か電話かけくる清 水 さき江
はさみ手に封筒開けてゆく夜のテーブルに落つ一ミリほどが保 坂 謹 也
スマホより般若心経流れくる息子の演出鎮魂の歌長谷川 君 代
子育ての頃の張り合いよみがえり炎暑の庭に水撒きをする甘 利 和 子
おすそ分けの桃やぶどうをこの朝は会社の同僚におすそわけする杉 山 修 二
サクサクとルバーブきざむ包丁のリズムほがらに梅雨明けとなる佐 藤 幸 子
腹腔鏡の手術を終えて娘は眠る酸素マスクを少しくもらせ堀 内 澄 子
問一に「天壌無窮」と書かせたり敗れし年の中学入試浅 利 尚 男
父親の生年月日問うメール息子よ他に何か聞くべし福 田 君 江

2017年9月号(Vol.35)NO.326 中沢玉恵 選

あぜ草を刈りゆく鎌を逃れゆくすずめ立(たち)っ子草むら深し斎 藤 晧 一
宵祭りの花火の音を追うように降りはじめたる大粒の雨小 林 あさこ
いつしらに舗装されたるこの坂の物足りなさは疲れに変わる長 坂 あさ子
田植終え一段落よと雨のなか炊きたて「やこめ」ひょいと置きゆく藤 原 伊沙緒
えさ台をこぼれ落ちたる種ならんひまわりの花一つ咲き初む 小佐野 真喜子
猫の腹借りて指先あたためる梅雨ざむつづく夕暮れのこと三 沢 秀 敏
下校する生徒の数の少なくて三三五五というも淋しい曽 根 寿 子
LINEから届く画面は「ヤッホッホ」夏休みの歌ふたりでうたう川 井 洋 二
一つずつ熟れたる順に落ちてゆく桃梅(ゆすらうめ)はも盛夏に向かう丸 山 恒 雄
もう待てん驟雨のなかを小走りにゲラ刷り(ゲラ)はかかげる訳にはゆかぬ内 藤 勝 人
蛙の声とおくなる夜半少年はスマートフォンをいじりつづける加々美  薫
声の出ぬ猫と牛乳分け合いて夜明け始まる父の一日笠 井 芳 美
オペレーターの茶髪がひかりクレーンの先端ぐーんと空に伸びゆく保 坂 謹 也
愚直だと言われし人の散歩道予報どおりの雨に濡れおり 大久保 公 雄
朝のラジオは笛吹市からの便りなりはね桃を売る一個百円長谷川 君 代
ライターの火を噴く音が聞こえてる素直な耳に今朝はもどりて飯 島 今 子
水張田の中より声を掛けくれる幼き面影のこる青年角 野 成 子
六月の庭にザザザと吹く風が落葉松毬果の雨を降らせる浅 川  清
狐火のように野道を来る灯り 女子高生か会釈していく青 柳 順 子
自販機の無料の水の一杯に食後のクスリー包を飲む岡 田 喜代子

2017年8月号(Vol.35)NO.325 中沢玉恵 選

ママありがとうのシール剥がしてスーパーに自分で買ったお鮨のパック石 川 輝 子
青空はあっけらかんと晴れ渡るカンチューハイの封を切りたし小田切 ゆみゑ
起き抜けに自信きざせば真水にて顔洗いたり今年初めて竹 内  輝
寡黙なるまま倒されて焉(おわ)る樹の切り株の辺(へ)に塩ふたつまみ斎 藤 皓 一
手のひらに指で単語をなぞるらし始発電車の向かいの少女 渡 辺 淑 子
満月をかげらす雲のなき夜は川生の草に沈む蛍火堀 内 久 子
雪解けの山を下りくる夕(よい)の風ひと声あげて松の林へ浅 川 春 子
青空に抜け道ありや強風は巨峰の房を揺さぶり続く赤 岡 奈 苗
満腹を感じることがないと言う母の湯呑みにつもりゆく渋清 水 さき江
ミサイルが狙い定めたこの国のトップニュースは小さきパンダ中 澤 晃 子
祖母(おおはは)が吹き出しと呼びし雲かかり八ヶ岳より風走り出す望 月 迪 子
ひと堰をすべて引かねば水張(の)らぬこの田端まで百と五十歩古 屋 順 子
摘蕾の吾と脚立は一体なり登って下りて下りて登って望 月 壽 代
経木でも麦わらでもない材料で作られている帽子百円 清 水 則 雄
庭に咲く花のどれもがあやふやでネットに探す「アルストロメリア」飯 島 今 子
六月の日射しが跳ねて河原のみどりの草に陽炎が見ゆ保 坂 謹 也
紅うつぎぽっと咲きいる山の墓地逢いたい人は皆ここにいる堀 内 和 美
遠足の園児らバスを降りて来ぬ最後の一段皆ジャンプして青 柳 順 子
はつ夏の空と水田に揺れる空二つの空のあわいを歩く田 丸 千 春
無責任植木等もたまげてる今の日本はスーダラ節よ田 村  悟

2017年7月号(Vol.35) NO.324 中沢玉恵 選

牛池の舂の水面揺れやまず誰かが嘘をついております山 口 明 美

ははそはの残してくれし大角豆なり春の祭りの赤飯を炊く山 本 栄 子
片手鍋に何でも入れてサッと煮る丼ひとつわたしの夕餉 窪 田 喜久子
ビオフェルミン高いと妻が叫ぶなり音をさせずに三粒を飲む小 島 正のり
木葉木莵五月の朝の小さき声われを見舞いて鳴いているのか田 中 治 江
購いしヴァンフォーレ甲府のステッカー何処へ貼ったら勝つのだろうか米 山 和 明
椎茸の太き榾木の天地かえあさの林に懸巣がさわぐ藤 原 昭 夫
ねえ風がつめたくなったと言いたくてひとあしぶんの距離をつめおり佐 藤 利枝子
駆け抜けた青ランドセル向きをかう信号待ちの仲間をまって中 澤 晃 子
楽しみが一つ減ったと誰か言う老人会の帰りのバスに清 水 さき江
春深む夕べ陶器の触れ合えばシナプスというがほぐれゆくらし加々美  薫
ノルディックの杖を受け止む仏の座紫色は分別がある佐 藤 ゆ う
タンポポが道を狭めて咲いているコンビニまでをゆっくり歩く飯 島 今 子
いつの間に夕暮れの雨六月のどこかの隅に忘れて来たり 保 坂 謹 也
四十日過ぎてわたしのモロコシは刀のような葉を伸ばしいる小 林 ケサエ
道草も知らないだろう山間のスクールバスは定刻に来る  岡  ゆり江
炊き立てのご飯にまぶす手作りのおかか山椒ぴりりと五月浅 川  清
「ミサイルがとんでくるから中にいる」ゲームしながら男の子は言いぬ 堀 内 和 美
重ねおく植木の鉢は雨ざらし今日隣屋は売りに出される岡 田 喜代子
風そよぐ木立の中を抜けてゆく二両電車は温泉駅へ鈴 木 憲 仁

