第39回みぎわ賞受賞作品

天国語          荻 原 忠 敬

  • 桃に生れ桃に生業(なりわい)桃に死すゆたかなるかな桃との対話
  • 実の色が朝の葉叢に見え初める六月の四時桃椀ぎ始む
  • 桃若木広ごる村の一角に老木ばかりとなりたるわが畑
  • 桃の木のわが剪定をほめながら妻はひたすら枝を集める
  • 三食後を眠り眠ってなお眠し死とは眠気の先にあるらし
  • 老翁と言いてむべなる八十歳 一歩一歩を手摺りに頼る
  • 蹲踞に積もりゆく雪眺めつつゆっくり退屈八十路の時間
  • 酷暑日の昼というのに吉宗が疲れを見せず人を斬りゆく
  • 年老いて今日も開けるパソコンに淫画映り来これもまたよし
  • 日に30本吸いしあり現身もいずれは荼毘のひとすじの煙り
  • シンプルな一汁二菜念頭にこの先八年米寿を目指す
  • 烏克蘭(ウクライナ)の漢字表記を憶えたり 裏痔見腐沈(ウラジミールプーチン)なども併せて
  • 開拓団集団自決の業の火を脳(なずき)に焼きて命老いゆく
  • 前方に夕映えの富士想い出の人を浮かばせまた消しながら
  • 近藤勇(こんどう)と板垣退助(いたがき)が戦争(いくさ)せし峡を令和の鹿が並びて歩む
  • 一人娘へ学費振り込む張り合いを卒えてからはや三十年なる
  • 石板と石筆世代のまなこにはランドセルにゆくタブレット眩し
  • 八歳児のお年玉へのお返しは「♬・・億、兆、京、垓(がい)・・」とう唄なりき
  • 赤褌添え百歳(ひゃく)まで生きよとて教え子よりの傘寿祝は
  • 天国語デジタル会話学習機欲しいと思うことありこのごろ

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