2017年6月号(Vol.35) N0.323 中沢玉恵 選

葉ざくらの樹下の地べた「かあさあん」と叫ぶにあらん急ぐ毛虫は斎 藤 皓 一

真っ直ぐに己と闘う稀勢の里われはレタスをちぎりつつ泣く小田切 ゆみゑ
ふじりんごにキウィを入れて口を閉ず彼の国またもミサイル発射 藤 原 伊沙緒

花の下に大岡信はもういない多くの言葉を持ちゆきしまま長 坂 あさ子
早口に桜をほめる母のいて相槌さえも追い越してゆく佐 藤 利枝子
里駒村に一一〇人の同級生産めよ増やせよの時代のありて鈴 木  源
シャッターの降りた店からこの朝は日の丸一本突き出されいる川 井 洋 二
バルボッサに良く似た男がダンボール回収に来て煙草の匂いす米 山 和 明
朝の日にプリズムのごときらめきてぶどう樹液のつららが下がる砂 原 よし子
草も木も一途なる季吹く風に若き日のごと身をたわませて加々美  薫
南さんの開花予想は春がすみことしなごりの雪ふかくして古 屋 順 子
風密度太陽光線ばんぜんとわが家ことしもつばめのお宿内 藤 のりみ
冬枯れのままのススキが光ってる鴨の泳ぎが合間にみえて飯 島 今 子
根元のみ鶇の残したほうれん草春の日差しにすっくりと立つ 望 月 壽 代
五十年を勤めし夫はこの朝をわれに手を振り出かけてゆきぬ秋 山 眞 澄
五センチのズボンの綻び繕いぬ初めて持ちし針というもの清 水 則 雄
じぐざぐに息をととのえ登る坂空に近づくちちははの墓所岡 田 喜代子
月光を掬うがごとく差しのべる両の手という脆い器を  樋  耕 一
着なかった子の制服のスカートのチェックのひだにアイロン当てる西 村 鈴 子
小名浜の海岸通り走る日がまた来るなんて〈復興マラソン〉中 山 久美子

2017年5月号(Vol.35 No.322) 中沢玉恵 選

運転は今日限りです誰もいぬ真っすぐな道とばしてみたい長 坂 あさ子
点火せし野火は走りて川原の雪解け水も走り出したり山 囗 明 美
「鬼は外」は言わぬ慣いの節分会尼寺の夜を明るめて更く山 本 栄 子
自販機は寒のもどりの雨に濡れわれにと落とすホット一本斎 藤 皓 一
日常につづく階段のぼりおり折りたたまれた半券を手に佐 藤 利枝子
殿原の向こうの山の薄けむり流れてわれのくしゃみ止まらず堀 内 久 子
置きざりにされたと思う真夜深くただひたすらにレース編みする渡 辺 淑 子
割り算の余りのようにはこべ咲き三月の庭綻び初める深 澤 靖 子
雪かきは砦づくりと相成って少年はどの乱世にいる中 澤 晃 子
今日からは嫁と二人で畑に出るまず軽トラのマニュアル教え坂 本 芳 子
中締めの後は盆ござ男らは小さく集いコップを上げる清 水 さき江
稀勢の里の初陣見んといっときを離れていれば吹きこぼれたり久保寺 弘 子
きっかけは誰かの咳でこの昼の市民ホールの空気がなごむ田 澤 きよ子
去年の春は蕗の薹入りコロッケを美味いうまいと食みし母はも 秋 山 眞 澄
この腕にリストバンドは巻かれおりユニフォームのごとパジャマ配らる長谷川 君 代
アイドリングのエンジン音が変わりたりラッパ水仙もうすぐ咲く甘 利 和 子
豆ランプ灯すが程にたんぽぽの一つ咲きおり真冬の野道青 柳 順 子
療養の友は南の地へ去りぬ8から始まる郵便番号 浅 川   清
陽炎に大小のかげ躍りつつしりとりの声角に消えたり福 田 君 江
座りたい椅子と座れる椅子がある座れる椅子でゆっくり生きる笠 井 文 次

2017年4月号(Vol.35 No.321) 中沢玉恵 選

白樺の細き木の根につまずきてヤマネの眠る森をさわがす藤 原 伊沙緒
胃ろうより解かれし叔母が眼をつむり白いむすびをゆっくりと食む山 囗 明 美
遅くまで起きてて電話したのにさ早口英語の留守電だった石 川 輝 子
その事にふれずふっくら黒豆を好物と言うその手にのせる山 本 初 子
前を行く人の手提げに山梨のワイン五本が陽に透けて見ゆ赤 岡 奈 苗
間の岳農鳥岳は雪まみれ果樹の村里見守りながら浅 川 春 子
朝より風すさびいる川沿いに両手大きく振りて友ゆく堀 内 久 子
朗読会このフレーズがさわりだと思ったとたん裏声となる川 井 洋 二
正月は許しましょうか女酒ふたりの孫のいい飲みっぷり古 屋 順 子
家ぬちに豆撒く声は弱くして鬼はそとそとそのうち慣れる砂 原 よし子
日米は何を語っているのでしょうトランプタワーの金色の壁内 藤 のりみ
鹿除けの垣の高さは原さんの鹿を憎めぬ迷いの高さ望 月 迪 子
寒波つづくわが店内の冷えしるく昨日の小松菜元気なみどり内 田 文 惠
埋め置きし牛蒡をさぐるスコップの刃を撥ねかえすこの朝の土 岡   ゆり江
がんがんと雪降り続くニュース消しチリのワインのふかき赤飲む保 坂 謹 也
軋みゆく私の中にもれる声見かけた背中を追いかけずいた勝 村 真寿美
あっミレー富士山を背に種を蒔く小柄な農夫にシャッターをきる田 丸 千 春
いつもより出口が遠いトンネルはUターン禁止進むしかない 堀 内 和 美
九十年大黒柱の欅なり上がり框にいまよみがえる浅 利 尚 男
時経てもまだ言い足りぬありがとうあの日と同じ風すさびおり秋 山 久美子

2017年3月号(Vol.35 No.320) 中沢玉恵 選

ホールまでの鈴かけの道まだ音とならぬ落葉を踏みながら行く山 口 明 美
俺なんか毎日独居老人だボランティアから戻れば夫が山 本 栄 子
はがしゆくキャベツに淡き色をして二つの虫が向きあいている今 井 ひろ子
柚の照る木下に竿をふりまわす少し若やぐ秋の夫は藤 原 伊沙緒
ひとつ傘に肩を濡らして歩きたるあの日と違う道を行くなり深 澤 靖 子
十二時の花火の音にめざめたり妙見山の冬至のまつり橘 田 行 子
カウンターの隅のバナナは知っているわれのひそかなキッチンドリンク中 山 恵 理
つややかな柿の実一つ山道に落として猿は逃げてゆきたり 石 原 久 子
朗々のわが少年はアスリートまずはからまつ林を抜けて中 澤 晃 子
この年の仕事仕舞に軽トラック二台を洗う夫に代りて坂 本 芳 子
樹にあれば交流できぬ木の葉たち紅黄茶色が落ちて交わる丸 山 恒 雄
アッツアッツと一人まるめる鏡餅年々小さくなってしまうが古 屋 順 子
どんど焼の火の粉を追いぬその先に北極星がくっきりと見ゆ岡   ゆり江
繰りかえし不安を不安がっている土鍋のふたがコトコトと鳴る新 藤 真 美
酉年は「私ファースト」すすめゆく終活計画練りはじめよう丸 茂 佐貴子
落ち込んで落ち込んでまた這い上がるじゃが芋の芽は出揃っている斉 藤 さよ子
早口に介護の日々を語る人じっと聞きいる雨の露天湯堀 内 和 美
リハビリに「できません」とは禁句なり汗がしたたり病衣をぬらす 西 村 鈴 子
駅伝の襷渡して倒れこむランナーのような国の公債浅 利 尚 男
山梨から六つの県を素通りしナビの教える母の病院中 山 久美子

2017年2月号(Vol.35 No.319) 中沢玉恵 選

お互いに視線をそらすこと多し子にゆかれたる友人ありて長 坂 あさ子
〈したことのすべてをオレは知ってるぜ〉蠅取グモは壁に動かず斎 藤 皓 一
この頃のこの淋しさは何だろう夫の下着もLからMに石 川 輝 子
さざんかの切り揃えられた庭奥に八方棘もつ柊が咲く窪 田 喜久子
ベランダに干す柿の実を眠らせぬ十六夜の空こんなに青く浅 川 春 子
団欒にペットのごとく割り込みぬリビング用に買いしパソコン中 山 恵 理
憂きことを断ち切るかのごと鳴沢菜漬け込む腕に力のこもる渡 辺 淑 子
膝痛は右に左に移動して十一月の雪は降るらし 赤 岡 奈 苗
冬の日に種とがらせてメナモミはにんげんの方へ傾きたがる清 水 さき江
縁が欠けその上文字も消えかかる我の一世の銀行印は内 藤 勝 人
十二月とまどうことの二つほどごみ出し〝プラ”と洗濯表示日 向 このえ
もめ亊の非のある方へ肩人れをしたし夕べは冷えた茶をのむ前 田 絹 子
北風が甲府盆地を吹き抜けてリニアのような一年が過ぐ保 坂 謹 也
六文銭の兜の前に立てという初めて妻がシヤッターを押す広 瀬 久 夫
病経し身となりたれば惑いいるまだまだ先の免許更新内 田 文 惠
飛騨の地の救急病院にはこばれて何のおもいかこみあげてくる大久保 公 雄
他人めく顔に吾が街しずもれり友を葬りて帰り来し夜を青 柳 順 子
リタイヤののちを楽しみ買いおきし本はいずれも小さき字なり 佐 藤 幸 子
白波が寄せては返す塩屋埼私の上を津波が越えた鈴 木 憲 仁
老人はかたえに歩行器置きながら銀杏落ち葉をはき寄せている永 田 はるみ

2017年1月号(Vol.35 No.318) 中沢玉恵 選

杉山を鳴らす風聴く境界を教えぬままに夫は逝きたり堀 内 竹 子
歯切れよく認知症だと告げる友病とうまくつきあうらしも今 井 ひろ子
涅槃へと導く太鼓の音ですと僧が打ちつぐロックのリズム山 口 明 美
幾百の家族の日々を見守りてマンション脇のけやきの紅葉内 田 小百合
二百余の吾が集落に嫁のくることし一番の明るきニュース  鈴 木   源
あの空へ飛び立ったっていいんだよオバマさんの折った折鶴深 澤 靖 子
わたしにもやれば出来ると高尾山の一〇八段を上り下りする江 口 喜美子
細すぎて干切れそうなる三日月を工事現場のクレーンが支う 三 沢 秀 敏
軽トラック帰れば庭に尾を振りぬ夫が降りてきた日のように 坂 本 芳 子
最新版ガイドブックに原発の文字ひとつなく敦賀駅過ぐ清 水 さき江
じんるりと薪ストーブを焚いている秘めた氷はとかさぬように中 澤 晃 子
ヴァンフォーレの青き旗立つあたりより小走りになる散歩のリズム 渡 辺   健
雨粒は街の静けさ奪いつつしだいに強く地面を跳ねる 保 坂 謹 也
思いだしているかのように落ちてくる桃の葉それぞれ色を違えて 小 林 ケサエ
防災のザックの乾パン期限切れ夫の癌の癒えて五年目田 澤 きよ子
退院の庭先に咲く山茶花の控えめの白秋は進んで内 田 文 惠
くすの木の木漏れ日すこし揺れていてわたしの夢をくすぐっている堀 内 澄 子
立札の文字褪せぬまま風のなか飯舘牛はどこにもいない 田 丸 干 眷
新築の主なき家庭先に被災五年目の水仙の咲く伊 達 旅 人
峠道歩みし犬の白き背に落葉松の針いくつも刺さる鈴 木 憲 仁

2016年12月号(vol.34 NO.317) 中沢玉恵 選

従順については来ても時々にひっくり返るこの掃除機は斎 藤 皓 一
沿道の八十万の群衆が万歳のごとスマホ掲げる小 林 あさこ
庭の草ぎゅうぎゅう詰めの四つ五つ袋のこして子は帰りゆく大久保 輝 子
丸の内の昼を信号待ちておりコンビニ袋次第にふえて今 井 ひろ子
力ラコ口と泣いているのにつかめない ラムネの瓶の中のビー玉   中 山 恵 理
山際の茜しばらくひきとめて背伸びしておりオフィスにひとり佐 藤 利枝子
青くって吸い込まれそうな秋の空明日は嫁が来てくれるはず田 中 治 江
軽トラが夕日に染まり田の畔にもう帰ろうとわれを呼んでる 曽 根 寿 子
この年のささぎは黒く実とならず種損手間損雨ばっかりで 古 屋 順 子
スーパーのトイレの中の荷物掛きっと毋には手が届くまい清 水 さき江
芝を刈る金属音にうろたえてわが膝にくる精霊蝗虫久保寺 弘 子
自転車で県庁までは行けるかな金木犀の結界ベール 内 藤 勝 人
靴ひもを少し緩めてスタートす晩秋の蝶が飛びてゆきたり 保 坂 謹 也
どこからか湿布のにおいただよいて今井恵子氏の確かな歌評 中 澤 晃 子
鹿の絵の十円切手の母の文エンディングノートにはさみて置きぬ平 本 已奈子
大き風われに残して走り去る白き保冷車東北ナンバー宮 内 春 枝
仄暗き無言館内聞えくる今を生きいる人の足音田 丸 千 春
食卓に皿盛りの梨好物が秋を運んで目の前に来た 笠 井 文 次
キッチンに夫が籠りて二十分庭の無花果ジュースとなりぬ西 村 鈴 子
黄金田は蜘蛛や飛蝗の棲み家なり立ち退きせまるコンバインの音杉 山 修 二

2016年11月号(vol.34 NO.316) 中沢玉恵 選

ひそかなるエールをおくるわがままな孫言いつのる「こわい先生」前 田 絹 子
隣り会うデイサービスの部屋からは体操指導の声だけ聞こゆ中 村 道 子
リオの風まあろく頬にふふみしか最終ランナーケンブリッジは藤 原 伊沙緒
自販機の入れ替え終えし青年の腰にゆれてる赤いお守り 山 本 初 子
閃光が一瞬にして引き寄せる喝采のような大粒の雨    山 口 明 美
みどり濃く棚に吊さる島ゴーヤ蝉が止まりてかすかに揺れる三 沢 秀 敏
心まで四角になってしまうから丸い型のスマホが欲しい 飯 島 公 子
古里の白雲橋のあさ六時ときめきながら新竿伸ばす 藤 原 昭 夫
目に入る汗を拭きつつ菜園に相撲取るよう草と戦う 沢 登 洋 子
ワイン用の葡萄切りゆく傍らに小さき椅子を相方として 砂 原 よし子
オホーツクの冷凍タラバガニ解けてクリオネの浮く潮の匂い来荻 原 忠 敬
雨上がりの隣のラベンダー畑よりありったけなる香りが届く 中 西 静 子
控えめな脇侍のような山茶花と夫の退く日の風が重なる 杉 田 礼 子
仏壇の奥のひらたき封筒に亡父の戦争体験記あり 岡   ゆり江
「ゴホンゴホン」と夫の咳をすぐ覚え家族となりぬインコの(ペコは)田 澤 きよ子
供えると言うより飾るが似合う花君が好みしコスモス一輪長谷川 君 代
「女座敷表」と上書きありて婚礼の席順を知る明治時代の田 丸 千 春
胸までの畑の草を掴み取り泥の軍手に汗拭いたり 横 内   進
蕎麦の実が三角と知りおどろきて研修生らの刈り取りたのし小 林 ケサエ
飼い猫に「アポロ」「銀河」と名付けたる次男夫婦の夢を想えり福 田 君 江

2016年10月号(vol.34 NO.315) 中沢玉恵 選

一枚のブラウス選ぶ我がことのあまりに小さし八月六日石 川 輝 子
戦死することを「散る」と言いし日々兄の散りにし八月の来る小田切 ゆみゑ
雨の日のいつもの眼科ロビーにはだれも乗らない木馬がふたつ小 林 あさこ
こんにちは、声をかけ合う木道に尾瀬七月の風すれちがう山 本 栄 子
忙しく三日とらずにいた茄子はやや大きめのお盆の馬に鈴 木  源
とりたてて言うほどにない一日の流れの中の赤いガーベラ飯 島 公 子
太陽という名の李この一つ椀げば今年の作業が終る沢 登 洋 子
五十歳の知恵うすき子の広き背を八十歳の夫が流す曽 根 寿 子
つまれたる書道半紙は茶の菓子の包み紙にとわたしがつかう古 屋 順 子
雄大な北アルプスを天守閣の目線にのぞむ今日は「山の日」日 向 このえ
噴水のみずのドレスがかがよいてポケモンGOがそこに來ている内 藤 のりみ
せいせいと素足踏みゆく板の間の百年のつやはりつくごとし望 月 迪 子
また別の風が北から吹いてきて画鋲は夏を落としてしまう杉 田 礼 子
そのつもりだったのだろう意思のある南瓜の花に聞いてみたくて佐 藤 ゆ う
ルーティンの散歩に寝坊する犬ら錦織圭はああ銅メダル笠 井 芳 美
ぽたぽたと無知な小粒の青柿を拾い集める八月の朝斉 藤 さよ子
砂浜にひ孫の作る夢の城波がざふっとみなさらいゆく三 枝 幸 子
肺の影の経過観察十五年寛解となり空を見上げる佐 藤 幸 子
朝露を踏んで稲田へ急ぎ足青い穂を抜き穫れ高を読む横 内  進
この海が浚いてゆきしもの数多それでもここで生きると店主田 丸 千 春

2016年9月号(vol.34 NO.314) 中沢玉恵 選

コンテナの重さに軋む股関節猛暑にやっと慣れてきたのに砂 原 よし子
大根の輪切りのような白い月シンプルライフ目標にせよ山 囗 明 美
首振りを止めてしまった扇風機卯の花いため匂いはじめる中 村 道 子
このようにしんどかりしか朝明けの寝起きに遠き母を重ねる依 田 邦 惠
切傷に火傷に効くらしヘビイチゴ梅雨の湖岸に赤く灯れり藤 原 伊沙緒
郭公の遠鳴き聞こゆ年々に膨らみてゆくわが天邪鬼浅 川 舂 子
急がねばならぬことなきわが暮らし青の点滅赤やがて青室 伏 郷 子
兄夫婦に飼われ始めしミニ柴の写真二枚がスマホに届く米 山 和 明
家庭葬のホールオープン見学しワインとティッシュ、じゃが芋もらう飯 島 公 子
本棚は他人の歌集で溢れいる 入道雲が高さをきそう内 藤 勝 人
オスプレーの動きのようなみずすまし水辺の平和奏でていたり内 藤 のりみ
高齢の男女集えるスーパーの無料イベント老いた歌手来る前 田 絹 子
認知症をうたがわれたる言の葉の打ち消せぬまま木橋を渡る宮 内 春 枝
支援金は八千円で一致してシルバー会の例会終える平 本 巳奈子
露天風呂で本を読んでるばあさんは私であるらし声かけらるる佐 藤 ゆ う
次つぎに桃の袋をはぎゆけば舞い上がる毛が銀色に光る岡   ゆり江
イギリスの事情はさておきレコードに針を落して聴くイェスタディ甘 利 和 子
食足りて戦争無くて揚げ茄子の色をたのしむこの夕まぐれ青 柳 順 子
畦道に見知らぬ若き顔もあり田植はじまる日曜の朝角 野 成 子
夕餉には地産地消の海の幸目が楽しんでいる山国育ち杉 山 修 二

2016年8月号(vol.34 NO.313) 中沢玉恵 選

ぐっさりと手がんなの刃を引く時に地下茎という繋がりを断つ堀 内 和 美
千年のむかしにもありし引きこもり紫式部も五箇月ほどを小 林 あさこ
「すみません」今日幾度の言葉なり年をとるとはこういうことで中 村 道 子
引き出しの奥はさびしい国鉄の切符二枚がしまわれていて 長 坂 あさ子
父母はシナ・クナと忌みていたりけりされど四日に籾種を播く山 本 栄 子
五十キロの制限速度の県道を五十キロ走行のあとをつき行く川 井 洋 二
コンビニのおにぎり上手く開かない 大統領が折った折鶴深 澤 靖 子
手のうちにほど良きおもさ残しおり炭酸水の青きあきび佐 藤 利枝子
アカシアの花のさかりがめやすなりデラウエアーのジベ処理をなす鈴 木  源
明日からテストだという少年の背に跳ねている〈なんくるないさ〉古 屋 順 子
手押し車おしゆく母に歩を合わすニセアカシアの匂う川べり清 水 さき江
盛り上がりまた盛り上がる湧水は地球の鼓動 畏れつつ覗く望 月 迪 子
空高く曳航され來しグライダー鳳と化し何処をめざす内 藤 勝 人
水張田に風波生るるつかの間を散歩の汗がさーっとひきぬ飯 島  今子
いくつもの病気と小さなリュック背負い小田切さんが歌会にくる中 澤 晃 子
河川敷にニセアカシアが匂いくるあの子狐はおおきくなったか佐 藤 ゆ う
わが膝の人工関節たのもしく東北四大まつりへ行かん古 屋 あけみ
部活する生徒のいない運動場日曜午後は風遊ぶ庭依 田 郁 子
懐古園の花の下なるオカリナの「さくらさくら」の胸にしみいる佐 藤 幸 子
葉のかげに青実びっしりつけている姉さんかむりの動く梅畑大久保 公 雄

2016年7月号(vol.34 NO.312) 中沢玉恵 選

いっせいに高校生が礼を言う目立たぬように入れた硬貨に今 井 ひろ子
百日草もレタスも育つと宇宙船われは地球に春の種蒔く山 囗 明 美
やわらかな山椒の芽を摘みたるは一日増えしわれが休日内 田 小百合
一人より二人はすてき手際良く柘植の生垣刈り込み終わる 窪 田 喜久子
温といのを四つ冷たいのを三つ浅利さんの声いとぬくとくて浅 川 舂 子
同窓会より酔いて帰りし夫の手が記念のガーベラしっかりにぎる曽 根 寿 子
朝の陽が障子に差してゆらゆらとゴールドツリーの影絵をつくる赤 岡 奈 苗
三世代うから集える子供の日バット振る子が主役となりぬ橘 田 行 子
一枝にふた房のこし摘みおとす幼きぶどうに優劣つけて久保寺 弘 子
思いどおり苗育ちたる四月尽保温シートをゆっくりはずす古 屋 順 子
捨て置かる畑といえど踏み入れず今が採りごろ蕨山ぶき望 月 迪 子
ペンライト揺らす市民の言祝に大村博士のめがねがくもる内 藤 のりみ
朝々に「久しぶりだね」と待つ人の食事つくりて五年となりぬ平 本 巳奈子
「長時間座れる椅子に変えました」パチンコオーシャンの色めくチラシ中 澤 晃 子
震災地からこの日入荷の紅甘夏くまもんの紙入りて香れる内 田 文 恵
玄関に名刺を添えて置いてあるだるまのような筍二本秋 山 眞 澄
できぬのを寒さのせいとしていたり四月の風が背を押してくる甘 利 和 子
分譲地の真ん中あたりに作られしぶらんこふたつ揺らす風あり角 野 成 子
息子さん定年となりわが町の自転車屋さん復活したり伊 藤 于永子
魚屋さんズンドコ節を響かせて青葉の下を団地へ向かう横 内  進

2016年6月号(vol.34 NO.311) 中沢玉恵 選

スマホに変える、電力自由化、答えずに腰へ湿布を手さぐりで貼る小田切 ゆみゑ
少しずつ描き足すようにさみどりの葉を増やしゆく公孫樹の並木内 田 小百合
サバンナの木漏れ日のようのっぽりと麒麟三つが朝のしじまに藤 原 伊沙緒
検索のレシピの大さじ倍にして春のキャベツを芯まで刻む 依 田 邦 惠
下校の子黄色い旗を振りながら雉の鳴き声まねして過ぎる三 沢 秀 敏
閉ざされた校門前に手をつなぐ子供二人の横断標識川 井 洋 二
濁川をオアシスとしてこの昼を鴨とカメとが並びいねむる米 山 和 明
全身が急速冷凍されていく同病の友今朝逝きたりて志 村 栄 子
春の畑へきょうふみ出だす第一歩土の凹凸足裏にやさし久保寺 弘 子
申告の数字もつれる夜の間を雨ひそひそと身を浸しくる望 月 迪 子
花便り花粉だよりとこの頃を出番のふえたローションティッシュ日 向 このえ
神之原に近づいてくる御柱木遣りの声が風に聞こえる(茅野市玉川)清 水 さき江
切るところ縫うところ自き印あり六年生のエプロンの生地中 澤 晃 子
圧雪の歩道に二本のカート跡残して息子帰りゆきたり長谷川 君 代
あの事はもう勘弁してもらいたいまた曖昧な夢から覚める山 下 愛 子
大丈夫君はいい子と言い聞かす犬の瞳に映るわれにも笠 井 芳 美
米を研ぐ朝の水の心地よし有線放送開花をつげる角 野 成 子
スカートの裾の高さに桜草 卒園式の入場進む浅 川  清
種いもの芽を探しつつ切り分ける母亡き後のはじめての春永 田 はるみ
友がみなLINEというを楽しめばスマートフォンに私も迷う佐 藤 幸 子

2016年5月号(vol.34 NO.310) 中沢玉恵 選

ゆるやかな上昇感に抱かれて今年最後の雪をみあげる佐 藤 利枝子
申告の順番を待つ 体温ののこれる椅子を移りながらに中 村 道 子
〈ジュピター〉に着信音を変えし朝わたしは何を待つというのか山 本 栄 子
この辻の大き桜樹なくなりて風邪ひきそうな空がひろがる内 田 小百合
ひよどりが蜜によりくる蝋梅は今日もむかしも亡き母の花依 田 邦 惠
休耕の田を真四角にほとけのざ今年も花を色濃く咲かす浅 川 春 子
五アールのキウイ作りし日のありき夢は真白き花を抱える田 中 治 江
ハーメルンの笛吹き人はどこへゆく海辺の町に粉雪のまう瀬 尾 典 子
やま盛りの菜の花パスタ絡めつつ半年分の身の上を聞く砂 原 よし子
水替えの網にすくわれ時の間を金魚は朱く艶めきにけり坂 本 芳 子
枯るるもあり生き延ぶるもあり早春の光に当てる鉢の数々丸 山 恒 雄
ヌートリアだって過食はしませんよ夜更けにスナック菓子など食べて荻 原 忠 敬
それぞれに思いかかえて椅子を立つペーパーカップにお茶は残りて平 本 巳奈子
スポーツジムに中国会話たかく飛び交いてひるみそうなり日本人われ佐 藤 ゆ う
四年間の荷物は車一台分煙草の匂い漂わせており笠 井 芳 美
なにごともほめ上手なる友なればサクラ草大鉢抱いて手をふる宮 内 春 枝
公園の遊具指さし「触ってもいい」と聞くなり福島の子は田 丸 千 春
好きなもの、猫と自由と便利グッズ 七十歳を越えて定まる浅 川  清
ピシッ・ピシッと難聴の身に響きくる剪定の音こころよきかな広 瀬 久 夫
海風と折り合いてきし写真館昭和の家族の笑顔飾りて福 田 君 江

2016年4月号(vol.34 NO.309) 中沢玉恵 選

姿見のうすきほこりを払いつつ手ばなすための着物を選ぶ今 井 ひろ子
『アンナ・カレーニナ』の最終章を思わしむ北風の中の鉄を打つ音小 林 あさこ
花壇より掘りおこされし雨蛙地中の息をはかなくもちて長 坂 あさ子
今日だけの暖かさかもウォーキング帰りに寄って大根を抜く石 川 輝 子
クレーンの先伸び上がり日に向かい一礼をする一月四日飯 鳥 公 子
一月に台湾坊主あらわれて山梨あたりに大雪降らす鈴 木  源
剪定に洩れし巨峰の長き蔓そろりそろりと棚這いあがる赤 岡 奈 苗
菜園の最後の大根今日抜きぬ根も葉もしっかり食べてあげねば長谷部 静 子
富士見へと向かう車窓に八ヶ岳の峯ゆったりと間延びしてゆく望 月 迪 子
週末の祈込広告ずっしりと数枚に雛の笑顔が見ゆる日 向 このえ
あつあつの甘酒一杯手渡して盛る焚火を囲みていたり砂 原 よし子
つつまれた新聞紙からすらり伸び大塚人参艶つやとくる内 藤 勝 人
琴バウアーのごと南天がゆっさりと凍てつき幹のうら側を見す丸 茂 佐貴子
シルバーカー押して窓辺に立つ人にもういいからと手を振りかえす平 本 巳奈子
ジビエとう鹿肉届くステーキがイケるとメモが書き添えられて 岡  ゆり江
風に乗り蜘蛛は千里を飛ぶという納税申告時期の近づく田 澤 きよ子
一日中何もしないことにするせっかく風邪をひいたのだから佐 藤 幸 子
おだやかで我慢づよいと子は吾を語りておりぬ医師に問われて青 柳 順 子
新聞がカップの位置が朝のまま変わらぬことがひとりの暮らし田 丸 干 春
泥漬けは吾がふる里の冬の昧大根の土軍手でしごく角 野 成 子

2016年3月号(vol.34 NO.308) 中沢玉恵 選

しろばんば飛べば母来る気配して肉じゃがの鍋温めなおす深 澤 靖 子
黒豆がふっくら香るぬるき午後「シャガール」夫は念入りに拭く藤 原 伊沙緒
この子は童謡カルタが好きという「こんと狐が鳴く」のが特に山 口 明 美
小鉢には山盛りの塩そのドアを私はあけてもいいのでしょうか今 井 ひろ子
湯上りを爪切りながら視るラグビーサモア反則アッと深爪堀 内 竹 子
五十年使って今朝も機嫌良し食器戸棚の蝶番かな飯 島 公 子
難聴者協会設立十周年男子はネクタイ着用のこと石 原 久 子
フィナーレはみんなで歌う「麦の唄」軒の干柿夕日にゆれて三 沢 秀 敏
結球になりそこなった白菜がうつらうつらとしてる日だまり久保寺 弘 子
ホームでの母の年越しカレンダー奥村土牛の梅を咲かせて前 田 絹 子
稜線の向こうに残る夕明りハグする習い吾にはなくて清 水 さき江
座るたびスーツのボタンはずしてるナイスミドルになれるかオバマ内 藤 のりみ
お互いのリュックの大きさ見比べぬ登山ではなし歌会にゆく佐 藤 ゆ う
たかが二年成人式に集いいるされど二年のそれぞれの道笠 井 芳 美
やわらかな冬陽のなかにッ前山は散髪したてのようにかがよう中 澤 晃 子
この昼はネットスーパーに入店しお米5キロと豚肉少々飯 島 今 子
この町は何処にいようと富士が見え私はずっと逃れられない堀 内 和 美
遠足を終えて干さるるスニーカー向かいのベランダお隣の庭角 野 成 子
消え残る飛行機雲を夕焼けが一直線の虹に変えたり依 田 郁 子
餅搗きを続けて今年六〇年握った手形を杵に残して横 内  進

2016年2月号(vol.34 NO.307) 中沢玉恵 選

秋の陽が柔らかに来る図書館に手を触れてみる洋書「バイブル」山 口 明 美
原節子逝きて昭和はなお遠く秋晴のない秋が過ぎゆく小 林 あさこ
ノルディックポールに頼り登る坂子どもの頃は遊び場たった山 本 栄 子
銀行の椅子に待ちおり横切れるひとの誰にも会釈のなくて竹 内  輝
白樫の枝を突きつつ下りゆく猪の跡ふかく残さる浅 川 春 子
三匹が二匹になってぽっちゃりとまだらの琉金二年目の冬飯 島 公 子
一片のアップルパイをもてあましフォークは円をなんども描く佐 藤 利枝子
この辺が身の引きどころ三代のたばこ小売を店じまいする曽 根 寿 子
うすらかな霜は朝日にとけながら柿の落葉が朱を深めゆく坂 本 芳 子
苔玉の楓静かに葉を落とす水盤の中秋は終りぬ望 月 迪 子
セーターにのこる焚火のにおいごとくぐりぬけたり今朝は寝ぼけて前 田 絹 子
錦秋のゴブラン緘の七里ヶ岩 大村博士の受賞祝えり 日 向 このえ
すっぱさのほどよきほおずきプリン食む過疎の町なるプレハブカフェー中 澤 晃 子
売れゆきの鈍い土葱やわらかくはじけるような旨味をもてり内 田 文 恵
信号を待つ数十秒目礼をかえしてくるる紅きバラあり勝 村 真寿美
ケイタイで話せばおわることだけどワンマン電車に芦川わたる宮 内 春 枝
冠雪の富士の見守る歩道橋 黄色の帽子がぽこぽこ渡る堀 内 和 美
チラーヂン副作用あるも付き合いて生きんとわれは飲みつづけゆく佐 藤 幸 子
祖父も父もこの傾斜地を耕せり腰痛堪え吾も踏んばる広 瀬 久 夫
通知票マイナンバーを手にとればいよいよ雁字搦めの余生大久保 公 雄

2016年1月号(vol.34 NO.306) 中沢玉恵 選

干し柿に一日をまわす扇風機ときあかりして降りつづくなり浅 川 春 子
ふくらかに新米香る朝なり一年生の乳歯がゆらぐ 依 田 邦 恵
熱の子の代わりに秋の午後をきてグレンミラーのサウンドに酔う藤 原 伊沙緒
会場よりもち来し悔いがすっぽりとレインコートに包まれている長 坂 あさ子
そういえばただみつめらる広辞苑スマートホンは撫でられるのに中 村 道 子
たんぽぽの綿毛撮らんと腹這いて夕日の中にとびたつを待つ藤 原 昭 夫
シルバーパス使いこなして日盛りの街に出ずれど一人はひとり室 伏 郷 子
アラームを振り払うごと背伸びする両手にふれる朝の冷たさ佐 藤 利枝子
五線譜のように張られし電気柵スイッチ入れて帰りきたりぬ清 水 さき江
紅の落葉を結球に巻きこみて白菜日ごとにそだちゆくなり古 屋 順 子
晩酌に障ると口にしなかったカレー今夜も食していたり内 藤 勝 人
秋の日の学園祭のきらきらのネイルアートに指を差し出す 久保寺 弘 子
あっさりと「今日はおっぱい縫ったよ」学生医師(スチューデントドクター)の医帥(ドクター)の顔海 瀬 く み
間延びしたままの歌稿をポケットに歩いて一分投函に行く杉 田 礼 子
大根の九十キロを洗い上ぐ小室の柚子がもう届くころ岡   ゆ り 江
真昼間の風にあおられワラを燃す煙がわれの車体呑みこむ中 澤 晃 子
どこまでも秋空に浮く飛行機雲ゆっくりほぐす毛糸のように永 田 はるみ
蔦の湯の源泉温くほっこりと乳酸というがとけ出すような佐 藤 幸 子
右ひだり揺れながら来るランドセル秋の夕日に追いかけられて角 野 成 子
八ヶ岳富士を左右に仰ぎみて自転車仲間ともみじの道を浅 利 尚 男

2015年12月号(vol.33 NO.305) 中沢玉恵 選

みずからを朝の冷気にみがきいて花水木の実鳥を待つらし岡 な な を
九・一一テロにそびれしパスポート開かぬままに終活に入る依 田 邦 恵
ノーベル賞のよろこび皆で頒とうと防災無線に市長の声す山 本 栄 子
青年が入れ替え終えて出でゆけり無糖コーヒーホットとなりて山 本 初 子
「主婦なんてよくやってるね」と言われきて今宵のカレーすこーし辛い中 山 恵 理
カタカナの葡萄と並び変わらない甲州ぶどうのあわき紫飯 島 公 子
じわじわと奥歯の痛み増してくる見なけりゃよかった国会中継三 沢 秀 敏
ようやくに葡萄のとり入れ終わりたり初冠雪の富士撮りにゆく鈴 木  源
薄闇をうけいれしころゆびさきは高野聖を書棚にさがす佐 藤 利枝子
こらしょっと畑いっぱいの蔓引けばハロウインに行く顔がぞろぞろ丸 山 恒 雄
収穫を了えるまではとこの朝もウエーブのびし髪にブラシす久保寺 弘 子
大室山のリフトに二人秋風は光を連れて追い越してゆく坂 本 芳 子
ちゃぼひばをぐんぐん刈ってゆく夫脚立の高さはそこまでですよ古 屋 あけみ
掘れば埋め掘れば埋めたる狐の巣檜林に今日も枝打つ清 水 則 雄
手に取れば爆発しそうな黒いナス今出来ることを考えてみる卜 部 慶 子
この二年屋根より高き雑草にわがお隣は覆われている山 下 愛 子
刈田にはキャタピラの跡くきやかに幾何学模様ナスカの文字か杉 山 修 二
まだ青きどんぐり落ちてくる音が聞こえるような早朝ウォーク田 丸 千 春
ヘアカットするもされるも無精ひげ店の主は教え子夫婦田 村  悟
青年僧般若心経の息つぎにわれの唱和がときどきずれる佐 藤 幸 子

2015年11月号(VOL.33 NO.304) 中沢玉恵 選

一房ごと紙の舟へと包み込むシャインマスカット旅立つ朝坂 本 芳 子
雨音に消されなからに聞こえくる演習場の大砲の音小佐野 真喜子
参道の小石を拾って下さいと触れる人あり 横綱のため山 本 栄 子
身はすでにかたちなくして数本の緑の芽をば伸ばしつづける中 村 道 子
眼には蚊を耳には蟬を住まわせて今年の猛暑ようやく越えぬ堀 内 竹 子
お施餓鬼の太鼓に風の少しある一拍休みのリズムにのりて依 田 邦 恵
痩せていく母の姿を犬が見る散歩に出よう明るいうちに米 山 和 明
右手には内緒にしていることだけど箸はやっぱり左手がいい深 潭 靖 子
ジベレリンの効果はなくて三千のデラウェフの房落としたり赤 岡 奈 苗
バーベキューの匂いを含む夕風が生れしばかりの稲穂をゆらす清 水 さき江
両の手に刃先を包み研ぎてゆく明日は千のぶどう切り込む久保寺 弘 子
もうとうに開通したはずカーナビは頑固者だよ 曲がれまがれと
内 藤 勝 人
プレミアム券利用の客のぐっと減りサルビアの花朱を濃くする内 田 文 惠
浴室にもあんと湯気を閉じ込めて息子出でゆくクラス会へと望 月 迪 子
きゃっきゃっと乳呑み児あやす二歳なり二人に分かる二人の世界中 西 静 子
一段ずつ脚立を登りこの秋の見えないものが見える新鮮望 月 嘉 代
小高駅に通学自転車並びいる強制避難その日のままに 田 丸 千 舂
兄弟の七十過ぎが六人の兄弟船でギネスをねらう浅 利 尚 男
忙しくお盆を送り雨の日の今日恵まれし一人の時間渡 辺 なつき
マスターのトランペットがとつぜんにわが誕生日祝ってくれる佐 藤 幸 子

2015年10月号(VOL.33 NO.303) 中沢玉恵 選

桃太郎花ぶるいして実となれず緑ふかぶかトマトの畑古 屋 順 子
適切にエア・コン使えと有線放送が青き稲田を戦がせながら大久保 輝 子
合唱の声はいっぽんに透き通り「キリエ・エレイソン」天上までも山 口 明 美
朝一番のゴンドラ清しうすらかに海霧まとう女らをのせ藤 原 伊沙緒
捨てられるものいくつある日盛りをすぎて芝生は息ふきかえす岡  ななを
満ちゆける海をふるふる泣かしつつ沈む陽キザな男のように中 山 恵 理
八人が耳を澄ませるスマホよりモリアオガエル鳴き始むなり浅 川 春 子
日盛りにまだらな蝶の舞いており時折ふれるセージが香る橘 田 行 子
身の丈をこえし頑張りおもいつつ炭火の炬燵はほこほこおこす藤 原 昭 夫
言いたいこと半分くらいは呑み込める缶ビールの蓋カチリとあけて坂 本 芳 子
勢いのいちばん高いジャグジーを確かめてから仰向けに寝る丸 山 恒 雄
朝まだき堅樋を登る蟷螂のけんめいの脚空を蹴りいる
加々美  薫
太陽をポケットにしまい吾は行く老々介護の家庭訪問丸 茂 佐貴子
ほどほどに放っておいた栗南瓜東京帰りの娘に食わす海 瀬 く み
カラフルな五本すべての色違えネイルアートの指がレジ打つ佐 藤 ゆ う
アスファルトを避けつつ歩くドゥードルは風を探して空を見上げる笠 井 芳 美
八十歳にして初めての観覧車彼につきあうおみな三人田 澤 きよ子
リハビリをはじめし頃の朝顔が窓辺に伸びて青々と咲く角 野 成 子
蚊取線香の煙の中に夜がふける段々重い読みかけの本依 田 郁 子
初孫の湊太は港 猛暑日の老老介護に笑顔を集む田 村  悟

2015年9月号(VOL.33 NO.302) 中沢玉恵 選

沖縄戦に逝きたる若き兄のこと、最後に何を食べたのだろう石 川 輝 子
日がのぼる前のひととき山小屋の屋根に木の葉の降るおとを聴く小 林 あさこ
アスターの根付きたしかな朝の雨割りし玉子は黄身ふたつなり伊 藤 春 江
あるかなしかの風はわが肩ふれてゆくしずかに寄りてくるもの怖し岡   ななを
大小の爪切りがあり連合いの爪の硬さをわれは知らざり飯 島 公 子
ボリュームをレベルの4に引き上げて郭公鳴きつぐ桃畑のうえ三 沢 秀 敏
棒立ちの脚を養い選果所にマンボステップふむ昼休み浅 川 春 子
雨の中を傘も持たずに歩きたい病院ぐらし長くしあれば田 中 治 江
紙袋つぎつぎとはぐ桃の実がほの青白き産毛を散らす坂 本 芳 子
夏空をしたがえて咲く向日葵のまっすぐな影あしもとに落つ佐 藤 利枝子
老いて住む門に真昼の灯をともし凌霄花のシャンデリア垂る前 田 絹 子
房なりの胡桃が雨に光りいる子のプロポーズ受け入れられて清 水 さき江
三時に起き桃の畑に行くというあの人に送るカルピスの昧内 藤 のりみ
蔓一本切ると葡萄のすき間から朝の風が流れくるなり砂 原 よし子
道端に蛇くろぐろと乾きおりわが難病はいつまでのこと武 藤 睦 子
友だちの弁当もらうのダメだって「アレルギー事故防ぐためです」中 澤 晃 子
たわいなき会話を終えて病状を知らざる兄の一人部屋去る平 本 巳奈子
車庫に一つ庭に一つと椅子を置く足の不自由な夫の居場所田 澤 きよ子
ジグザグに日陰をひろうウォーキングほたるぶくろの咲く道をゆく浅 川  清
あの時と同じ空気と戦争を知る年代が危ぶむ政治田 丸 千 春

2015年8月号(VOL.33 NO.301) 中沢玉恵 選

大いなる影にわが家を呑み込みてハングライダーゆうゆうとすぐ岡  な な を
チャイニーズの高き口調が飛び交いてリンゴ三個が買われゆく昼内 田 文 惠
カタカナの抑留死亡者名簿5ページを声に出し読むまだ半ページ竹 内   輝
鳶ならず鴉にあらず蒼穹をドローンらしきが近づきて来る堀 内 竹 子
たかたかとたけのこザックに二本挿し兵士のような女らが行く藤 原 伊沙緒
木蓮の若葉ゆれいる縁側に今日四度目の目薬をさす橘 田 行 子
摘みたての新茶の旨み日曜の朝の腰椎5番に沁みる中 山 恵 理
里山もそれぞれ個性がありましてこんもりきりりふっくらぺしゃん川 井 洋 二
運転手はバスのドアから逃がしやる我と一緒に乗りたる蝶を曽 根 寿 子
いっしんに背伸びしており朝顔の幼い蔓の先にある夏佐 藤 利枝子
命令形を愛と思いし日もありぬ燕のさえずり今日は安らか清 水 さき江
今朝もまたちょっくら見てくれ携帯に妻を亡くした健さんが呼ぶ
古 屋 順 子
初ものが蓑で持ち込まれる里ぐらし今日は竹の子土を抱いて渡 辺   健
「どこかでね気にしながら放っとくの」蘭を咲かせるコツを聞かれて桜 井 憲 子
むかし話の鬼は金棒持っていたあばれてほしい日本の力士内 藤 のりみ
土手沿いに旗ふるようなキンポウゲがんばれ私がんばれるから勝 村 真寿実
みんなみの高い方よりひびきくる一年ぶりのほととぎすの声小 林 ケサエ
気の遠くなる程の粒摘果するエベレストだって一歩一歩だ広 瀬 久 夫
はるみちゃん蛙の声はいいものねぽっつりと言う一人居の叔母永 田 はるみ
見せたいと言われた景色空までもつづく並木は落葉松の道田 丸 千 春

2015年7月号(VOL.33 NO.300)  中沢玉恵 選

それぞれに思いはありて帰りゆく公民館の固き座布団岡    ななを
もう夫は特養ホームにも居ないうつぎの花の白すぎる白小田切ゆみゑ
運転士にあやまりながら降りて来ぬ一人占めして甲府駅なり中 村 道 子
クライミングの力ある声故郷の鋏岩より風にのりくる山 本 初 子
お返しに三日月ひとつ送信すLINEの中の織姫さんに米 山 和 明
しだれ梅の紅の花びら散る庭を振り返り見てまた入院す田 中 治 江
月食が見える見えぬも運次第ノンアルコール飲んで待ちます三 沢 英 敏
今日ひと日晴れの予報に交配の毛ばたき跳ねる昏くなるまで石 原 久 子
菜園の頭上とびゆく五位鷺はごあっと一喝われに浴びせて久保寺 弘 子
あさ風にオールドローズ香り立ちくちびるにおくピンクのグロス佐 藤 利枝子
わが村に張り巡らさる電気柵この朝鹿の領域に入る清 水 さき江
知る限りのことばを全て披露する売られゆくこと鸚鵡は知らず加々美  薫
裸眼でははっきり見えぬ運命線この夜記憶は皮膚呼吸する内 藤 のりみ
100メートル桐生が十秒切ったというそんな追風に吹かれてみたい海 瀬 く み
城跡の昼の空気に交じり合う竹刀の音と気合の声と佐 藤 ゆ う
あごひいて少し歩幅を広げればシャツふくらますさみどりの風勝 村 真寿実
玄関の横に置かれた椅子ひとつ施設のバスを待つ母の椅子依 田 郁 子
待ち侘びし親族総勢二〇人笑い声にて鳩がとびたつ三 枝 幸 子
この林ヘッセの匂いがするという君の心のゆたかなるかな浅 利 尚 男
アマリリス真紅の大輪咲きそろい吾ら「七十路貯金会」なり渡 辺 なつき

2015年6月号(VOL.33 NO.299)  中沢玉恵 選

富士山に二ヶ月早く飛来せる農鳥日本に何をもたらす田 村   悟
桜ふる真昼の道を一本の綱に曳かれて園児らがくる山 田 杞 子
富士に対きメガソーラーの基礎は立つさながら墓の群れのごとくに山 本 栄 子
はばたいてとんび飛びいる三月の光に羽を洗いいるらし長 坂 あさ子
脱輪は左のうしろ花冷えの風に吹かれてJAFを待ちいる小 林 あさこ
どこに居ても二時には夫が帰り来る「黄門さま」のドラマ見んとて曽 根 寿 子
鉱泉を通すパイプの掃除するズボンに白い湯の花つけて藤 原 昭 夫
霜害をまぬかれたりし白蓮の白鳥のごと夜目に明るし橘 田 行 子
樟は赤いテープの帯まかれ散歩コースのわが道祖神室 伏 卿 子
きつく巻きぱっと放したゼンマイの玩具のように千鳥行き来す前 田 絹 子
ミルフィーユかさねしパイはさっくりと砕けてしまう決意とともに佐 藤 利枝子
JAの倉庫の隅までびっしりと肥料袋が積まれいる春清 水 さき江
左手で名前を書けばはつかにも怒りらしきの薄らぎゆけり日 向 このえ
静寂にかすかな重み感じおりヘリコプターの去りし図書室望 月 迪 子
この朝も息子が飲んで出掛けます夫に供えたホットミルクは中 西  静子
急行を先に走らせのんびりと各駅電車は花分けてゆく宮 内 春 枝
みっしりと仏の座咲く梅畑に回転上げて除草機を繰る砂 原 よし子
「じゃがいも花見の季にうえなさい」桜を見れば母を思い出す横 内   進
<県内の放射線量異常なし>小さな記事が必要な国田 丸 千 春
アルプスを総嘗めにするからっ風日本平に吹雪を飛ばす広 瀬 久 夫
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